第10話 服の値段にビックリ
ボルダリングを終えて少し陽キャに近づいたような気がした俺は、情美と一緒に今度は服屋へとやって来る。
陽キャは常に流行の服を着ている。
ということで、この服屋へ来たのだ。
ネットで調べたところ、陽キャに人気の服屋らしい。
「わたし服屋なんて来るの初めてかも」
「お前いっつもお母さんが買って来る服着てるもんな」
「うん。このカーディガンもそうだし、下に着てるTシャツもそうだよほら。カミツキガメの写真がプリントされてるの」
「うわダッサっ! なにそのTシャツダッサっ!?」
カーディガンの下から現れた大口を開けるカミツキガメのプリントを見て、こんなもんを年頃の娘に着せてる母親のセンスを疑った。
「カミツキガメの太郎君」
「名前付いてたっ!」
女子高生なのにこんなもんを平気で着れるこいつもこいつだけど。
てかなにこれ? どこで売ってるんだよこんなTシャツ。水族館?
「流行の服を買って着れば光属性を得られる。今回は簡単そう」
「そうだな」
と、俺たちは店の中へと入る。
中には陽キャっぽい客がわらわらいた。
「お前、絶対に吐くなよ?」
「それはフリかね?」
「違う違う。服にぶっかけたりしたら弁償させられるぞ」
「太郎君のTシャツで弁償できるかな?」
「できるかっ! そんなTシャツで弁償しようとしたら鼻で笑われるわっ!」
「けど服なんて1枚500円くらいでしょ? 弁償って言ってもたいした金額にはならないんじゃないの?」
「いや、そんなに安くは無いだろ。2000円くらいはするんじゃね?」
「そんなにするかなぁ」
と言いつつ、情美は手近なスカートを手に取って値札を見る。
「えっ? きゅ、9000円?」
「9000円?」
情美が手に取っているのはベージュ色のペラペラなスカートだ。
「嘘吐け900円の間違いだろ?」
「本当だよ。ほら」
情美の見せてきた値札には、確かに9000円とあった。
「マジかよっ。こんなのが9000円もするのか」
「うん。こんなペラペラなのに9000円もするの。ゲームソフトが買える」
「もしかしてぼったくりか?」
「でもここ陽キャがよく利用してる有名店みたいだし、ぼったくりじゃないと思う」
「けどこんなペラペラで9000円は高過ぎだろ」
「他のも見てみようよ」
「そうだな」
と、俺たちは他の服も見てみることに。
「なんかどれも高いね。この変な文字が書いてあるTシャツなんて7000円もするよ。太郎君のTシャツは2500円なのに」
「太郎君のTシャツが2500円なのにもびっくりだよ」
「太郎君は水族館の人気者で、二郎君のTシャツよりも200円高いんだよ」
「知らんがな」
しかしやっぱりどの服も思っていたより高い。
こんなペラペラなのに9000円とか7000円もするなんて。
「もしかして着る以外になにか機能があるのかも?」
「このTシャツに着る以外の機能があるのか?」
どう見てもただのTシャツだが。
「なんの変哲もないTシャツに見えて実は……食器洗い乾燥機能がついてるのかも」
「しょ、食器洗い乾燥機能が? 確かにそれなら7000円でも納得できるな。いや、むしろ安いくらいだ。けどどうやってこのTシャツで食器洗いと乾燥をするんだ?」
「たぶん書いてあるこの文字に秘密がある。この文字の秘密が解ければ、Tシャツが食器洗い乾燥機にトランスフォー……」
「なにか気に入った商品がございましたか?」
と、そこへ現れた店員のお姉さんが俺へ声をかけてくる。
「あ、はい。すいません。このTシャツはどうやって食器洗い乾燥機になるんですか?」
「は?」
「この文字を解読しなければ。うーん……しかしわからない。わたしの英語は赤点ギリギリ。夜斗は古代ヘブライ語しかわからないし」
「わかるかそんなの」
「も、申し訳ございませんが、Tシャツは食器洗い乾燥機にはなりません」
「えっ? そうなんですか? けど、7000円もしますよ」
「ええはい。そちらの商品は7000円になります」
「ペラペラの布ですよ?」
「布ですけども……」
マジか。
こんなTシャツだけの機能しかない布が7000円もするらしい。
「ごにょごにょ」
「えっ? あ、試着してもいいですか?」
「あ、はい。どうぞ」
案内された試着室へ情美はTシャツを持って入って行く。
しばらくしてカーテンが開き、
「……」
「……」
頭にTシャツを被った情美が出て来た。
「なるほど。着るものと見せかけて被る。これが7000円もする秘密か」
「いやいやいやっ! 着るんですよ被るんじゃなくてっ! なんで被ってるんですかっ! てかなんで無言っ! 無言でTシャツ被って立ち尽くしてるの怖っ!」
どうやら被るんじゃないらしい。
「あ、その、よろしければわたしが彼女さんのコーディネートをいたしましょうか?」
「あ、いや、彼女じゃ……」
「ごにょごにょ」
「こんにちは。カミツキガメの太郎君だよ。って、なに言わせてんだよっ! コーディネートしてくれるって。どうする?」
「ごにょごにょ」
「あ、お願いします、だそうです」
「わ、わかりました」
苦笑いしつつ、店員のお姉さんは店内を回っていろいろと服を持って来る。
それを持って情美はふたたび試着室へと入った。
それからしばらくして、試着室のカーテンが開く。
「……」
「……」
コーディネートしてもらった服を着て、カミツキガメの太郎君の写真がプリントされたTシャツを頭に被った情美がそこにいた。
「こんにちは。カミツキガメの太郎君だよ」
「もうそれいいってっ!」




