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写真と友達





 噂のことは白姫さん気にしていなさそうだな。

 というか、そもそも知っていない感じか。


「白姫さん素敵です〜〜」

 妹の七夏実が白姫さんをずっと見ている。


「そんな好きになったのか?」


「うん!! だって、凄く可愛い女の子なのに、仕事も卒なくこなしてカッコ良さもあるんですよ!!」

 先程からお客さんの注文をとっているのは白姫さん一人。

 店の前に行列はできていないが、人気店というだけあって広いのに店内はほぼ満員。

 ケーキを運ぶのも白姫さん一人で行っているから、仕事量は相当。

 よく白姫さんだけで店内が切り盛り出来ているなという状況だ。

 忙しいのに俺と七夏実が時間を奪ってしまい申し訳なくなる。


「いま会ったばかりだけどかなり目に惹かれます」


「まるで恋する乙女だな」

 心配することもなく白姫さんに夢中な妹。

 忙しい中でも仕事をテキパキとこなす白姫さんは、普段と違いしっかりとしていてかっこいいと思う。

 だけど本来は自由気ままだ。 

 

「七夏実たぶんお前が思うほど・・・・・・」


「お待たせ〜」

 白姫さんが注文したケーキを持ってくる。


「特製ショートケーキと特製チョコレートケーキ。ぜひ美味しく食べて」

 白姫さんがニコニコの笑顔でケーキを持ってきてテーブルに置く際、俺と七夏実の顔を交互に見つめパチリとウィンクしてきた。

 思わず白姫さんを見つめてしまう。

 不意に見せるウィンクは予想していなかったこともあって、心臓の鼓動がどんどんと早くなってしまうくらい可愛いかった。

 俺は隠すように顔を叩いた。


「あ、そうだ七夏実ちゃん」


「・・・・・・」

 七夏実の耳元で白姫さんが呟いていたけど聞こえなかった。


「それじゃあね!」

 白姫さんは手を振りながら厨房の方に向かっていった。


「なにか言われたの」


「・・・・・・」


ささやかれていたけど」


「・・・・・・」


「七夏実さーん大丈夫ですか?」


「えっ!? う、ううん。なんでもない、大丈夫です」

 明らかに大丈夫そうではない。

 絶対に白姫さんから耳元で言われたことが関係している。


「愛の告白でも受けた?」


「そんなことあるわけないです」

 ヘロヘロとしながら言葉を返してくる。


「あの人には気をつけろよ。あざといから」


「え、どういうことですかお兄ちゃん?」

 

