本咲強助の取り引き
扉の前に着く。
この中で生徒会長と副会長は待っているのだろう。
先程とは違い笹野内さんはいない、一人だ。
俺の好きなようにできるがそれは同時に俺一人が全てを決めるということだ。
責任重大だな。
相手からも目的のためになにをされるかはわからない、警戒も怠ずいこう。
「おはよぅ本咲くん。いや、こんばんわかもな」
扉を開くと副会長、西蓮寺春兎に出迎えられる。
「目覚めがいい夕立ちですね。おはようございます副生徒会長」
「可愛い気のねぇ後輩だなぁ〜」
ピリピリとした怒りが伝わってくる。
「静かにしろ春兎。客人を中に通せ」
頭をかきながらめんどくさそうにあそこにいけと、案内とは呼べない命令のような指示を受ける。
指を差されたソファーに生徒会長天上帝は座っている。
「腰をかけろ、早速答えを聞かせてもらうぞ」
促されるまま生徒会長と向かい合う形で反対の席に座る。
生徒会長からは目を離さない。
「俺の生徒会いりとサッカー部いりについてですよね。その前に一ついいですか」
「くだらないことではないだろうな」
「生徒会長次第じゃないですかそれは」
「早く言え」
実行しようとしていることの説明を行い、その上で取り引きの内容を提示した。
俺と笹野内さんが考えた新たなる取り引き。
噂を無くしてもらう、その代わりに生徒会に入ること。
こちらの狙いは明確だ。
その上で提示した取り引きに乗らなければこれ以上は交渉を行わないと、俺を欲する相手に強くでた。
「つまり生徒会に入る代わりに噂を無くせということか」
「えぇそうです」
「フン、こちらが提示した取り引きとほぼ同じだな」
「ですね」
「サッカー部のこと意外」
当然そこを指摘されるよな。
「本咲強助。お前はなぜ自身の才能を活かさない」
「イケメンなだけで、特段誇るような才能はないですから」
「冗談に付き合っている暇はない」
「・・・・・・才能なんていうものを信じていないからではないですかね」
「お前には逸材とも呼べるような才があるのにか」
「ないですよ」
「謙遜をしたところで嘘にしか見えないぞ。お前は秀でた運動神経を持っているだろ」
「学校での体育の成績を知っていますか。良い評価はもらえていないですよ」
「くだらないことを言うな」
「サッカーのことを言っているなら、それはあるように見えても全くないですよ」
自分自身が一番わかる。
俺には、本咲強助自身にはスポーツの才能がない。
「全国大会得点王。大会ベストプレイヤー。最も点を取り、最も活躍した、将来を確約されたお前がなぜいまはサッカーをやっていない」
「特に理由はないですよ。やる必要性を感じなくなった。それだけではないですか」
結果や称号なんてものも一時の評価だ。
そこから大成させるのはとても難しいこと。
だからこそ誰にでも成功の可能性はあるんだ。
「なら俺がやる必要性を与えてやる。だからもう一度俺と共にサッカーをしろ」
「生徒会長直々にスカウトされるというのは、とてもありがたい申し出だと思うんですが、俺には難しいです」
「断固としてやる気はないのか」
「やる必要がないですから」
「これからもずっと過去の噂が付き纏うとしてもか」
「詳しいんですね。流石生徒会長」
俺のことをどこまでも知っているな。
「白姫波音羽と黒妃優華に過去の自分を重ねたか」
「もしかしてですけど・・・・・・重ねるように狙ったんですか。そうすれば俺がサッカーを意識するとでも思って」
「どうだろうな」
確信犯か。
この人はおそらく無駄なことはしない。
会話からも見てとれるように。
「誰もが認める才能を持ったお前がサッカーを辞めたあと、誰もがお前を心配していた」
「・・・・・・」
「それが申し訳なかった、自分のせいで他人に迷惑がかかるのが許せなかった。それと同時に自分に期待してもらっていること、力を信じてもらっていることが、心地良く嬉しかった」
「・・・・・・」
「もう一度始めよう力強く心に決めていた。だが、そんなお前に待っていたのは、過度な心配と、強欲すぎる期待」
「・・・・・・」
「お前は気づいた。人が心配していたのは、お前自身ではなく、お前の持っている才能だったと。そこから期待されることが怖くなった」
ペラペラとよくもまぁ語るな。
「サッカーから逃げた弱虫、力を秘めた天才、良いものも悪いものも事実無根でたくさん好き勝手噂され、人が嫌になり他人の視線が怖くなった。好意的であってもなくても、他人から受けるオモイが信じられなくなった。だから誰に対しても、自分に対しても期待をすることをやめた」
「・・・・・・」
「なにもかもが嫌になり、日々を抜け殻のように過ごしていた。そんなときお前の元にある女性が現れた」
「・・・・・・・・・・・・」
「その女性こそが笹野内愛」
「生徒会は凄いですね。そこまで調べあげているんですか」
「お前と笹野内愛については———当事者のお前にわざわざ聞かせる必要もない」
頬を上げ軽く笑う生徒会長。
「生徒会長は結局なにが言いたいんですか」
「お前には生徒会だけでなくサッカー部にも入ってもらう」




