第23話 情美の思いがわからない
「おま、なんで泣いて……」
「えっ? あ……」
気付いていなかったのか、慌てた様子で情美は涙を拭く。
「な、泣いてないし」
「泣いてただろ? どうしたんだよ?」
「なんでもないって」
「無いわけないだろ? お前、最近ちょっと様子が変だぞ? おとといだって夕飯食ってるとき、急に怒り出したりしてさ。なんか悩みとか困ってることがあるなら俺に相談しろよ。友達だろ?」
「……」
俺の言葉を聞いて情美の表情が暗くよどむ。
「……夜斗がやさしいから」
「えっ? や、やさしいからって……」
「夜斗は無堂さんが好きなんでしょ? わたしなんかにやさしくしちゃダメだよ」
「なに言ってるんだよ? 俺たちは友達なんだしやさしくするのは当たり前だろ?」
「……夜斗はなんにもわかってない」
「えっ?」
「わかってないって……」
「夜斗君、姫路さん」
「あっ」
と、そこへ無堂さんがやって来る。
「わたしも帰ろうと思ってさ」
「えっ? どうして?」
「姫路さんが具合悪いのに楽しむってのもね。けど盛り上がってる他のみんなには悪いし、急用ができたってことで抜けてきたの」
そう言って無堂さんは微笑む。
無堂さん良い人だな。
美少女で頭も良くてスポーツ万能。そしてやさしさまである完璧な女の子だった。
「姫路さん大丈夫?」
「……」
「あ、俺が家まで送って行って休ませるから。たぶん、家でおとなしくしてれば大丈夫だと思う」
「そっか。じゃああたしも帰るね」
「うん。また明日」
手を振って無堂さんは帰って行った。
「無堂さんを送ってあげたほうがいいよ」
「具合悪いお前を放っておけないだろ」
「本当は具合なんて悪くないの」
「えっ?」
「わたしがいないほうが……夜斗は無堂さんと仲良くできると思ったから嘘付いて帰ろうとしたの」
「情美……」
「命を助けてもらった恩は必ず返す。無堂さんと恋人同士にしてあげるって形で必ず」
「……」
情美の表情に浮かぶ強い決意を前に俺はどう答えたらいいかわからなくなり、黙り込む。
俺は無堂さんのことが好きだ。恋人同士になれたら嬉しいと思っている。
ただ、手伝ってくれるという情美の心が辛そうで、それがどうしてかわからない自分がもどかしかった。
……情美を家まで送った翌日、俺は少し不安な気持ちで学校へ登校して来る。
昨日は最後まで、情美は暗い表情だった。
これからもずっとああだったらどうしよう?
そんな不安を抱えつつ、俺は教室へ入る。
「おっす、オラ野沢雅子」
「あ、よかったいつも通りだ」
いつも通りの情美でホッとした。
「なんだおめえフ◯ーザの尻みてーな顔してんな」
「どういう罵倒だよそれっ! あんな丸出しの白い尻みたいな顔しとらんわっ!」
「汚ねぇ鼻毛だ」
「花火っ! 鼻毛はみんな汚いわっ!」
「そんなことより日曜日は野球しよう」
「唐突だな……。なんで急に野球?」
「お父さんが草野球のチーム持ってて、日曜日に試合があるのね。だけどこの前、夜斗の代わりに警察に捕まった組の若い人がいないから助っ人でわたしが行くってわけ。助っ人外国人、助っ人インド人」
「なんだよ助っ人インド人って……?」
「華麗なグラブ捌きで相手チームを翻弄。インド人だけにカレー」
「いやおもしろくないわっ! さむっ!」
「スパイスの効いた辛辣なカーブを投げる。インド人だけに」
「いや、辛辣なカーブってなんだよっ! インド人のイメージカレーばっかかっ!」
「まるでガンジス川へ流すような流し打ち。インド人だけに」
「いや、どういう流し打ちだよっ! ガンジス川に流すって言いたいだけだろそれっ!」
「ファーストからサードまで腕を伸ばして捕球できる。インド人だけに」
「それできるインド人たぶんいないからっ! できるのあのゲームの人だけだからねっ!」
「じゃあ普通の助っ人外国人でいい」
「そもそも外国人じゃないだろ……。てか助っ人はお前だろ? 俺も行く意味あるのか?」
「代打で出番あるかもって」
「代打ね。まあどうせ暇だからいいけど、俺、野球なんてやったことないぞ?」
「野球は陽キャのスポーツ。野球を極めることは光属性の獲得にも繋がる」
「そ、そうかな……。けど俺、スポーツは苦手だし……」
「じゃあ放課後になったら河川敷にある球場で練習しようか」
ということで放課後、情美と一緒に河川敷にある球場で練習することになった。




