悠斗
会社帰りのコンビニで、悠斗は手に取った缶ビールをしばらく眺め、結局棚に戻した。
「明日も仕事だしな…」
なんだか独り言が増えた気がする。
大学の頃から付き合っていた彼女ーー美幸は同じIT系の企業に勤めていた。将来を意識していたし、同棲の話もしていた。だからこそ彼女の裏切りは、悠斗のとってまさに「崩壊」であった。眠れない夜が続いた。SNSを見れば誰もが幸せそうで画面を見るのがつらくなった。人付き合いも減って、土日は家でゴロゴロと過ごすことが多くなった。
「このまま腐っていくのかな…」
ベッドで寝転がりながら、スマホを手に取る。通知が1件、アプリストアからのものだった。ー『本日配信、異世界ファンタジー「エクリプスレコード」ー記録されし運命をあなたの手でかきかえろ。』ー
中二病っぽいコピーに思わず苦笑いが漏れる。でもなぜか、心が少しだけ動いた。
「まあ、無料だしな」
ダウンロードは衝動だった。キャラメイクにはそれなりに時間をかけたが、ハンドルネームは適当に「kael」にした。
ゲームのなかでは、草原や村でクエストをこなしながら地道にレベルを上げていった。気がつけば…現実のことを考えなくて済む時間がそこにあった。
【レベル10到達ギルド機能が解放されました】
ゲームを始めて5日目のことだった。
ギルドか…「ギルド募集」のタブを開くと、ひとつのギルドに目がとまった。『宵の星』:初心者、まったり派歓迎ー夜の匂いがするような名前に、なぜか惹かれた。「ゲームをするのは久しぶりです。よろしくお願いします」そう一言だけ添えて、加入ボタンをタップした。
数秒後、kaelのアイコンの下に宵の星の文字が浮かんだ。




