第1話 陰キャ姫と陽キャ姫
「ああ……かわいいなぁ」
昼休み。
俺、四文夜斗、高校2年生は、男女問わず大勢の学生たちと楽しそうに会話しているひとりの女の子を学食の端から見つめていた。
彼女の名前は無堂姫奈。
明るく短い金髪に、丸い目のかわいらしい同級生の美少女だ。
髪の色と同じく性格は明るく快活。
友達も多いことから、陽キャ姫と呼ぶ人もいた。
俺は彼女に恋している陰キャのひとりだ。
俺は陰キャ。
彼女は陽キャ。
陰と陽。
交じり合うには難しい……。
「なに飯食いながらぼーっとしてんだよ」
「えっ? あっ」
振り向くと、そこには俺と同じ顔があった。
双子ではない。いとこの海野陽介である。
俺たちは双子と間違われるほどそっくりで、見た目だけでは親でも気付かない。しかし性格は逆で、陽介は友達も多く、別の学校に彼女もいる明るい陽キャである。
見た目をもっと近づけたら陽キャになって無堂さんと仲良くなれるかも? そう思って髪型も同じにしてみたが、もちろん思い通りにはならず俺は陰キャのままだ。
「お前ほんと、無堂のこと好きだよな」
「べ、べべ、別にそんなことねーしっ!」
「いや、めっちゃ見てたじゃん」
「見てねーってっ! 見てたのはその……お前だよ」
「夜斗……」
そして始まる男同士のラブロマンス……。
「って、そんなの始まらねーからっ! いいかげんなこと言うな気持ち悪いっ!」
「気持ち悪いとかひどい……」
「俺はノーマルだっての。彼女いるし。お前もノーマルだろ」
「まあそうね」
こんな風にいとこの陽介や、たったひとりだけいる友達とは明るく話せるが、他の人間になると難しい陰キャな俺である。
「てか無堂は無理だから諦めろよ。狙ってる男いっぱいいるしさ」
「それはわかってるけど……」
好きになってしまったらしかたない。
けど陽介の言う通り無堂さんを狙ってる男はいっぱいる。その中にはイケメン陽キャもいるし、とても俺なんかが太刀打ちできるとは思えなかった。
「あー……それよりちょっとお前に頼みがあるんだけど」
「頼み?」
なにやら言い辛そうな顔で言う陽介。
なんか面倒なことを頼まれそうだなと思ったそのとき、
「夜斗」
「うん? わあっ!?」
背後からぼそりと聞こえた声に驚いた陽介が跳び上がる。
そこに立っていたのは前髪で目元を隠した長い黒髪の女の子。
同級生で同じクラスの姫路情美であった。
情美は女の子なのに自分の見た目に興味が無く、髪はいつもボサボサ。
顔は前髪でほとんど見えず、どんな顔かわからない。友達の俺でも素顔は知らないほどだ。
「そんな驚くなよ。情美だよ」
「あ、ああ。けどだって、いきなりうしろに現れるからさ」
情美は暗い印象の女の子で、存在感も薄い。
陰では情美のことを陰キャ姫なんて呼ぶ人もいた。
情美は俺の隣へ座り、お盆に乗った超大盛のスパゲティをあっさり平らげる。
それから鞄をテーブルに置き、おもむろにゲーム機を取り出した。
「あっ! お前それっ!」
抽選でしか買えないゲーム機だ。
俺も応募したが、はずれて買えなかった。
「お前、はずれたって言ってたじゃんっ!」
「実は当たってた。買ってから驚かそうと思ってたの」
「ちくしょーっ! お前とは絶交だっ!」
「わたしと絶交したら夜斗、友達いない」
そうだった。悲しい。
「てかお前も俺以外に友達いないだろ」
「ゲーム機は友達。新しい友だち、夜斗もほしいでしょ?」
と、情美はゲーム機を見せつけてくる。
「ほれほれほしいかブイ」
「ちくしょー」
「ほれほれほしいかブイ」
「ちくしょー」
情美のむかつくブイサインに向かって俺はちくしょーと叫ぶ。
「ブイ、からの目つぶし」
「痛いっ。なにすんだこの馬鹿女っ」
目つぶしの仕返しに、額へチョップを食らわせた。
「相変わらず仲良いなお前ら。できてんの?」
「普通の友達だよ」
俺と情美は小学生にころからの付き合いだ。小3のときにあった遠足で情美が迷子になり、俺が見つけてやったとき友達になった。
「まあなんでもいいけどさ。あ、俺、友達と約束あるから行くわ」
「うん。あ、さっきの頼みって?」
「放課後でいいや。じゃな」
「ああ」
頼みってなんだろう?
