第31話 ラーメンからの期待
アトラクションを出た俺たちは食事へ向かう。
「こういうところのレストランって高いんだよね」
「そうだな。お前、金大丈夫?」
「将軍様は元気なんじゃない?」
「いや、キムじゃなくて金だよ。なにキム大丈夫って質問? なんで俺、いきなり例の将軍様の心配し始めてんの?」
「夜斗はやさしいからね」
「やさしさを向ける方向がおかし過ぎるだろ」
「夜斗のやさしさは北へは向いてないってこと?」
「そういう意味での方向じゃねーよ」
「まあミサイルの照準は東に向いてるけどね」
「思想強い話はやめろっ! 夢の国やぞっ!」
「将軍様はミサイルに夢と希望を詰め込んでるんだよ」
「ミサイルに詰まってるのは殺意だけだよっ!」
「お金は大丈夫だよ。ちゃんと持って来たから」
「急に話を戻すなっ!」
ということで、俺たちは園内のレストランへ入る。
こういうところのレストランは本当に高いんだよな。
俺はともかく、大食いの情美が心配だった。
「豚ニンニクラーメンマシマシチョモランマビッグワールドひとつ」
「いや、そんなのあるわけねーだろっ! 夢の国やぞっ!」
「へいっ! 豚ニンニクラーメンマシマシチョモランマビッグワールドひとつお待ちっ!」
「あるんか―いっ!」
夢も希望も無い、エネルギー補給に特化したガソリンのような食物である。
「ムシャ、ハム、モグ、ズゾゾゾゾ」
「なんかめっちゃ食べるね姫路さん」
「モグモグ、モニュ、ハグ、ング、ムシャ」
「む、無心で食べている……。まるで真剣勝負をする侍のよう」
「食べるの好きだからなこいつ」
「ズズズズズ。ごっそさん」
「もっと味わって食えよ」
一番大量に食って、一番最初に食い終わってしまった。
「ごにょごにょ」
「うわニンニク臭っ! えっ? 食は真剣勝負。ラーメンとの戦いで期待を裏切るわけにはいかないって、別に期待なんかしてねーよ。夢の国でラーメンと勝負するな」
「わたしも姫路さんを見習ってラーメンと殴り合おうかな」
「ラーメンと殴り合うってなに? ラーメンが一方的に殴られるだけだよ」
「天陽は普通に食ってればいいから」
「陽ちゃんはわたしに普通を要求するの? わたし普通は嫌だな。ラーメンから期待される女になりたいの」
「ラーメンから期待されてるのが俺の女とかちょっと嫌だよ」
「陽ちゃんは心が狭いよ。イッツアスモールワールドくらい狭いよ」
「まあまあでかいじゃねーか」
「ごめんっ! 心が狭くても陽ちゃん大好きっ!」
「ごめんっ! ラーメンに期待されてても俺も天陽が大好きだっ!」
テーブルを挟んだ向かいで抱き合うバカップル。
一方、俺の横ではニンニク口臭女が楊枝で歯をゴリゴリしごいていた。
「あ、そろそろパレードの時間じゃない?」
「うん? ああそうだな。天陽、あれ好きだもんな」
「陽ちゃんと一緒に観るのが好きなの」
「俺はお前を見てるほうが好きだよ」
「やーんもう陽ちゃんたらー」
……なんでこんな陽キャのラブラブ模様を見せつけなければならないのか?
恋人のいない陰キャな俺は惨めな気分になった。
「夜斗もあれ好きだよね」
「うん? ああまあ別に嫌いじゃ……」
「シャツの裾に名前書くの」
「いや、なんの話しとんねんっ? パレードのことじゃないのかよっ?」
「北の軍事パレード?」
「夢も希望もねーよ。子供が泣くわ」
「将軍様の威光に感動して?」
「そういう泣くじゃねーよ」
「全米が泣いた」
「そりゃ泣くわ」
「シャツの裾に名前を書くなんてダサいもんね」
「そこに話が戻るんだ」
なんてアホな話は終え、俺たちはパレードを観るためレストランを出る。
と、その途中でネズミの着ぐるみを着たキャストを見かける。
「あ、陽ちゃんあれ、一緒に写真撮ってもらおーよ。死んだときの遺影にするから」
「そんな暗い理由であのネズミと写真撮る奴いねーだろ……」
「四文君、写真撮ってもらっていい?」
「あ、うん」
と、俺は日出さんからスマホを受け取り、着ぐるみの左右に立ってポーズを取る2人の写真を撮った。
「四文君と姫路さんも一緒に写真を撮ってもらったら?」
「えっ? あー……どうする情美?」
「記念だし、撮ってもらおう」
意外に乗り気な様子で、情美は着ぐるみを着たキャストにスマホを渡して、俺たち2人の写真を撮ってもらった。
「いい記念になった」
「いや待て待て待てっ! おかしいだろっ!」
「あ、お城をバックにしたほうがよかったかな?」
「違う違うっ! なんでキャストに写真を撮らせてんだよっ! キャストと一緒に写ってもらわなきゃ意味無いだろっ!」
「あ、なんだ夜斗はそういう写真が撮りたかったのね。早く言ってよ」
「どう考えたらキャストにスマホ渡して写真を撮ってもらおうって発想になるんだよ……」
「じゃあ今度は日出さんに撮影をお願いして、一緒に写真を撮ろう」
「うん」
ということで俺はキャストの隣へ。
情美はキャストをキン〇バスターの体勢へと抱え上げ、長かった戦いに終止符を打つべく……。
「いや待て待てっ! なにやってんだお前はっ!」
「いや、隙があったからフィニッシュへ持ち込もうと思って」
「なんでキャストの隙をついてフィニッシュ決めようとしてんだよっ!」
「やっぱり写真を撮るなら、フィニッシュの瞬間が一番に映えるし」
「普通でいいの普通でっ!」
「じゃあしょうがない。普通で」
ようやく普通に写真を撮ってもらい、俺たちはパレードへ向かった。




