二人の目的
「生徒会に入る?」
「はい。一緒にです」
「本気で言っているの」
「ここで嘘をつくようなことはしません」
「生徒会長の言いなりになるってことだよ」
「ある意味ではそうかもしれませんね」
噂を無くすための対価として生徒会に入ることを俺は生徒会長に言い渡された。
だが生徒会には入らないと断った。
なのに結局打つ手がないからと生徒会に入るというのか。
「断ったんだよ?」
「生徒会長の取引を受け入れることを本咲くんが望んでいないのはわかります」
望んでいないからさっきも抗ったんだ。
「ですが私と一緒に生徒会に入ってください」
「笹野内さんが入るから受け入れろということなの?」
「はい」
「笹野内さんのお願いに対して嫌だと断ったら」
「あのとき、優華さんの家での約束を使わせてもらいます」
なにか笹野内さんが困ったことがあれば助ける約束。
まさかこれのために約束をしたのか。
逃げ場を作らせないために、断らせないために。
「笹野内さんの頼みだとしても。あのときの約束だとしても。俺には・・・・・・」
生徒会に入る、あの生徒会長のもとにいるというのは望まない。
人に関わる勇気を持ったとはいえ、生徒会に入るというのは首を縦に振れない。
それに・・・・・・いままでの自分と向き合うことを決めたとしてもサッカーはもうしたくないのだ。
「天才とか謳いながら他人の噂を流して、退学させると脅しをしかけてくるような学校の組織には入りたくない。ナルシストは好きだけど、他人を下に見る弱い奴は好きじゃない」
圧倒的なプライドと天才だというエゴ。
それらに支配されたやつらに、くみいることなんてできるわけがない。
そんな奴らと同じ環境になんかいたくない。
「俺は・・・・・・」
「本咲くん。私は、彼らを止めたい。違いますね」
底なしのパワーが目に宿る。
「彼らを、生徒会を変えたい。この学校を変えたいのです」
大きな野望、ある種の復讐心を持っているように見えた。
笹野内さんはなにをしようとしているんだろう。
でもその中には確かな意志がある。
「絶対的な権力を盾にして、好き勝手学校を操る。生徒会に都合が悪いと退学させられる。そのような横暴は絶対に許してはいけません」
笹野内さんの覇気が上がる。
「私と本咲くんで止めましょう。生徒会に入り、生徒会を中から変えましょう。私とあなたは生徒会を許せないことが同じはず。ですが本咲くん、具体的に生徒会を止める方法はあなたの中にまだないのでは?」
止める方法はあってないような無謀なものではある。
けれどいくらでもやりようはあるし、手段さえ選ばなければ俺なら絶対に止められる。
そう、手段さえ選ばなければ。
「手段を選ばなければ止めることは簡単に・・・・・・」
「姉が生徒会によって退学させられました。だから変えたいのです」
どんよりとした空気が変わる。
「お姉さん?」
「彼女もこの学校に在籍していました。ですが生徒会によって退学させられたんです」
信じがたいが真っ直ぐな目で語る笹野内さんが嘘を言っているようには思えなかった。
それは事実であることを表している。
生徒会には退学させることが本当に出来るんだろう。
「黙っていて申し訳ないです」
「生徒会の存在を認知していて、どういう奴らなのかも予め分かっていたんだ。つまり、噂を流した黒幕が生徒会だということも最初から知っていた」
俺に接触したのも生徒会が誰に目をつけているのか知っていたから。
利用して生徒会の内情を知ろうとしていたのか。
全ては生徒会への復讐で動いていたんだ。
「最初から言わなかったのは、言ったら協力してもらえないと思ったから?」
「違います。あなたのためを思ってです」
「俺のためって、こんなこと望んでいなかっただろ」
「本当に望んでいませんでしたか?」
「望んでなんか・・・・・・そんなこと・・・・・・」
「いまなら確信を持って言えます。あなたは長い間向き合いたと思っていた。けれど、最初から向き合えと伝えたとしても、あなたはきっと向き合おうとしなかったはずです。一人で殻に閉じこもって、迷惑をかけてしまったという罪悪人に苛まれながら、なにかをしたいのに俺にはなにもできないと動かなかったと思います」
強い刃が俺のきれなかった鎖を壊す。
優華や白姫さんを助けると決める前にこのことを知っていたら、関わるだけ無駄と感じて二人を救おうとせず、なにも動かなかっただろうな。
殻に閉じ籠もり、昔のように誰かといることをもっと拒んでいただろうな。
だから笹野内さんは伝えなかったんだ。
「笹野内さんはなぜ俺に構うの?」
「私もあなたに救われましたから。ですからあなたにできる限り傷ついてほしくはなかった。向き合う前に折れてほしくなかったのです」
「向き合うことの恐怖を知っているから、俺自身を第一に考えてくれたの?」
「私も姉と向き合えていませんから。現在進行形です。けれど、だからこそ彼女が退学した真実を知りたい。そして彼女を追い込んだ学校を変えたいんです」
太陽よりも眩しい覚悟がヒリヒリと伝わってくる。
そんなことを言われたら。
「段階を踏んであなたに少しずつ現状を伝えていけば、私の目的とあなたの目的が重なることを予測していました。だから傷つけることになっても、あなたを立ち上がらせる方向に持っていくことが正解だと思ったのです」
全て予測した上で自分自身と俺を、目的のための最も正しき道に持っていったのか。
そんなの並外れたオモイがなければ無理だろう。
「お願いします本咲くん。一緒に生徒会に入ってください」
スカートを手で押さえ頭を下げる笹野内さん。
ここまで考えてくれる女の子を無下になんて出来るのか。
いくら本心が見えないとしてもだ。
「ごめん笹野内さん」
「本咲くん」
「そう言ってここで断る。普段はそうだけど、笹野内さんには恩があるんだ。キミのオモイをもう無下になんてできないよ」
覆っていた雲が消えた空のように眩しい笑顔がそこにあった。
「生徒会に入る。笹野内さんと一緒に変えるよ」
「ありがとうございます」
我関せずという俺のオモイに休止符が打たれた瞬間だった。




