第24話 野球の練習
「じゃあキャッチボールから始めよう」
「ああ」
グローブを渡された俺は、情美から離れる。
「それじゃあ投げるよー」
「おう。って、なんかそのボールでかくねっ!?」
情美の手にあったのは、人の頭ほどありそうな野球ボールだった。
「あ、これ硬球だからー」
「いや、硬球とか軟球ってデカさの違いじゃねーだろっ!」
「先週の閣議でこれが野球の硬球に決まったのー」
「総辞職しろっ!」
「じゃあ閣議決定前のボールでいっかー」
「早く投げろよもう……」
今度は普通のボールを持った情美が、こちらへそのボールを放って来た。瞬間、
「うおおおっ!」
「ええっ!?」
ものすごいダッシュでこちらへ迫って来た情美が、自分で投げたボールをキャッチする。
「ナイスボールっ!」
「ひとりでやれっ!」
「冗談ジョーダン。マイケル・ジョーダン」
「おっさんみたいなギャグだな……。てかお前な、ふざけてばっかじゃキャッチボール始まらないだろ」
「じゃあ今度は夜斗から投げて」
「わかった」
それならもうふざけられないだろう。
情美が離れて行き、俺は投げる動作に入る。
「よーし行くぞー。ほらっ」
俺がボールを高く放る。……と、
パカ
投げたボールがパカっと2つに割れ、中から鳥が出て来て飛び立って行った。
「……」
「……」
「えっ? な……」
「ナイスボール」
「いやちょっ! なんだあれおいっ! なにあの鳥っ!?」
「次は打つほうの練習しようか」
「説明をしろ説明をっ!」
……結局、説明はされず、情美は俺へボールを渡して自分はバットを担いでバッターボックスへ歩いて行った。
「俺、ちゃんとそこまでボール投げられるかわからないぞー」
「とりあえず投げてみてー」
「わかったー」
あんな遠くまで正確にボールを投げられるとは思えない。
しかしまあ練習だしと、俺はボールを投げた。
よく狙ってゆっくり投げたおかげか、ボールは意外にもまっすぐ飛び、
「どすこいっ!」
「わあっ!?」
情美の振り下ろしたバットによって地面に埋め込まれた。
「ホームランっ!」
「なにがっ!?」
駆け寄ってバッターボックス前の地面へ目を向けると、硬球が地面深くに沈んでいるのが見えた。
「いや、ボークかも」
「えっ? 投げた俺が悪いのこれっ?」
「次はわたしが投げるね」
と、俺にバットを渡して情美はマウンドへ行く。
あいつまたどうせふざけるんだろうな。
今度はなにする気だ?
ボールの代わりにコンニャクでも投げて来る気か?
なにをしてくるか不安になりつつ、俺はバッターボックスに立った。
「じゃあ投げるよー」
「おーう」
「じゃあ初球だから遊びで投げるねー」
やっぱりなんかふざけるつもりか。
やれやれと思いつつ、俺はバットを構える。
マウンドでは情美が綺麗な投球フォームを見せ、
「うわっ!?」
投げたボールが俺を目掛けて迫る。
慌てて身を屈めると、ボールはバットに当たって前へコロンと転がった。
「大リーグボール1号ー」
「主人公が血の滲むような努力で生み出したボールを遊びで投げるなっ!」
「2号も投げられるよー」
「なにもんだお前はっ!?」
「じゃあ次は守備の練習をしよっかー」
「まだなんにも練習できてないんだけど……」
一体なにしに来たんだかと思いつつ情美にボールを渡す。
「ノックできる?」
「いや無理」
「横山ノックのものまねは?」
「お前は発想がいちいち古い」
「じゃあ内野の守備練習ね。ショートのほうに行って」
「俺、ショートの守備なんてできないよ」
「まあ練習だから」
ということで俺はショートのほうへ立つ。
「行くよー。それー」
コンと情美がバットでボールをショート方向へ打って来る。
「これなら捕れそうだ」
転がって来たボールを掴む。
そこにはおっさんの絵が描かれてあった。
「横山ノックー」
「どうリアクションしたらいいんだこれは……」
「ものまねしてー」
「できねーって」
「ノックでーす」
「いいかげんすぎるだろっ! てかされても似てるかどうかわかんねーよっ!」
「じゃあ次のボールには誰が描かれているかなー? お楽しみー」
「趣旨変わってるじゃねーか……」
「てかこれ、全然、練習できてないねー」
「お前のせいだお前のっ!」
まったく練習にならん。
とは言え、ちょっと練習したくらいじゃたいして変わらないだろうけど。
「お腹減ったし、ラーメン食べに行こうか」
「なにしに来たんだ一体……」
結局、練習にはならずこの日はラーメン食べて帰った。




