ファッションお嬢様
私は生まれた時から、お嬢様だった。
そうあることを義務付けられていた。
お嬢様なんて言えば優雅なイメージを思い浮かべられるだろう。
浸っていると、酔っているとそんな風に思われるかもしれない。
だけど、私は嘘を述べていない。
お嬢様として生まれ、育ち、今に至る。
周りにいた全ての人が私のことをお嬢様として見ている、だから、私は、笹野内愛は———お嬢様。
変わりようのない運命だ。
頭を使う物事も、体を使う運動も、全て完璧であることが望まれた。
品行方正、才色兼備、家と両親の格式を下げないよう努めていた。
求められるのは、笹野内愛ではなく、笹野内家の令嬢としての役割。
実際に卒なくこなせる、受け継がれてきた遺伝子に刻まれた才能に恵まれているから。
だからこそ、私は私ではない、秘めている才も力も、別の誰かの受け売り。
私はいない、本当の私は存在してはいけない。
ずっと、暗い鳥籠の中に囚われた雛鳥にもなれない卵。
孵化しているのか、殻に閉じこもっているだけなのか、どちらなのかも自覚できない。
いえ———自覚なんて・・・・・・しなくていいのだろう。
ファッション○○○
人はなにかしらのファッションを纏っている。
高校生、清楚、ギャル。
嘘と本当の境界線でいろんな自分を演じている。
それは本当の自分自身と向き合えているのか。
ファッション○○○、人はなにかしらの嘘をついている、そうしなければ生きられないから。
なんのファッションを身に纏っているのだろう。
どんなファッションで着飾っているのだろう。
私は、
笹野内愛は、
ファッション○○○
季節は六月中旬、梅雨真っ只中だ。
入学したばかりの一年生も学校に慣れてきた頃。
高校生になったからこその悩みや不安に押しつぶされ始める時期。
ただ、大半の生徒が今悩まされているのは、一学期最後の期末テスト。
幾ら才能ある者が集まっている学園といえど、赤点を取れば、学校から呼び出しをくらう。
特に生徒会は放っておかないだろう。
間違いなく天上帝生徒会長は問い詰め、最悪退学させる。
ついこないだ起きたように。
あの後、生徒会長とは会えていない。
都合よく生徒会長は姿を見せなかった。
笹野内さんと生徒会室へと向かったが姿はなかった。
その次の日も、また次の日も・・・・・・。
生徒会室自体が閉まっていた。
退学した生徒は表向きは自主退学。
だから普通の生徒達も特段気にはしていない。
けれど事情を知る者にとってはただの退学でないことがわかっている。
退学したのではなく、させられたのだと。
笹野内さんと退学者について意見を交わしているが、最近の笹野内さんはどこか遠くを見ている。
心ここにあらず、何かを考えている。
そのことについて踏み込みたい気持ちがある。
でも聞いてはいけない気がして、なかなか口に出せなかった。
まだまだ簡単には人のオモイを聞き出せそうにない。
生徒会も呼び出しがかかっていない。
生徒会長も副会長も学校に来ていない。
せっかく入ることが決まったが、生徒会の実感は皆無だ。
聞きたいことだけが深まるばかりだ。
「本咲これからどこに行くの?」
金髪ロングが靡き、黒い目で見つめられる。
今日も制服は着崩して第一ボタンを大胆に開けている白姫波音羽。
俺と一、二を争うセクシーを醸し出している。
放課後授業が終わった白姫さんに少し付き合ってほしいと頼んだ。
「私も気になるよ強助。突然ついてきて、なんて言われたら」
肩まで伸びた黒妃優華の紫の輝きに目が惹かれる。
群青の目で見つめ返されれば目を逸らしてしまう。
クラス問わず、学年で、学校で人気な、可愛い女の子二人と一緒に歩ければ、否応なしで心臓は飛び跳ね、落ち着かせることはなかなかできない。
必死で抑えるんだ強助!
お前らならこの衝撃も乗り越えられるぞ!
「ちゃんと目的地に向かっているんだよね?」
「もちろん。適当には歩かないよ。たまには体が赴くままに、風に揺られながら、歩くっていうのも悪くないけど」
「それなら私帰るよ」
呆れた目で見てくる白姫さん。
「待って待って、決してそんな理由で歩いているわけではないから!」
「なら勇者一行の歩き練習?」
優華が聞いてくる。
「パーティーメンバーではないし、歩き練習ってなんだよ!」
クスクスと笑う優華。
二人とも俺のことをからかっている。
けれど楽しいなら、ここは最高のイケメンとして受け入れなければいけないな。
誘っているのは俺なんだし。
「とにかくもうすぐ着くから」
教室を出て廊下を進み、階段を降りたら靴を履き替え、校舎の裏側、花壇が並ぶ裏庭の方へと向かった。
その場所には先に来客が二人おり、こちらに気づくと頭を下げてくる。
「本咲の彼女?」
「違うわ!」
女の子二人はまだ顔をあげない。
当然かもな。
今回は彼女達からの要望で場を取り持った。
「噂のことごめんなさい!」
緊張感が走る。
一言で白姫さんも優華も誰なのか気づく。
白姫さんと優華を、噂で苦しめた元凶。
その人物達が目の前にいる。
白姫さんと優華はどんな気持ちを抱えているのか、おそらく明るいものではない。
もしかしたら、ここは凄惨な現場になるのかもしれない。
「———あんた達、とりあえず頭を上げて」
冷たい声を発する白姫さん。
怒っているのか、悲しんでいるのか、様々な感情が蠢いている。




