波音羽の運命
私は生徒会の副会長、西蓮寺春兎と会うために生徒会へ訪れた。
「こんな朝から仕事、仕事、仕事だぜ。クソみてぇだよなぁ」
「あっそ。でも辞める気ないんでしょ」
「辞めるわけないだろ。この役職についておけばいろいろ楽しめる。目的だって叶えることが出来るんだからなぁ」
ケラケラと笑う春兎。
こういう笑顔私は苦手だ。
「あんたの目的ってなに?」
私をジロッと見てくる。
「天の時は地の利に如かず。俺が完璧に事を運ぼうと、運を味方につけようと天上帝は絶対に負けることのない位置から俺を見下ろしてくる。そんな生徒会長さんを俺は引きずり下ろして打ち負かす」
「生徒会長に勝つことが春兎の目的なの」
「膝つけど、支配に負けぬ、主人公」
「なにそれ、カッコつけたつもり? ダサッ」
「あいつが虎の威を借る狐でも俺は絶対勝つ。その先にあるものを実現するためにな」
なんかさっきからことわざを多用してうざい。
イキってるんだろうけどキツイ。
「言い方くどい!! その先にあるものっていうのがなんなのかをさっさと聞きたいんだけど!!」
目的を聞きたいだけなのに、わざわざ遠回りに言ってくるのは私に構ってほしいからなの?
私のこと好きでもないくせに女の子がすきだから見栄張って、ほんとダサい。
「ふん、シンプルな願いさ。更なる強敵との戦い。西蓮寺春兎が最も才能ある者だということを証明する。この学園だけでなく、もっと大きいところも含めてな」
「とにかく戦いたいだけってこと?」
「雑魚には興味ない」
「強い人と戦って自分が一番だと証明することに拘ってるの?」
「お前にもわかるだろ波音羽」
質問に答えず近づいてくる春兎。
反射的に後ろに下がるがあっという間に距離を詰められる。
「逃げなくてもいいだろお姫様」
「そんな呼び方をするようなやつの近くにいたいなんて普通思わないでしょ」
背中に手を回される。
「ボディタッチをすることで人は安心感を覚えるんだぜ。隠している本音を早く言えよ、俺としたいんだろ」
「はぁっ!? なに言ってんの、キモ、ゴミクズ、最低!!」
押し返して距離を取ろうと思ったけどすぐさま肩を押されて壁に押し付けられる。
「あんたなんかとしたい人なんていない!!」
「嘘はよくない、俺は結構顔いいぜ。頭だって良いし、運動もできるんだ。モテないはずがないだろ。ひくて数多だ」
「自意識過剰でしょ」
こんなナルシスト変態のことを好きになる子なんているのかな。
「女の扱い方は上手いんでな」
実態を上手く隠して騙しているのか。
より最低な男だ。
「じゃあそんなあんたのファンと過ごせばいいじゃない」
「わかってないなぁ〜簡単に堕ちるような最初から好意があるやつは面白くねぇだろ。自分に見向きしないからこそ、堕とす価値があるんだよ」
「気色悪い」
本気で引く。
女の子を物としか見てないんだろう。
「褒め言葉として受け取っておくぜ」
私の肩を押し付けた春兎の手はなかなか離せない。
離そうと抵抗しても目の前にいるこいつにはなにも効かない。
「嫌だ、やめて・・・・・・触んないで!」
「おいおい。俺らはそういうことをしてはいけない関係ではないだろ」
顔が迫ってくる。
「春兎やめてよ!」
制止も聞かず顎に触れてくる。
身の毛がよ立つ離れてほしい。
近づかないでほしい。
「ふん、どうせ長いことこれから過ごすんだ。今日はお姫様の言う通りおとなしく引いてやるよ」
抑えてた手を引き私から離れてくれた。
ホントに不快。
けどこれを受け入れなければいけない日がくる。
「俺たちは許嫁なんだからな。仲良く行こうぜ花嫁さん」
どうしたらいいんだろう・・・・・・本咲なら今回みたいに救ってくれるのかな・・・・・・。
そんなの都合が良すぎるよね。
偉そうに言っておきながら自分を全く変えられてない、立ち向かう勇気のない私なんかが、また助けてもらおうとするなんて。
白姫波音羽は醜い女。
目の前にいる男からも、周りにいる人からも、運命からも、逃げられない。
なにより、自分が大好きで憧れてる人を裏切ってしまうことができない。
だからもっとも逃げたい父親からは絶対に逃げられない。
「どうせ変えることなんてなぁ、できないぜ。俺とお前はどんなことをしようと結婚させられる。だからなぁ必死で否定したっていいことないぜ」
オモイは口に出さなきゃなにも伝わらない。
本咲に言ってるのに自分ができない。
最低だ、人にしか言葉を向けない、自分には向かせることができない。
震えて怖くて、変わりたいけど、変わる自分を恐れてる、なにかに染まってく気がする自分が受け入れられなくなる。
どんな大人になろうとしても子どもという檻に、親が作った鎖に縛られ続ける。
「親に子どもは勝てねぇ。子であり続ける限りな」
悔しいけど事実だ。
私もどんなに逃げようとしても親からは逃げられない。
春兎の言ってることは正しい、でもわかってるけど認めたくない、違うと信じたい。
どうしたら私は・・・・・・。
コンコンとノックが聞こえる。
「ふん、こんなタイミングで登場かよ」
誰?
春兎の仲間・・・・・・?
「入ってください。ここはあなたの庭だ。いちいち確認する必要もない。そうでしょう天上さん」
扉が開かれる。
天上って、美冬・・・・・・。
いやお兄さん、生徒会長!?
そうなれば私にとっては全く良いお知らせではない。
「波音羽から離れろ!!」
私と春兎の間に誰かが入る。
「おっと変な珍客がきたもんだ」
「えっ、雅!?」
そこには親友がいた。
なんでここにいるの。
「波音羽こんなところになんで一人でいるの。それに誰よこいつ。波音羽を連れ込む野蛮人!!」
「散々な言われようだなぁ」
「怒ってる?」
雅、雅、私、嬉しいよぉ。
「当たり前でしょ! あんなことが起こったあとなのに一人でどこかに移動して、気になってついて行ったら部屋にいかにも体目当てみたいな男と二人きり。心配しないわけない!!」
本気で心配してくれてる。
「とにかく帰ろ」
手を引かれる。
「それとなにを話していたかよくわかんないけど、聞こえてきたことに対して反論。子どもが親に勝てないとは思わない!!」
「ふん。随分と荒々しい友だちがいるんだな」
「余計なお世話。どこぞの金パ俺様野郎に評されたくなんてない!!」
扉を開け私を連れて部屋の外に出る雅。
最後私の方を見てなにか春兎が呟いてたけど、よくわからなかった。
そのまま走って廊下を進む。
生徒会室から距離が離れ、振り返ると春兎は追ってきていない。
雅が走るのをやめる。
「・・・・・・ありがと雅」
頭を軽く叩かれる。
痛くない優しい感触だ。
「何年の付き合いだと思ってるのバカ波音羽。親友なんだからなんでも言いなよ」
「う・・・・・・うん」
「今回本咲くんに全て持っていかれたけど、本当は私が助けてあげたかったんだから」
「———私は最高の親友を持ってるんだ」
「そうだよ。だからいつでも頼ってね」
心強い親友がいる。
頼れる友達がいる。
ちょっと距離を縮められた男の子がいる。
私は、白姫波音羽には、味方がいる。
でもね、ごめんなさい雅。
誰にも頼ることはできないの。
私が白姫波音羽でいる限り決まった道から外れることはできないの。




