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第21話 無堂さんと初トーク

 中間テストはなんとか赤点ギリギリで突破した。

 情美も同じような感じで、帰って来たテストを見せ合いながらお互いにホッと息を吐いて胸を撫で下ろす。


「はあ……あぶなかったけど、なんとか赤点は免れたな」

「九回裏ワンアウトランナー二三塁。一発が出れば逆転サヨナラのチャンスに代打の切り札を出したけど三球三振に倒れて頭抱えた監督に高卒ドラ1の新人が『監督さん、俺ば使うてくれん。必ずホームランば打つ』って言って、その熱意に押された監督が彼に試合を託したプロ初打席でまさかの逆転サヨナラホームランを打ったような感覚だね」

「ややこしいわっ! そこは代打の切り札がホームラン打って終わりでいいだろっ! なんでわざわざ話をややこしくしたっ!」

「ちなみに熊本の高校出身」

「さすが九州男児っ! いや、どうでもいいわっ! なんでテストの話から熱い野球の話が出て来るんだよっ!」

「けど高卒ドラ1がプロ初打席で逆転サヨナラホームラン打ったらファンはポジポジだよ」

「知らんわっ!」


 まあともかくテストは無事に切り抜けられてよかったよかったのめでたしである。


「よお赤点カップル。テストはどうだった?」


 と、そこへ陽介がやって来る。


「赤点じゃないしカップルでもねーよ」

「なんとか赤点は免れたみたいだな」

「お前はどうだったの?」

「全教科80点以上」

「ちくしょーっ! 俺たちは赤点ギリギリだってのによーっ!」

「ドラ1のホームランもフェンスギリギリで入った」

「その話はもうええわいっ!」

「てかお前ら、放課後って暇?」

「うんまあ、特にすることはないよ。なあ?」

「ないかな。関係無いけど、ドラ6くらいだとなかなか試合に出る機会無いよね。少ない出番でアピールして、存在感を示すのが重要」

「本当に関係無いっ!」

「暇なら俺たちとカラオケ行かね?」

「カ、カラオケ?」

「ああ、テスト終わったし、みんなでぱーっと歌おうってことになってさ」

「カラ・オケってあの、助っ人外国人の? 海野君の知り合いだったんだ」

「いや誰だよ知らねーよそんな奴っ!」

「助っ人外国人って真面目でぐう聖ほど活躍しないよね」

「いや、なんの話だよ? 名前じゃなくて歌うカラオケだよ。わかるだろ?」

「ああ歌うほうね。打つほうじゃなくて」

「打つほうのカラオケなんて聞いたことねーよ。で、どうすんだ? 行くか?」

「他に誰が来るの?」

「俺とあと友達何人か」


 陽介は陽キャなので、男女問わず友達が多い。そのうち何人かは顔と名前だけなら知っていた。


「あとすごいの来るぜ」

「すごいの……って?」

「ふっふっふっ、この学校ですごいのって言ったら……」

「そのすごいってもしかしてあたしのこと?」

「えっ? あっ」


 陽介の背後から現れた明るい金髪の女の子。

 それはまさかまさかの陽キャ姫こと、無堂姫奈さんであった。


「む、むむ、無堂さんっ!?」

「こんにちは。四文君だよね? そっくりの従兄弟がいるって話は陽介君から聞いてたんだけど、へー本当にそっくりだ」


 無堂さんは下からのぞき込むように、俺のことをジロジロと観察する。

 俺はもう緊張して全身から汗が吹き出ていた。


「え、えっと、は、初めまして四文夜斗ですっ。よろしくお願いしますっ」

「あははっ、なんで敬語ー? 同級生なんだから普通に話してくれて大丈夫だよ」

「えっ? あ、う、うん。そうだね。ははは……」


 失敗してしまったかなと少し恥ずかしくなる。


 まさか今日この日に憧れの無堂さんと初トークができてしまうとは。感動である。


「そっちは姫路さんだよね? 陽介君から聞いて知ってるよ。よろしくね」

「……ごにょごにょ」


 情美は答えず、俺へ耳打ちをしてくる。


「こんにちは、だって。ごめん、こいつ初対面の人とは会話できなくてさ」

「そうなの? へー」


 無堂さんの視線から逃れるように、情美は俺の背へと隠れた。


「2人って付き合ってるの?」

「い、いや、そういう関係じゃないよ。情美とは小学校からの友達で……」

「ふーんそうなんだ」


 俺と情美を交互に見ながら無堂さんはそう言う。


「実を言うとあたし、陽介君のこと好きだったんだよね」

「えっ?」

「けど、陽介君は彼女いるし、諦めたの」

「俺は彼女一筋だからな」

「んー彼女さんが羨ましー」


 確かに陽介は陽気でひとあたりも良く、勉強もスポーツもできるのでモテる。

 しかしまさか無堂さんも陽介へ気があったとは……。同じ顔なのになぜ俺のほうはモテないのだろう? あ、陰キャだからか。


「四文君、あ、夜斗君でいいよね?」

「あ、う、うん」


 無堂さんから下の名前で呼ばれて感激する


「あたしのことも姫奈でいいよ」

「い、いやそれはちょっとまだ……」

「そう? 陽介君と見た目は一緒だし、わたし夜斗君と付き合っちゃおっかなー」

「えっ?」

「なんて冗談。見た目だけで付き合う男の子を選んだりしないよ」

「そ、そうだよね。ははは……」


 思いも寄らないことを言われてドキッとしてしまった。


「んで、カラオケは行くのか?」

「あ、えっと……」

「行こうよ。楽しいからさ」

「う、うーん……」


 しかし歌える歌が無い。

 陽キャに囲まれてアニソン歌うのもちょっと……。


「夜斗、行きなよ」

「いやでも俺、歌はなぁ……」

「無堂さんもいるんだよ?」

「う、うん。じゃあ情美も一緒にな」

「わたしは……」

「な?」


 陽キャの中にひとりだけ陰キャがひとりなんて耐えられない。

 情美がいてくれれば心強かった。


「……うん」

「決まった?」

「う、うん。俺も情美も参加させてもらうよ」

「わっ、よかった。じゃあ放課後にね」

「うん」


 輝くようにニッコリ笑う無堂さん。

 対して、情美の表情はどこかどんよりと暗かった。

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