七夏実とケーキ屋
「デート!? 兄妹なのに?」
慌てて大きく手を横に振る妹の七夏実。
「ふ、ふ、深い意味はないんですよ! ただ明日私の買い物に付き合ってほしいだけです」
さっき俺も深い意味がないと言った。
似たような言葉を使うんだなぁ。
やっぱり兄妹なんだな。
「どう、ですか。お兄ちゃん?」
家族の神秘性にふけていると、心配そうに七夏実は聞いてきた。
「いいよ。買いものなら二人でもたまに行くしな。でもなんでわざわざ今回はデートって言ったんだ?」
実の妹にデートと言われビックリした。
兄妹でも二人で出かけることをデートということを俺は知らない。
「その、だから・・・・・・特に深い意味はないので!!」
もう少しで俺の顔にあたるぐらい目の前まで、顔を詰められる。
「わかった。けどそんな風に言われたら逆に深い意味があるように思えるけど」
「本当にないので!! 私を信じてですお兄ちゃん」
ウルウルとした目で訴えてくる。
あざといって。
女の子の流行りなのか?
白姫さんも優華もやってたし・・・・・・。
それにこれおそらく無意識だ。
「わかった。信じる、信じるから」
こういうあざといの妹だとしても俺は弱い。
また負けた、この俺が。
クソ、俺があざとさへの適性がないだけなのか。
「良かったです〜〜」
胸に手を当て一息つき、ニコッとした笑顔になる七夏実。
瞬時にこれだけ表情も感情も変化するのか。
末恐ろしい妹だ。
「ちなみに買う物は決まっているの?」
「あぁ〜、なんと言いますか〜、今週は私が買い出しだから、食材を、ですね・・・・・・」
言葉が途切れ途切れになっている優華。
「そんなにたくさん量があるのか? この家にある食材はネットで買っている物がほとんどだし、買いに行く物と言えば肉や魚とか生物くらいだけど。それも最近はネットで頼んでいるしな」
買い出しに一緒に行ってというから、荷物持ちの役目かと思ったが、量的にそうではなさそうだな。
なにか別の目的がある気がする。
「とにかくいろいろあるんですよ」
顔を俺から逸らした。
やはりなにか隠している。
「いろいろ、か。わかった、なんにしろあしたは買い物に着いて行くよ」
買い出しに行くのは本当だろうから明日は予定もないし断る理由はない。
明日っていうか予定自体はほぼ毎日ないんだけど・・・・・・。
だって俺は孤高であり、高嶺の花的な存在だから。
「明日の十四時にお願いです」
「了解」
七夏実と話し終えたことで俺はもう一度冷蔵庫へと向かい、副菜とみそ汁作りを始めることにした。
「あれ・・・・・・なんだかとてもいい匂いがします!!」
クンクンと鼻を動かしている。
「今日は親子丼を作ったんだ。塾行く前に食べるか?」
「はい!」
そそくさと慣れた手つきで茶碗を取り出し盛り付ける七夏実。
「世界一の美味しさを俺の料理は持っているからな」
キッチンの横にあるテーブルへと持っていき食べ始める。
俺はみそ汁と副菜を七夏実が食べている間に作り上げ、できると同時に七夏実へと持っていった。
「どれも美味しいです!!」
幸せそうに食べる七夏実を見て作って良かったなと思える。
俺と七夏実は二人で食べることが多い。
七夏実以外の家族は・・・・・・みんなバラバラの時間に食べるから反応はよくわからない。
美味しいと思っているのか、不味いと思っているのか。
どっちなんだろうな。
まぁ美味しい一択だろうが。
「どうしたのですかお兄ちゃん?」
「なんでもない」
「それならいいですけど、困ったことがあるなら私に頼ってくれていいですからね!!」
「うん、ありがとう」
俺も七夏実と一緒にご飯を食べることにした。
椅子に座りテーブルを挟み向かい合いながら食べるとき、俺は七夏実に心の中で謝った。
七夏実は悪くない、だけど、俺は家族に頼ることはうまくできない。
人に頼ることが上手くできないんだ。
「お兄ちゃん。付き合ってくれてありがとうです」
翌日の土曜日俺は七夏実と一緒に駅前のスーパーに訪れた。
「礼を言われることはないよ。それより俺が気になるのは、さっきスーパーで買った食材だ。お菓子の袋をいくつか買っただけ。これなら別に一人でも買える量だよな?」
買い終わり店を出た所で気になっていたことを聞いてみた。
「そ、そうですね・・・・・・」
声が小さくなっていく七夏実。
「追加で買うのか」
「いえいえ」
「なら、別の理由があるのか?」
「・・・・・・」
「今日わざわざ俺と買い物に行ったこととは別の理由が」
「無いと言えば嘘になります」
キュッと口を萎ませて申し訳なさそうにする七夏実。
「買い物に誘った理由聞かせて。イケメンな男とデートしたかったっていうなら、俺は簡単に納得するよ」
俺は七夏実の肩に優しく手を置いた。
「理由なら、もうそろそろわかると思います」
含みを持たせた言い方をされるが、良くわからなかった。
七夏実に連れられるがままに向かったのは、駅前のショッピングモール。
学校帰り優華と訪れたアイス屋がある場所だ。
その中でしばらく歩いていると七夏実が突然止まった。
「あれです」
七夏実が指差した先にあったのは・・・・・・。
「ケーキ屋だ」
外観はピンクに彩られ、ショートケーキの大きな看板が目印になっている。
「ここ、凄く最近話題になっているお店なんです!!」
「へぇー」
七夏実の圧と一瞬の変わり様に戸惑う。
「ずっと前から行きたかったんですけど、一人で行くのは敷居が高くて〜〜」
「そっか。でも、友達とはいけなかったの?」
「みんな行ったことがあるのに、私だけ行ったことがない。なんて感じだとしたら嫌だったんです」
顔を下に向けて恥ずかしそうに答える七夏実。
「そういうものなのか」
女子の世界やグループ、友達、交友関係、俺にはよくわからない。
なんせ運動会後、見事に一人の立場を確立したからな。
だから、良いとも悪いとも言えない。
「この話はいいので、早くお店に!!」
「おい、七夏実走るなって」
急ぐ七夏実を追うように店の中に入る。
するとそこには。
「いらっしゃいませ〜〜、お二人様のご案内でよろしいですか〜?」
薄茶色のシャツ、赤色のハーフエプロン、白色のスカートを身に纏い、スカーフとネクタイの間のような緑色のものを首に巻き、黒色の帽子を頭に被った女性が出迎えてくれた。
帽子の中に髪は仕舞われているが、僅かな隙間から見える金髪が眩しいくらいに輝いている。
誰かと同じ雰囲気を感じるな。
顔を良く見てみると・・・・・・。
「し、白姫さん!?」
「えーっと・・・・・・本咲!?」