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ケーキ屋の白姫さん





「本咲・・・・・・なんでここに?」

 七夏実に連れられてケーキ屋に訪れたら、そこには学校の制服でも、私服でもない服を着た白姫さんがいた。


「いやーなんというか・・・・・・白姫さんこそなんでここに?」

 

「私はバイトをしてるのこのケーキ屋で」


「そうなんだ」

 ケーキ屋の制服を着ているからなんとなく予想はついたが、まさか、七夏実が行きたかったケーキ屋で白姫さんが働いているとは思わなかった。


「でぇ〜本咲は・・・・・・まさか!? 隠れスイーツマニアだったりするの?」

 好奇心を強めて聞いてくる白姫さん。


「違うよ俺は」

 隣にいる七夏実の方を見る。


「更なるイケメン道を極めるためにきたんだ」

 黙る白姫さんに七夏実。

 これはいわゆる大スベリだ。


「妹の付き添いで来たんだ」


「なにもなかったようにはできないって!」


「スベった理由を解説した方がいいかな?」


「それはもっと嫌かも」

 自分の中で噛み砕くようにうんうんと頷く白姫さん。


「でさ、本咲って妹さんいたの!?」


「いまそこかー」


「だって知らなかった」

 

「学校の人には伝えていないから」

 話す人が少ないんだ、知っている人は限られてくる。

 

「へぇ〜ふ〜ん。妹さん、凄く可愛いじゃん」

 悪徳あくとくセクハラ野郎みたいな言い方だな。

 白姫さんが微笑みを浮かべながら七夏実の方へと近づく。


「あ、あの。お兄ちゃ、兄がいつもお世話になっています。妹の本咲七夏実って言います。よ、よろしくお願いします」

 緊張して噛みまくりだ。

 

「七夏実ちゃんっていうんだ。可愛い名前だね」


「か、可愛い!?」

 七夏実がわかりやすく動揺する。


「私は白姫しらひめ波音羽なおはっていうんだ。よろしく」

 白姫さんが手を出すと、七夏実が手を震えさせながらも握り返そうとするが、緊張して手を動かせなくなっていた。

 それを見た白姫さんが七夏実の手を自ら握りに行った。


「つっ!?!?」

 七夏実が顔を真っ赤に染める。

 なんでそんなに動揺しているのだろうか。


「ホントはもう少しゆっくり話したいけど、店の迷惑になっちゃうからまたあとで話そう七夏実ちゃん。じゃあ、二人共案内するね」

 いつもの陽気で派手なノリの白姫さんとは違い、切実で落ち着きながらも笑顔を絶やさず明るく接する白姫さん。

 仕事モードに切り替えている。

 だけどさりげなく七夏実ちゃんと呼ぶあたり、距離の詰め方が早くて白姫さんらしい。

 

「ご注文が決まったら呼んでね。これ、おしぼりとお水」

 改めて見ると学校の白姫さんとはかなり違う。

 アルバイトだからいまのような雰囲気でいられるんだよな。

 逆にいえば、仕事中は雰囲気をビシッとしなければいけないからこそ、学校では肩肘かたひじ張らずに腕を伸ばせているんだ。

 白姫さんを見ていたらなんとなくそう感じた。

 

「お兄ちゃん・・・・・・」


「どうした?」


「お兄ちゃんに可愛い知り合いがいるなんて思わなかったです」

 七夏実がほほを朱色に染めている。


「失礼だな!」


「ち、違いますよ! 他意はないですから」

 それはあると言っているようなものじゃないか?

