糞ヒーロー
「無事に終わりましたね」
「ほんとに無事かどうかはわからないけど」
夕日が立ち込める廊下を笹野内さんと二人で歩く。
「本咲くんがサッカー部に入ると仰ったときは心臓が止まるかとオモイましたわ」
「止まってたら俺が蘇生してあげるよ」
「そういう問題ではないかと」
クスクス笑う笹野内さん。
「最初からあのような案をオモイついていたのですか?」
「生徒会長が俺のサッカー部いりに一番こだわっているとわかったときこの案を考えた。入部届けも渡されて、俺に固執していることも把握できたから。あとは、取り引きの中で、あの人のプライドと天秤を計りながら約束を結んだんだ」
「一人で終わらせたい。そう考えていたのですよね。全部かっこいいところは持っていきたいと」
「そうかもしれない。というかそうだ」
「認めてはダメでしょう」
「かっこいい奴はなにしてもいいだろ?」
「・・・・・・私の冗談に付き合って頂きありがとうございます」
無視される。
髪をクルクルと人差し指で回しながら顔を伏せる笹野内さん。
一言二言なにか呟いていたが聞こえなかった。
「明日からは生徒会ですよ」
「そんな早くからなんだ」
「善は急げです」
「急いだら悪に染まるかも・・・・・・」
「二人とも!!」
談笑しながら歩いていると前からドタバタと勢いよく誰かが走ってくる。
「本当に噂なくなったんだね!! 本咲くん笹野内ちゃん!」
「なんとか上手くいったよ駒下さん」
両手を俺と笹野内さんの前に出す駒下さん。
無言の時間が流れる。
こんなこと一昨日もあった。
「二人ともなんで固まっているわけ!?」
「逆にその手はなに?」
「ハイタッチだよ。ハイタッチ!! お互いの手を合わせるの」
「あぁハイタッチ。だけど・・・・・・」
「なぜ行うのです?」
笹野内さんが問いかける。
「息ぴったりだね二人とも!! ほら早く手を出して」
俺と笹野内さんが手を少しだけ前に動かした瞬間手首を掴み強制的に上げさせられる。
「イェーイ!」
パチッと廊下に響き渡る。
重なった手からは喜びの熱が伝わり駒下さんのオモイが入ってくる気がした。
「本当にありがとう」
「いえいえ。大したことはしていません」
「してくれたよ波音羽と黒妃ちゃんを救ったんだから、とっても凄いよ!!」
手をグーの形に握りしめ顔の前で軽く揺らしている。
ゆるキャラみたいで可愛いな。
「本咲くんもありがとう!」
「俺がしたかったからしただけだよ。だから感謝されることなんてない」
「ふ〜ん、したかったからしたんだ。本咲くん自己中だね」
プンスカと怒った目で見てくる。
「ならお仕置きだ〜」
頬をつねられる。
ギュッと引っ張られる。
意外と痛い。
「痛いでしょ〜」
「怪我人だからな」
全身壁にぶつけて、まだ痛みは引いていないどころか、治ってもいないんだ。
昨日も新しい怪我をしたばっかだ。
「ごめんごめん。ちょっと調子乗っちゃった」
「手荒い祝福だと思うことにするよ。それより、白姫さんの体調は大丈夫だった?」
「元気元気!!」
明るい返答がくる。
白姫さんに覇気が戻ったなら今回の事件は本当の意味で終わりを迎える。
これからまた、からかわれるかもしれないと思うと杞憂になるけど。
「それより黒妃ちゃんは?」
「このあと様子を見てくるよ。親友もかけつけているから、良くなっててほしいな」
「なら良かった。でさでさ!」
テンションが高くなっている駒下さん。
「今度三人で花を見に行こう!!」
「花?」
「出かけるって約束をしたでしょ? いい花園を知ってるんだ!!」
確かにひと段落がついたら三人で出かけようと話してはいたけど。
本当に行くのか。
「私はいいですよ」
「ねっ、行こ行こ!! 本咲くんは?」
「別にいいよ」
「良いんだ。意外。けど、別にって」
ジーッと睨まれる。
「いや興味ないとかそういうわけでは」
「わかってる。じゃあ行こ! 日程はまたあとで決めようね!!」
楽しみそうだな駒下さん。
俺と行くんだから当然か。
「私はこれから先生のところに行ってくる。昨日今日と波音羽のところに行ってて、無断で休んだから呼び出しくらっちゃって」
それは怒られるだろうな。
「じゃあまたね!!」
駒下さんは走って職員室へと向かっていった。
「元気な方ですね」
「俺とは真逆だ」
「そんな悲観する必要もないですよ。本咲くんは意外と明るいですから」
どこをどう見て言っているんだろうな。
明るかったらもっと友達も一杯いると思うんだけど・・・・・・。
「生徒会どうなっていくのでしょうかね」
「全くわからない。いまわかっているのはお揃いの指輪を嵌めることだけだよ」
自身の指を触りながら見つめてくる。
「天上磨学園って、才ある者たちが集まる学園なのにアクセサリーとかつけてもいいの?」
副会長もたくさんつけていた。
「大丈夫みたいですよ。許可をとると私服で登校も可能だと伺いました。生徒会は許可もいりません。なんでもありです」
「なんでもありか」
学校の決まりやルールに関して生徒会は基本的に緩くしているんだな。
「そんな生徒会明日からよろしく」
「はいよろしくですわ」
なにか考え事をしている笹野内さん。
「どうかしたの?」
「いえいえ。思い出したんです。キスのようなことをしましたね」
一昨日の夜笹野内さんが俺にしてきたことか?
あ、あれはキスではない!!
断じて違う。
「鼻が触れ合っていたのみでしたけれど」
「のみじゃないよ。十分ディープだよ」
呆れのような、驚きのような、思わず笑みが浮かぶ。
「嬉しかったですか?」
「答えづらいことを聞くなぁー」
「ですから聞く意味があるのです」
「意地悪だなぁ〜!」
笹野内さんといるとこんなやりとりを何年もしていたかのような気分になる。
ある種幼馴染である優華とは違った特別な雰囲気だ。
これからも耽美な事象を味わいたいな。
「チッあいつ」
憎悪と怒りが心の中で暴れ出す。
抑えようとした鎖は完璧に引きちぎれた。
「あんな状態の癖に。のうのうとしやがって」
許せなかった、認められなかった、壊したくなった。
自身の感情にフツフツと気づいていく。
体に抱える爆弾も呪いもいまは塵芥にしか見えない。
「いまのあいつには興味がない。だから俺が潰す。過去の憧れ、英雄と完全に決別するために」
自身の光と強さ、闇と弱さ。
その二つに背を向け歩き出す。
「俺を造っているのは馬鹿兄貴でも糞ヒーローでもねぇ。俺自身だ。俺は・・・・・・」
過去と現在と未来。
その全てを作り、消した存在。
絶望を希望に変えたモノ。
零にする。
一から始めるために。
「天上美冬だ」




