本当の狙い
俺は噂を流されるという経験を、痛みを知っている。
噂は簡単に忘れ去られるものだとしても、流された本人は一生背負うことになることも。
いつ蒸し返されるかわからないためずっと噂を心の中に飼わなければならなくなることも。
抑えられるなら、小さい噂でも抑えた方がいい。
だから少しでも早く人の認識を変えなければならなかった。
自然と止めるために体が動いていた、自分の前で噂を流されている人を放っておけなかったから。
「笹野内さん。相手を傷つける覚悟を持つことは残酷な結果になり得るかもしれないよ。今回は良い方向にいったけど」
「逆もまた然りです。持たないでいると残酷な結果になり得る場合もあります」
フフフと笑う笹野内さん。
「捉え方次第ですわ。どのようなことにも一定の危険は潜んでいますので」
「そうかもしれない・・・・・・けど」
「本咲くんがもしまた悩んだときは私にいつでも申しつけてください」
顔を近づけてくる。
「相談ごとに乗るのは得意ですから」
優しい声で告げられる言葉はどこか甘美なものを感じさせる。
「随分と自身あるんだな。頭に入れておくよ」
席に戻る。
久々に海を見ながら気持ちのいい時間を過ごせた。
昨日まであったクラスメイトからの視線もなくなり、なんとなくの日常も少しは豊かなものになった。
時間は過ぎてすっかり綺麗な夕立が窓から差し込んでくる。
急ぐ必要もないからゆっくりと帰りの支度を行っているとツカツカ足音が聞こえてくる。
「準備はできましたか本咲くん」
「うん」
「なにか気になることでもありますか」
「そんな顔に見えた?」
「はい、瞬きが数回早くなっていました」
「流石の観察力だな・・・・・・聞きたいことがあってさ、昨日今日駒下さんは休みなの?」
昨日の朝からずっと席に姿を見せていなかった。
「おそらく白姫さんの元へ訪れているのではないですか」
「噂が無くなっているのかわかっていないはずだけど、訪れてなにを報告しているんだろう」
「学校がどのようになられているか随時連絡はしておきました。ですが、噂は関係ないと思います。ただ、白姫さんを心配しているだけなのではないでしょうか」
親友の身を誰よりも案じている。
学校に行くことよりも側にいることを選んだってことか。
俺にはよくわからないな。
「あとは、優華と白姫さんが帰ってこれる環境を作ってあげるだけか」
教室から出て、生徒会室へと向かう。
三度目のお尋ね。
もう慣れたものだ。
これからはその数十倍以上は通うことになるけど。
「入りましょう」
頷くと同時に二人で扉を開け生徒会室へと足を踏み入れた。
「待っていたぞ」
お決まりの会長席に腰掛ける生徒会長天上帝、ソファーにどっしりと腰をおろしている副会長西園寺春兎。
「お久しぶりぶりですね生徒会長」
「たかが一日で俺が恋しくなったのか」
「そのようなご冗談を言える人だとは思いませんでした。そちらの方がいいと思いますよ」
挑発という名の笑顔を見せる笹野内さん。
生徒会に入ると毎日このような煽り合いを交わすのだろうか。
先がオモイやられるなぁ・・・・・・。
「本咲くん。私が話しますわ」
笹野内さんが一歩前に出る。
話そうと思っていたけれど、笹野内さんが話すならそれはそれでいい。
最後の仕上げだけ俺がやる。
「昨日と今日。随分と景色が変わっていました。何故でしょうか、まるで昨日起きたことが全て無かったことのように感じました」
「長ったらしい前置きはよせ。早く言いたいことを言え」
「相変わらずのせっかちですね。冗談を言えるほど余裕が生まれたと思いましたけれど、そうともいえないみたいですわ」
相手の土俵に乗る気はないと自身のペースで話す笹野内さん。
「流石の生徒会です。影響力は絶大ですね。流されていた噂が一日で全て消えました」
「生徒会が持つ力を実感したか」
「はい。様々な意味で理解できました」
「天上磨学園全てに影響を与えられるのが生徒会だぜぇ」
黙っていた副会長が会話に加わる。
「全ては思うがまま。俺たち次第でなんでも決まる。それが選ばれし生徒会だ!!」
ニヤニヤと笑いながら立ち上がり俺と笹野内さんの元へとくる。
急に動き始めたな。
「本咲強助、笹野内愛。お前ら二人とも生徒会に入るなら、自分たちが持つことになる力の大きさを理解しておいた方がいいぜ。お前らの好きにこの学校を操れるんだ。それこそ退学だってなぁ」
わざとらしい煽り方だな。
「言い方こそあれど春兎の言う通りだ。生徒会がこの学校を統べるものであることは疑う余地もない」
絶対的な秩序だとでも言いたげだ。
「今回の噂だって全てこちらが仕組んだものだったしなぁ」
あっさりと自分たちが黒幕であると語る副会長。
わかっていたことではあったがそれをついに生徒会側が断言した。
だが生徒会長は快く思っていなさそうだ。
指示をしていなかったのか?
副会長を自由にさせていた反動で、綻びが生じた。
これはチャンスだ。
「全く知りませんでした。そうだったんですね。天下の生徒会様が全て仕組まれていたとは想像もしませんでしたよ」
わざとらしく反応する。
生徒会長が副会長を睨んでいる、生徒会側が狙って発言したわけではないとみていいな。
「けれどその事実がどうであれ昨日した約束は破れませんからね。これは痛い取り引きをしてしまいました」
隣に立つ笹野内さんが微笑みを俺に向ける。
「本題に入りましょう。俺と笹野内さんは生徒会に入ることは決まりましたよね?」
「そうだな」
「どうやら生徒会というのは、生徒会のみなさんが勧誘できるみたいですね。それを受けて俺と笹野内さんは入ることになった」
優華と俺の例から見ても詳しくはわからないが生徒会はおそらく勧誘制。
「あぁ」
「生徒会長天上帝さんは、俺と笹野内さんを正式に生徒会メンバーとして認めてくれますか?」
「あぁいいだろう」
俺と笹野内さんの生徒会いりが改めて決まった。
改めて決まることに意味がある。
ここまでは前振りだからだ。
本番はここから。
なんでもありの生徒会長に一泡吹かせよう。




