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本咲強助の狙い







「生徒会に入ることをなぜそうも聞く」


「しっかり確認しておかなければなりませんから」


「お前が素直に入りたいオモイだというのなら嬉しくはあるがな」

 手を組む。

 中指にめた指輪が輝きをまとっている。

 えて見せびらかしているのか、それとも無意識に主張してくるのか、どちらなのだろう。


「これを持ってきましたよ」

 目の前に紙を一枚出す。


「入部届けか。持ってきたんだな」


「昨日約束しましたからね。持ってくると、サッカー部に入部すると」


「フン」

 笑っていないが心はご満悦なことがわかる。


「本咲くんどうしてですか。サッカー部に入らないのでは」

 俺がサッカー部に入ることを笹野内さんには教えていない。

 顔にこそ出ていないが驚きを隠せていない。

 彼女が感情をここまであらわにするのは珍しい気がする。


「昨日いろいろあって、噂を無くすためには入ることが条件だったんだ。取り引き失敗したんだ、情けないな」


「失敗したことは重要ではありません。なぜ私にいままで黙っていたのですか、教えてくれましたら手のほどこしようがありましたのに。私がなんとでもしてみせましたのに」

 

「だからこそ、かな。今回は俺の手で決着をつけたかった。笹野内さんと駒下さんが一緒に動いてくれたから、俺はここにいる。でも()()()俺がなんとかしてあげたいんだ。自分のせいで巻き起こった結果なら、自分があと始末をしたい」

 隣に立つ笹野内さんの目をしっかりと見て伝えた。


「まさか本咲くんあなたは・・・・・・」


「先生からも了承済みです」

 笹野内さんの話をさえぎり生徒会長の前に出す。


「顧問の所に行ったのか。話が早いというよりも行動が早すぎるな」

 

「無駄を嫌う生徒会長のためにです」

 これは全て生徒会長のため。



 そう、それに間違いはない。

 

 ただし、サッカー部に入るためかと言われたら変わってくる。


「そしてこれもです」

 相手の土俵どひょうで戦う必要があった。

 その中で行う必要があった。

 全ては油断が生まれない天上帝のわずかな隙をつくために。


「受け取ってください。この退部届けを」

 新たに出したもう一枚の紙。

 これは昨日貰った物と別。

 入部届けを提出したあと今日貰った物だ。

 副会長がフッと大きい鼻息を溢す。

 既に書き終え顧問に了承済みだ。


「本咲強助これはどういう意味だ」

 生徒会長の表情はさほど変わっていないが眼光が鋭くなっている。

 少しばかり焦りと怒りを感じる。


「昨日取り交わしたのはサッカー部への入部です。退部をしてはいけないという取り引きは交わしていないですよね?」

 これは契約の穴をついたもの。

 

「退部届けも了承されたのか」


「了承してもらいましたよ」


「入部届けを出したその日に、退部届けを出す。そんなことが、なぜまかり通ったんだ?」

 普通では難しいかもしれない。

 そんな失礼で横暴なこと。

 ただこの学校は普通ではない。

 普通ではない学校にしている存在がいる。

 

「その指輪いいですね」

 疑問符を投げ返す生徒会長。


「生徒会の証みたいです」


「・・・・・・」


「事前情報は仕入れていましたから」

 私は教えていませんよと小声で伝えてくる笹野内さん。


「春兎か」

 ニヤついた笑み以上にニタッーと笑う副会長。


「とにかく常識では無理ですよね。入部届けを出して受理されたのち、すぐさま退部届けを出して受理されるということは。けれどその常識は生徒会のメンバーというだけで覆すことが出来ましたよ」


「お前は正式にはまだ入っていない。生徒会だとどうやって認められた?」


「この指輪を見せたら生徒会だとすぐに信用されました」

 昨日副会長から貰った指輪を会長の前に出す。

 生徒会の証だ。


「流石はなんでもありの生徒会ですね。普通じゃあ無理なことも、なんだって出来ましたよ。入部届けを出して、すぐさま退部届けを出すことができるなんてすごいですね。この指輪すごいですよ」

 

「それは俺の」


「天上さんから託された物は本咲に託した」

 副会長が割り込んでくる。

 生徒会長の物だったとは、いわくつきみたいで持つことが少しはばかられるな。


「これを出せば誰だろうと生徒会だということが信じられるからなぁ」


「本咲側についたんだな春兎」


「勘違いしないでくれよ。そんなわけねぇ利害が一致したから協力してやっただけ」

 怒り純度百パーセントの副会長。


「なんでもありの生徒会。今回の件で凄く実感できましたよ」

 生徒会というだけで、指輪を見せるだけで、どんな横暴も無理矢理まかり通る。

 そんなの一般常識では考えられない。


「生徒会の証である指輪を渡し、即座に有効活用する。出会ったばかりにしては随分な連携だ」

 生徒会長が副会長と俺を交互に見る。


「副会長礼を言っておきます」


「気色悪りぃな礼なんてするな。俺は俺のために行ったまでだ。てめぇのことなんざ微塵も考えてねぇ、目的のために利用した。お前がサッカー部に入ってほしくなかっただけだ」

 怒りっぽいよなぁ。

 うるさそうでどこか白姫さんに似ている。


「生徒会長。昨日交わした約束は破りませんよね?」

 

「ッツ・・・・・・白姫波音羽と黒妃優華を退学させることも、新しい噂を流すこともしない」

 これは真実と見ていいだろうな、約束を無下にしたりするような行為を、プライドが高い生徒会長がするとは思えない。

 どんなにかっこつかなくても、目的のために足掻あがくような行為を生徒会長はしないだろう。


「例の二人もですよね」

 手を組み直す生徒会長。

 肯定の返事と見ていいのか。


「約束だからな。それにしても、上手くやったな本咲」


「そこまで複雑なことはしていませんよ」

 限られた選択の中で選択しただけ。

 もっとも効率の良い行動をとったのみ。


「お前も約束を守れ」


「はいもちろんです生徒会には入ります」

 ただこの行動が正解かどうかは俺が決めるものではない。

 優華と白姫さんが正解だと言ってくれて初めて俺の行動は正当化される。


「お前につくかは別にしても春兎が裏切るとはな」


「あんたのことはいつでも狙ってるからなぁ」


「フンまぁいい。サッカー部にいれられないのは残念だが、本咲強助の才は見れた」

 俺自身も自分が行ったことがあっているかどうかよくわからない。


「終わったわけではない。またの機会にしよう。いまは、生徒会入りを歓迎する本咲強助、笹野内愛」

 負けだとは心の中では思っていない、悔しいとすら生徒会長は感じていないのだろう。

 あくまでこれから勝利できると思っている。

 そうすればいま起こっていることは負けではなく勝利に続く道だと捉えられるからな。

 いさぎよく引いたのも、いまの事実を簡単に認めたのも、負けているとは微塵みじんも感じていないから。

 この生徒会長といることで俺は変わるのだろうか、それとも生徒会長の色により染まるのだろうか。

 俺だけでは取らなかった選択肢、生徒会に入ったことでこれからどうなるのか。

 少しばかり楽しみに感じた。













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