第3話 美少女さんと組長の命を救う
「お父さんっ!」
今まで静かだった美少女さんが声を上げて仁情一家組長の前へと動く。
それから起こった一瞬の出来事は俺にもよくわからない。
なんて言うか、ゲームでたまにある画面にボタンの画像が出て来るシーンがこのとき俺の頭に浮かんだ。押し逃すとゲームオーバーになるあれだ。
それだからというわけではないだろうが、なにを思ったか俺は懐に隠した銃を取り出し、男が構えている銃へと向ける。
守らなければ。
心の中にフッと湧いたその思いが、迷うこと無く俺に銃の引き金を引かせた。
バァン!!
銃声が響くと同時に男の持っている銃が空中へと弾かれる。
「なっ!?」
驚きの表情で俺を見る男。瞬間、
「やあああっ!!!」
立ち上がった美少女さんがふたたび声を上げ、
「げええっ!!?」
男の顔面を蹴り飛ばす。
蹴られた男は障子を突き破って料亭の庭へと転がった。
「おやっさんっ!!」
「組長っ!!」
そして襖を開いて組員たちが飛び込んで来た。
「大丈夫だ。俺も海野の兄弟も怪我はねぇよ。ボウズのおかげでな」
「はあ……はあ……」
硝煙を吐く銃を持ったまま、緊張で息を切らせる俺。そんな俺を組員たちが不思議そうに見ていた。
「鉄砲玉の野郎は情美が外に蹴り飛ばした。どこのどいつか聞き出してやんな」
「はいっ! おうてめえっ! 誰の玉ぁ狙ったかわかってのかコラぁっ!」
「まともな身体で帰れると思うんじゃねぇぞっ!」
物騒な言葉を吐きながら仁情一家の組員たちが庭へと駆け出て行く。残った海野組の組員たちは、叔父さんの指示で他に鉄砲玉がいないか調べに行った。
「よおボウズ、おめえには俺……いや、俺と情美の命を助けられちまったな。この借りはいつかきっちり返させてもらうぜい」
「はあ……はあ……」
「? どうしたボウズ?」
仁情一家の組長が心配そうに俺の顔を覗き込んで来る。
「はあ……あ」
そしてそこで俺の意識は途絶えた。
……次に俺が目を覚ましたのは海野家の屋敷でだった。
時刻はすでに夜。
入れ替わるはずの場所へ来ない俺へ陽介がかけた電話を叔父さんが受けたことで、すべてバレてしまった。
「……まあお前たちが入れ替わらなかったら、姫路の兄弟は今ごろ死んでただろうからなぁ」
そう言って叔父さんは俺たちを叱らなかった。
「あの、俺、銃を撃っちゃったんだけど、大丈夫なのかな?」
「ああ、銃声があったって、あのあとサツが来やがったけどな。仁情の若い奴が身代わりになったから大丈夫だ」
「そ、そう」
とりあえずはそれを聞いて安心した。
見合いは中止。
入れ替わりはバレてしまったが、一応、身代わりの務めは果たしたのでゲーム機はもらえることになり、安堵の心地で俺は家へと帰った。
しかしまさか本物の銃を撃つことになるとは。
貴重な経験ではあったが、二度とあんな状況はごめんだ。
けどあの綺麗な子が無事でよかったな。
たぶんもう会うことは無いだろう。
願わくばこれからも平穏無事に生きてほしいものである。
……次の日、学校へ行くと、
「ちょっと来て」
いきなり情美に腕を掴まれて教室の外へと連れ出される。
そしてやって来たのは校舎の端にある空き教室だ。
「な、なんだよ一体?」
「あ、あの……」
情美は迷うように俯きながら口篭る。
「うん? あ、そういえば昨日さ、陽介の身代わりで見合いに行ったんだよ。そしたら相手がお前と同姓同名でさ。びっくりしちゃったよ」
「うう……」
「どうしたんだ?」
なにやら情美は小さく唸り出していた。
「なんか話があるんだろ?」
「……」
俺が問うも、情美はなにも言わない。
言い難いことなんだろうかと、俺はそう思った。
「えっと……その」
「うん」
と、おもむろに情美は両手を前髪へ持って行き……。
「えっ?」
センターで分ける。
そこに現れた顔を見て俺は驚愕した。




