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不感症

〈熱帯夜嫌な味する口を開け 涙次〉



【ⅰ】


 もぐら國王は目を醒ました。傍らには朱那が寢てゐる。豪奢なダブルベッド。こゝ「もぐら御殿」には何もかも國王の一流好みが叛映されてゐる。地下の寢處と云ふだけではないのだ。

 昨夜の仕事も上首尾だつた。都内某画廊でダリの立體を狙つたのだ。故買屋Xに拠れば、ダリはブラックマーケットでも人氣が髙いと云ふ。國王は所謂シュールレアリスムの作品は余り好きではない。美術は須らく處有者のノスタルジアと結び付いてゐるべし‐ 國王はアンドリュー・ワイエスの繪を好んだ。だが仕事は趣味でやるものではない。



【ⅱ】


 國王はまたロシアの名もなき作者たちに依る、數々のイコン画を愛した。彼は無宗教者であつたが、あれら拙い繪には、彼のノワール世界に生きる每日を浄化するものがあつた。* アレクサンデル・シスキの「呪ひのイコン」は失敗だつたが‐ 彼は一人で苦笑した。あれでカンさんたちに多大な迷惑を掛けたつけ。國王は起き上がり、珈琲を淹れた。朝はモカに限る。その内、薰りにつられて朱那も目醒めるだらう。



* 前シリーズ第27話參照。



【ⅲ】


(然しあの「呪ひのイコン」、調子が惡くなつたのは俺だけで、故買屋や朱那はいつもと變はるところがなかつた。特に故買屋。奴も仕事に加担したのになあ。)故買屋には、靈力がない、と云ふか、彼はまあ【魔】には不感症なのだ。實はごつそり【魔】が取り憑いてゐたりしてな・笑。

 朱那が起きて來た。「早いわね、國王」‐「なあ猫でも飼はないか? 俺が仕事に出てゐる時とか、きみ淋しくないか?」‐「さうねえ」



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈ゆくりなき肌の熱さに目を醒ます朝な朝なのオデッセイかな 平手みき〉



【ⅳ】


 故買屋のその【魔】的不感症の件について、國王は朱那に話した。「冗談ぢやないわ。それぢやあ危ない橋が二倍に増えるやうなもんぢやない!」朱那は聡い。國王は彼女の直感を信頼してゐた。「きみがさう云ふのなら、一度奴をカンさんに診て貰はうか」‐「出來ればさうして頂戴」



【ⅴ】


 國王はぶうぶう云つてゐる故買屋を、カンテラ事務所まで引つ張つて行つた。タロウが盛んに吠え立てる。(やつぱり...)これはやはり故買屋に、【魔】が憑いてゐると云ふ事を示してゐる、としか思へない。

 カンテラ、一目見て、「随分と溜め込んだもんだな、故買屋さん。十や二十ぢや利かないぞ」。‐故買屋「えー!?」‐「じろさん、テオ、スタンバつてくれ」‐「修法」で故買屋の無意識界に、一味の攻撃部隊、入り込んだ。



【ⅵ】


 テオは、* ザ・寫眞出版社の金庫破りで使つた爆彈を持つて來てゐた。爆破の勢ひで、「なんだなんだ」と【魔】たちがぞろぞろ姿を曝した。そこを「しええええええいつ!!」カンテラ・じろさん、仕掛ける‐ 血みどろの決戦となつた。じろさんの投げ技×カンテラの剣。


 ‐で、なんとか【魔】たちは片付けた。だがカンテラにはまだ仕事が殘つてゐる。「幾ら取つてやらうか」‐無意識界から出ると、故買屋、失神してゐた...



* 前シリーズ第198話參照。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈汚したく白のスニーカー履きにけり 涙次〉



 これに懲りて、故買屋、カンテラの「定期検診」を受ける事になつた。國王、「俺らの商賣、だうしても『(ごふ)』が溜まつちやふんだよ。依頼料なんか安いもんだ、と思へよな」ぽん、と故買屋の肩を叩いた。「ごほ、ごほ、うおつほん」故買屋、咳込んで咽た。


 と、云ふ譯で、一件落着。今回は故買屋Xが頼み人。新機軸かな? と云つたところで。ぢやまた。


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