 確かに俺はそういう知り合いがいるようなタイプではないけどさ。


「あんなに綺麗な人初めて見た。モデルさんとか女優さんかと思って、緊張しちゃった」


「ふーん。なるほどねぇー」

 白姫さんって学校の多くの人が言うようにかなり可愛いんだな。

 かっこいい対かわいい対決ができるかもしれない。


「ま、まさか!?」

 驚いたような表情を浮かべ、口をパクパク、目をパチパチとさせ、俺の方に顔を近づけてくる。


「対決をご所望しょもうかもしれないがまだ早い。ときがきたらな」


「お兄ちゃんの彼女だったりしますか?」

 吐息といきまじりの小声でヒソヒソと言ってくる。


「なわけないよ。なわけない。俺と白姫さんが付き合うことは絶対にない。ありえない」


「そっかぁ、そうなんですね」

 嬉しそうで悲しそう、なんともいえない表情を浮かべる七夏実。

 いまどんな気持ちでいるんだ。


「七夏実?」


「注文しましょうです。お兄ちゃん」


「あぁ、わかった」

 話が一区切りついた所でメニュー表を見る。

 色鮮やかで様々なメニューがあるんだな。

 流石は人気のケーキ屋だ。


「私はこの特製ショートケーキにします。これがお店一番のオススメなんです」


「へぇー、そうなのか。俺もそれにしようかな」


「お兄ちゃんは別のにしてください!」


「なんで?」


「違う味のも一口でいいから食べたいのです、、、」


「わんぱくか」


「わんぱくじゃないですよ! 割とあるあるです!!」

 恥ずかしそうにツッコんでくる七夏実。


「わかったわかった。そういうことにしておくよ」 


「本当にあるあるなんです!!」


「別の物を頼むことにするよ」

 といっても正直どれでも良い。

 あくまで付き添いだ。

 そこまでケーキを食べたいわけでもない。

 料理を作る者として、どんな風にケーキを作っているのか、味はどんなものなのかは気になるけど、このケーキを食べたいというような惹かれるものはない。


「七夏実が食べたいのを頼んで良いよ」


「え、私が決めていいんですか?」


「うん」


「なら・・・・・・決めました。じゃあ、店員さんを呼びますね」

 注文が決まり、店員さんを呼ぶと白姫さんがきた。

 

「注文決まった?」


「はい。特製ショートケーキと特製チョコレートケーキで、お願いします」


「わかりました。できたら持ってくるね」

 出来たら持ってくるのは当たり前だろう。

 待てよ、できたらってことは出来立てなのか。

 

「少し待ってて」

 白姫さんが注文を確認して俺と七夏実が座る席をあとにする。

 彼女の後ろ姿が目に映ってきた。

 いつものロングの髪型は後ろでまとめてポニーテールのようにしている。

 派手な印象を見せる普段の制服とは違い、薄茶色のシャツ、赤色のハーフエプロン、白色のスカートを身に纏い、スカーフとネクタイの間のような緑色のものを首に巻き、黒色の帽子を頭に被っているケーキ屋の制服は清楚せいそ感が増している。

 

「こっちの方が可愛いな・・・・・・」

 ボソボソと白姫さんを見ながら小声で呟く。

 うん、ただの変人で見る人によってはただのストーカーだ。

 俺だとそれすらも様になっているがな。


「お兄ちゃん」


「なに?」


「もしかして・・・・・・白姫さんのこと好きですか?」


「はっ!?」

 思わず大きい声が出たため、周りにいるお客さんから注目を浴びる。

 慌てて頭を下げて謝罪する。


「七夏実なに言ってんの?」


「だってお兄ちゃん白姫さんのこと凄い見つめてたんです。いつもだったら、俺の信念に反してる、とか言ってこういう店に入らなかったり、逃げたりするのに、今日は一緒に入ってくれたから・・・・・・好きなのかなと思いまして」

 似ているようで似ていない俺の真似をしながら説明する七夏実。


「それは・・・・・・七夏実が無理矢理店の中に入れたから。それにさ、クラスメイトがいたからって理由で、入った瞬間に店から出るのは店に悪いしさ」

 うん、そうだよな。

 店に悪い。

 だから出るようなことはしなかったんだ。


「お兄ちゃんが付き合ってくれた。それだけで嬉しいから理由はなんでも良いんです。ただその・・・・・・うん」


「なにか言いたいことがありそうだな七夏実」


「白姫さん凄い可愛いし、優しそうだし、話したら楽しそうだから、お兄ちゃんが仲良くしてくれたら、必然的に私も関われる機会が増えて、仲良くなれそうです・・・・・・つまりお兄ちゃんには頑張ってほしいです」

 おい感動的な外に出かけない兄に対する妹からのメッセージではないのか。

 これはまるで白姫さんへのラブレターだぞ!?


「一目惚れか?」


「違うよ、そんなことないです!! ということもないのかもしれないです」

 回答を曖昧あいまいに濁す七夏実。

 白姫さんを好きになることをめろと言うつもりはないけど、妹の願いには答えられない。

 何故なら俺は別に白姫さんが好きなわけでも気になってるわけでも、仲良くしたいわけでもないからだ。


 ケーキ屋で真面目に働く白姫さんを見て、印象やイメージが少し変わったことは確かだけど。




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