「よくわかっていないけど、なにか裏がありそうってことかな」

 不思議そうな表情をする七夏実。

 詳しく説明した方がいいのかもしれないと、思ったがその前に七夏実の目は俺ではなくケーキの方に向いていた。

 兄は妹にとってケーキ以下か・・・・・・。

 俺を見る方がケーキよりよっぽど価値があるのに。


「うわっ〜〜!! 美味しそう!!」

 目の前にはシンプルな見た目のどこにでもあるようなショートケーキとチョコレートケーキがある。

 特別他の店のケーキと見た目が違うようには見えないが、人気店ということはおそらく味が良いのではないだろうか。


「なんだかんだ楽しみだな」

 フォークをとり目の前にあるチョコレートケーキに向かって手を伸ばした。


「ちょっと待ってください!!」


「え?」

 フォークがケーキに触れる直前、七夏実に止められた。


「写真を撮りたいので、まだ食べないでください」


「あぁ・・・・・・わかった」

 七夏実は持っていたショートバックの中から、携帯を取り出しショートケーキとチョコレートケーキの写真を様々な角度、位置から撮っていた。

 その間俺は特にすることもないため、無言で写真を撮る七夏実を見ていた。

 写真を撮り始めてから一、二分程経った。

 けれど未だに満足行く写真が撮れていないのか、携帯と睨めっこをしながら思考していた。


「うん、これで良いかも!」

 やっと写り映えが良い位置がわかったのか、嬉しそうに笑いながら写真を撮る七夏実。

 まるで写真が命みたいだ。

 ケーキを目の前にしたなら、一番楽しみで喜ぶのはケーキの味ではないのだろうか。

 それを跳ね除けてまで、ケーキの写真をひたすら撮ることに意味はあるのだろうか。

 俺には良くわからなかった。


「ごめんなさい〜〜お兄ちゃん。もう食べて大丈夫だから」


「なぁ、七夏実。単純に気になったことを聞いてもいいか?」


「いいよ」


「なんでそんなに写真を撮るんだ?」


「えっ、なんでって・・・・・・どこかお店に行ったり、美味しそうな食べ物が出てきたら、写真を撮るのって普通じゃないですか?」


「そういうものなのか」


「そうですよ! 写真を撮って、いつでも見返せるように、思い出せるようにしておかないとです。あとは、行ったお店をSNSに上げて、友達に共有したいですから」

 SNSもやっていない、友達もいない俺にはわからない話だな。

 孤高というのも不便なときがあるのか。


「お兄ちゃんは逆に写真を撮らなくていいの?」


「うん。このケーキが気にいったなら、またくればいい。写真を見たくなったなら、ネットで探せば、俺が撮るよりも上手く撮れているケーキの写真がたくさん出てくると思う。SNSもやっていないから、特に撮る必要性はない。共有しようにも友達は少ないし・・・・・・」

 決して悲しいわけではない、悲しいわけではない!!

 誰にも聞こえない声を自分の心の中で発していた。

 それが一番悲しかった。


「なんだかお兄ちゃんいまの人にしては珍しいですね」


「そうか? 案外俺みたいな人はたくさんいると思うけどな。あ、もしかして友達がいないことですか。それは説明すると悲しくなるんで・・・・・・」


「それは大丈夫です」


「ですよね、ごめんなさい」

 

「違くてですね。写真を撮らない人はお兄ちゃんみたいにたくさんいると思います。でも、写真を撮る理由がわからない人はあんまりいないと思うのです」

 俺はいま皮肉や煽りを言われたのだろうか。

 でも褒められている線も拭えないため、なにも反応することが出来ない。


「俺も写真を撮りたいっていう気持ちが、完璧にわからないというわけではないよ。だけどさ、様々な位置や角度から何枚もの写真を撮り続ける理由が、全く俺にはわからないな」

 

「良い写真を撮りたいからですよ!!」


「写真をたくさん撮る理由はそうだと思うよ。でも何枚か撮れば一つぐらい良い写真は撮れると思う。さっきの七夏実は良い写真が撮れているはずなのに、それでも何枚も何枚も撮っていたから」


「・・・・・・お兄ちゃんなにが言いたいんですか?」


「より良いものを、より綺麗なものを、そう思いながら写真を撮るのはおかしくないと思う。だけどそこにはなにかしらの理由や突き動かす動機がないと難しい。写真を撮り続けるにはそれ相応の理由が必要だよ。じゃあ七夏実にとってのそれはなんだろうなと思ったらさ・・・・・・」

 七夏実が俺のことを静かに見つめる。


「なんていうか、わからないけど・・・・・・良い写真を撮らなければダメ。綺麗な写真を撮らなければいけない。そんな感じがした。なにかの使命感に駆られているように見えた」

 なんの使命感に駆られて撮っているかは、見ているだけじゃわからないけど。


「七夏実、なんでそんなに良い写真を撮ることにこだわっているんだ?」


「それは・・・・・・」

 スマホを机の上に置いて、さすりながら俺の方を見てくる。


「良い写真を撮らないと、、グループからハブられるからですよ」

 俺はその言葉の意味が一度聞いただけでは良くわからなかった。

 ただ七夏実にとってそれは大切なことだということはわかった。









 


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