面倒なことじゃ無ければいいんだけど。
「夜斗と海野君って顔はそっくりだけど性格は全然違うね」
「見た目は俺のほうが格好良いぞ」
「……うん」
「いや、そこはつっこむところだろ」
「あ、そ、そっか。なに言ってたんだこの不細工のキモメン陰キャ野郎がー」
「そこまでひどく言わなくてもいいだろう……」
なんて馬鹿な会話をしていたら昼休みは終わり、俺たちは教室へ戻るためイスから立つ。
「あ、あのさ夜斗。今度の日曜日……」
「うん? 日曜日?」
「あ、その……やっぱいい」
「? そう?」
俯いた情美とともに俺は教室へと戻った。
……やがて放課後となり、俺は校庭の隅で陽介に会う。
「んで頼みって? まさか愛の告白じゃないだろうな?」
「その冗談はもういいっての。頼みってのは、俺の身代わりをしてほしいって話なんだよ」
「身代わりって? なんの?」
「見合いの」
「み、見合い?」
見合いってのは結婚を前提に男女が顔を合わせるあれだろう。
「親父が酔っぱらって同じ会のヤクザ組織と見合いの話を勝手に決めてきたんだよ。断ればいいのに、極道は吐いた唾飲まねぇとか言ってさぁ」
陽介の父親。俺にとって母方の叔父さんはヤクザの組長だ。ヤクザを嫌がり実家と距離を置いている母親は、俺と陽介の関係をあまりよく思っていない。高校が同じだったのは完全に偶然であった。
「見合いだけして断ればいいんじゃないの?」
「それがさ、見合いが今度の日曜日なんだよ。今度の日曜日は彼女の誕生日でさ。朝から夜までデートすることになってんだ」
「陽キャだなぁ」
陰キャな俺は朝から夜までゲームである。
「だからお前に身代わりを頼みたいって思ってさ」
「いやでもなぁ、相手ヤクザだろ? 騙してるなんて知られたら殺されるんじゃ……」
「大丈夫だろ。お前ほら、FPSとか得意じゃん。銃撃つあれ」
確かに俺はFPSが得意だ。
大会で優勝したこともある。
「それ関係無いだろ」
「まあそれは冗談だよ。大丈夫。そんなことで殺されたりしねーから」
「ううん……まあそうかもしれないけど」
「頼むっ! お前がほしがってたゲーム機あげるからさっ!」
「あげるって……お前も応募してたの?」
「彼女が一緒にやりたいからって俺の分も応募しててさ。けどひとつしか当たらなかったから、買おうかどうか迷ってたんだよ。それ買ってお前にあげるからさ」
「う、うーん……」
俺と陽介は見た目がそっくりなので、うまくやればバレることは無い。
ゲーム機がただでもらえるなら、これはやるしかないか。
「わかった」
「おおっ! さすがは俺のいとこだっ! ありがとうっ!」
「うん。ゲーム機ほしいしな。で、どこの誰と見合いするんだ?」
「仁情一家ってところの組長の娘。顔は知らん」
「あっそ」
まあ相手がどんな人間でも、俺には関係無いか。
「じゃあよろしくな。ソフトもおまけでつけてやるからさ」
「ああ」
ということで、俺は日曜日、陽介の代わりに見合いへ行くことになった。
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夜斗と情美、仲良し2人の友情は愛情へと変わるのか? 陰キャ2人の恋愛をコミカルにラブラブと進めていきます。
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