覚悟表明
携帯を取り出し連絡を入れインターホンを押した。
数秒も経たない内に声が聞こえる。
「強助!?」
「優華いまから会える?」
「突然だね!? ちょ、ちょっと待って!!」
通信が切れた。
その隙に自分の家に戻り荷物だけ玄関に置いた。
家から出て優華の家の前に戻ると丁度優華が出てきた。
「お待たせ強助」
黒色のたゆんだロングスカートにヒラヒラとした黄色のブラウス。
この前家でケーキを食べた時とは服とスカートが反対の色だ。
大人っぽいけど優華らしい、そんな雰囲気を纏っている。
優華との相性抜群の衣装で似合っていて、なにより可愛い。
見れば見るほど顔の温度がどんどん上がっていく。
けれど、ここまでの衣装をいま準備したとは思えない。
俺がくる前から着替えていたのか?
「そ、その、強助いっぱい見てる。私・・・・・・あんまり着こなせてないよね」
「そう思う人はこの世にいないよ。優華らしくて良いと思う」
「大袈裟だよぉ〜〜」
素直に褒められない。
可愛いとか綺麗とか伝えられない。
だからふざけているような伝え方しかできない。
気まずい時間が流れる。
「優華歩かない? 行きたいところがあるんだ」
「どこ?」
「ついてきて」
「まだ返事してないよ〜!」
前を歩いて優華は後ろからついてくる。
隣で歩むのが当たり前だったのに。
歳が進むにつれて離れた距離。
二人の距離感にほんのり寂しさを感じる。
「優華!?」
そんなことを考えているときだった。
「見失わないように、ね?」
シャツの裾を掴まれる。
かぼそい力だけど離さない。
そんな優華の姿により心が騒がしくなってしまう。
「わかった。ついてきて」
目的地までは家から三、四十分歩く。
さっきよりは距離が近づいたけれど、その距離が小っ恥ずかしく、なんとも言えないまま無言で歩く。
けどしばらく歩いていく内に心の距離が縮まっていった。
いつものような、どこか違うような、軽い談笑をしながら目的地へと着いた。
「うわっ〜〜!!」
着いた瞬間、優華が手を離し走り出す。
「綺麗〜〜〜」
落ちかけの夕陽が辺り一面の海に広がる。
訪れたのは灯台近くの海が見渡せるベンチ。
「いつ見ても最高だね」
俺と優華の馴染み深い場所だ。
「この場所でたくさん話したっけ」
「話したよ。最近は少ないかもしれないけど」
手すりに手をつけ景色を楽しむ優華の後ろで一人ベンチに座った。
「強助」
「うん?」
「まずは言っておかないと思って」
大きく息を吸い込む。
「ありがとう〜〜〜!!!」
海に向かって大きく叫ぶ。
「注目浴びるよ」
「周りに人はいないから大丈夫、じゃないかも。ちょっと調子乗りすぎちゃった」
エヘヘッと申し訳なさそうに笑う優華。
立ち上がり俺も優華の隣に行く。
「どうしたの?」
「疲れたーーー!!!」
海が騒がしくなった気がする。
イケメンの咆哮に反応してくれたのか。
「強助までなにしてるの」
「叫びたくなってさ」
「変だね」
「そんな日もあるよ」
おかしくなって笑い合う。
「ごめんね強助。大変だったよね」
「超大変」
「嘘でもそんなことないとか言ってよ〜」
頬を膨らませる優華。
そのあと落ち込んだ様子を見せる。
「からかいたくなっただけ、嘘だよ嘘」
「もぅ〜私は本当に・・・・・・強助が問題ないならいいけどさ」
負い目を感じているんだろうな。
そんな必要はないのに。
「覚悟を決めてからは大変だった」
「ほら〜やっぱり〜」
手すりを握る力が強くなっている。
「強助無理してない?」
優華の方を見ると、口を結んで俺の方をじっと見つめてくる。
「無理はしてるよ。でもその無理も良いのかもしれないと教えてもらったからさ」
手すりに背をつける。
「傷つける覚悟っていうのが重要らしい」
相手だけでなく自分もだ。
「それって強助の身を滅ぼさない?」
「どうしようが滅ぶ確率はあるんだ。滅ぶんだったらなにしようが滅ぶよ。遅いか早いかの違い」
「強助」
「一つ言えるのはそのおかげで今回噂を無くせた。悪くはない選択だった」
優華とまたこうして話せるのも覚悟を持ったから。
そしていまここで、また一つ覚悟を確かめる。
「———生徒会に入るんだ」
海の音にかき消されていく。
けれど届くには十分な声だったはず。
驚くか呆然とされるかと思っていたが、はにかんで笑うだけだった。
「私も・・・・・・ううんなんでもない」
過去の自分ならここで引いていたけど、傷つける覚悟を学んだんだ。
聞かなければダメだよな。
というか聞きたい。
「生徒会に入りたいの?」
「入りたくはないかな。でもね・・・・・・」
言葉を濁している。
言いづらいことなのか。
「やっぱりなんでもない生徒会頑張って」
無理をするなと自分で言っているくせに、自分が無理をしている。
「なにか思っていることがあるでしょ」
顔を近づけ距離を詰める。
アワアワと慌てている優華。
緊張が解れているならいいけど。
「教えてほしい」
更に近づくと優華は目を瞑った。
そして俺の胸を押してくる。
「強助が心配なの、大丈夫かなって思ってて」
「そんなこと?」
「そんなことじゃないよ! フン」
優しさの照れ隠しか。
申し訳ないと同時に嬉しいな。
今日は俺が、いつもは優華が歩み寄ってくれているから、今日は俺が歩み寄らないと。
「ど、ちょ、えっ!?」
優華の手を両手で包む。
「あ、あ、安心して。俺向き合ってみるから。生徒会に入ってなにが得られるのか、学べるのかわからない。だけど、入ってみないことにはなにも変わらないから」
傷つける覚悟、向き合う覚悟。
俺はこれからやっていかなければならない。
「その、だから、できる限り心配しないで、見ていただけると嬉しいです」
すごい恥ずかしいことを言っている。
誰としたどんな会話や言葉よりも心臓が揺れている。
いまにも逃げたいけど、足が動かないくらい揺れている。
血の巡りが速くなっているはずなのに、酸素が行き届いていない感覚になる。
「わ、わかったよ。強助のこと絶対見てる」
目が少し開かれる。
眩しい笑顔の幼馴染がいた。
それを見れればもう、緊張なんてものは海に流される。
「うん!!」
表情を隠さず笑い合う二人。
夕陽が照りつけ、塩を感じる海の匂いの中で本心を少しは見せられるようになれたかな。
まだまだお互い隠していることがあるかもしれないけど、いろんなものと向き合っていく中で、見せることができたらいいな。




