第25話 草野球の助っ人
日曜日。
俺は草野球の試合が行われるグラウンドへとやって来る。
「おう、来たか夜斗」
「ど、どうも」
グラウンドには情美のお父さん、それと組の人たちがいた。
「このあいだ警察に行った奴がよぉ、投手やってる奴だったんだよ。うちはあいつ以外、まともに投手できる奴ぁいねぇから、情美に頼んだってわけよ」
「情美さんは野球が得意なんですね」
「いんや、あいつぁスポーツならなんでも得意なんだよ。運動神経はいいからな」
まあそれはそうだ。
勉強はダメだが、スポーツは昔からなにをやっても1番だった。
「情美さんはまだ来てないんですか?」
「あいつなら飯食ってから来るって……おう、来た来た」
お父さんの見る方向から情美が歩いて来る。
その手にはなにか器のようなものを持っており、スプーンでそれの中身を食べながら歩いて来た。
「おはよう情美。なに食ってんだ?」
「カレー。助っ人インド人だから」
「その設定まだ続けるのか……」
愉快な奴である。
「夜斗は助っ人アフリカ人だから生肉食べて」
「アフリカ人に対する偏見がひどいっ!」
「こしみの持って来たからそれ穿いて試合に出てね」
「なんの罰ゲームだよ……」
メンバー全員が揃い、あとは相手チームが来て試合開始の時間を待つだけだ。
「試合の相手ってどんなチームなんだ?」
「お父さんと知り合いの会社経営者が持ってるチーム。なんか仕事関係で世話したりされたりして知り合ったんだって」
「そ、そう」
たぶん闇の繋がりである。
「なんか向こうも助っ人を連れてくるんだって。助っ人エジプト人かもね。ピラミッドパワー」
「外国人のイメージがざっくりとし過ぎてるっ」
「ピラミッドパワー。相手は死ぬ」
「能力が怖過ぎるっ!」
「じゃあミイラ化」
「いや一緒っ!」
しかし助っ人ってどんな人が来るんだろう?
まあ誰が来てもベンチ要因の俺はそんなに関係無いけど。
それからしばらくして相手チームがやって来る。
向こうもこっちと同じでおっさんと若い人のチームだ。しかしその中にひとりだけ、見たことあるような気のする人物がいた。
「なんかあの人、見たことあるような気がするな」
「横山ノック?」
「横山ノックはもういいって。誰だったかな?」
「あれは元プロの山城守男だな」
「山城守男……って」
確かメジャーにも行ったことがある有名な選手だ。
それほど野球に興味無い俺でも知っていた。
「あの野郎、このあいだの試合で負けたからってとんでもねぇのを助っ人に連れて来やがったな」
「確か投手でしたし、打つのは難しそうですね……」
「まあ草野球で本気は出さねぇだろうけどな」
それでもプロだ。
容易には打たせてもらえないだろう。
「こうなったらこっちもプロを呼ぶしかないね」
「えっ? いや、お前、プロの知り合いなんていないだろ?」
「ふっふっふっ、それがいるんだな。さあどうぞ」
そう情美が呼ぶと、ヨボヨボのおばあさんが姿を現す。
「だ、誰このおばあさん?」
「プロの霊媒師をしている田中よねさん」
「野球関係無いっ!」
「亡くなったじいさんが野球好きでのう。今でもときどき降霊して話を聞くんじゃ」
「怖いよ怖いっ! 帰ってもらってっ!」
「だそうじゃじいさん」
「怖いってっ!」
よねさんをベンチに座らせ、やがて試合が始まる。
まずはこっちの守備だ。投手の情美がマウンドへと向かう。
……そしてあっさり相手を三者三振に打ち取って戻って来た。
「いつも思うけどお前、運動部とか入ったほうがいいんじゃね?」
「わしは昔、バレー部に入っておってのう。イケメンのコーチに恋しておった」
「いや、あなたじゃなくて」
「インドに運動部あるのかな……」
「そら学校があるならあるだろ。いや、インド人設定はもういいって」
「わしは昔、インドに行ったことがあってのう。火を吹く名人じゃった」
「嘘を吐くな嘘をっ! なに火を吹く名人ってっ!? このおばあさんゲーマーなのっ? インド人は火を吹かないからねっ! ゲームのあの人だけだよ火を吹くインド人はっ!」
さて今度は向こうの守備だが、元プロの山城さんの投げるボールには手も足も出ず、あっさりと三者三振に倒れた。
「やっぱ元プロだな。すげー球投げてる」
「昔、タマって猫を飼っておってのう。今でもときどき霊魂が現れるんじゃ」
「いや、そのタマじゃないです。てかなんでまだいるんですか……」
「代打の切り札だからね」
「この人があんな球、打てるわけないだろ……」
「わしはパチンコを打つのも好きでのう。若いころはパチプロじゃった」
「帰ってもらってもう」
そして試合は2回へと入る。情美が元プロ相手にヒットを許すものの、あとの2人は2者連続三振に打ち取って抑えた。しかしこちらの攻撃も元プロに三者三振に抑えられ、2回の攻撃もあっさりと終わった。
「こんな感じで9回まで行きそうだな」
「わしは昔、9回まで投げて完封したことがあってのう。その年のリーグ優勝に貢献したことがあったんじゃ」
「このおばあさんいつまでいるの……」
ベンチの端でお茶を飲みながら、おばあさんは完全に居座っていた。
……俺の予想通り9回まで両チーム無得点で進み、表の守備は情美が抑えて裏の攻撃となる。
「これじゃ引き分けになりそうだな」
情美も向こうの元プロも、疲れで球の勢いはなくなってきているように思う。しかし点は入らず、試合は膠着状態が続いていた。
「こうなったら代打の切り札を使うしかないね」
「代打の切り札って……」
情美が目を向けたのは、ベンチの端で眠っているおばあさんだった。




