愛とデートの約束
「デ、デート?」
こんな反応をつい最近した。
妹の七夏実に対してだ。
でもあのときとは意味が違う。
家族から言われたのか、同い年の女の子に言われたのか、戸惑う理由が全くもって異なるんだ。
「はい。デートです」
「それは多くの人が認識しているデートというものであってる?」
「おそらくそうだと思いますわ」
男女が帰っている途中でデートのお誘い・・・・・・。
どう見ても恋人同士の会話ではないか?
「なにか理由があるの」
「あなたと長い時間一緒にいたい。それだけではいけないでしょうか?」
頬を朱色に染め聞いてくる。
「随分と急だよ。高校に入学して関わったのは最近のことなのに。ずっとただのクラスメイトだったはず。それが突然一緒にいたい? どういうオモイで言っているの?」
いま顔を染めているのもどういう感情なんだ。
笹野内愛は表情に出してもどんな感情で言っているのか読めない。
なにを狙っているのか予測がつかないのだ。
予測がつかないなら変な駆け引きはいらない。
聞きたいことを隠さず聞くしかないよな。
「生徒会が怪しいことに気づいていたんだ」
「少しばかり推察はしていました」
「少しか・・・・・・本当にそうなのかな」
なにをおっしゃりたいのですかと上目遣いで聞いてくる。
あざといとは違う、別のなにか。
「俺に話を持ちかけたのも全て計画だったの」
「話、というのは噂のことについてですか?」
あぁと頷いた。
「いずれ俺が自分で全てを解き明かすように。答えに辿りつくようキミが裏で仕組んでいたんじゃない?」
「お怒りなのでしょうか?」
「怒りに震えている、そういうわけではないよ。ただこの短期間で多くのことが起こった。それはなんでだろうなと思っていたよ」
「私が黒幕だとお考えでしょうか」
「そう言いたいわけじゃない。俺の行動の全てはキミの計画通りに動いているんじゃないかと思って」
違うかなと聞いたら僅かに唇を震わせた。
「だとしたら、見事な予定調和だな」
確信できた。
おそらく俺は、笹野内愛のレールの上に乗っている。
彼女の狙い通りに体を、頭を動かしている。
「なぜ笹野内愛が本咲強助を選んだんだ。なんで俺を今回の件に関わらせるようにしたの。キミがいなければ俺は関わることはなかっただろう。キミの狙いはなんだ。俺に声をかけた理由はなに?」
「先程も申しましたがあなたと過ごしたかった。それだけではいけないのですか」
「あなたと過ごしたい・・・・・・まるで愛の告白だ」
「良くないことなのでしょうか」
悲しそうにしているが、その心うちは悲しそうに見えない。
俺の反応を気にかけ、どんな答えを出すか楽しんでいる。
「良くないというわけじゃない。笹野内さんが俺にこだわる理由を聞きたいんだ」
「あなたを半ば強引に関わらせてしまったことは申し訳ありません。ですがあなたはいずれ向き合わなければならなかったのです」
「なにに?」
「みなさんに、自分自身に」
「早いか遅いかの違いだ。そう言いたいの?」
目の前にいる女の子が少し微笑んだ。
向き合わなければいけない。
キミの言うそれはなんなんだ。
「生徒会にも向き合わなければいけないの? 一度も関わったことがないのに」
特に反応をしない。
そういうわけではないのか。
「笹野内さんにしては珍しく危ない賭けを行ったな。俺が生徒会という答えに辿り着かなかったらどうしてたの」
「あなたなら気づくと思いましたから」
絶対的な自信があるという表情をされる。
このまま笹野内さんの思考のレールに乗るのは危険かもしれない。
だけど、今回は彼女のおかげで動き出せたのも事実だ。
一旦は乗ってみよう。
最後は———。
「デートっていうのは明日生徒会に接触するのを二人で行う。それで当たってる?」
「流石です、既にお分かりみたいですね」
「キミの誘導だけどな」
「私は大したことをしていませんよ。全てはあなたの思うままに」
笹野内さんの目的が見えてこない。
俺になにと向き合わせたいのか。
生徒会に会わせたいのが狙いなのか。
「向き合わなければいけないっていうのはどういう意味なの? 俺が生徒会にたどり着くのが計画通りだったとして、なんで俺に自らたどり着かせたかったの、キミが言うじゃダメだったの? そもそも生徒会はなんなんだ。俺と生徒会、接点はなに?」
多くの質問をしてしまい申し訳ないが、気になることが多すぎる。
わからないことがたくさんありすぎるんだ。
「全ては明日わかるはずです」
「なぜいま答えられないんだ」
笹野内さんは口を開いてくれない。
全容がなかなか見えてこないな。
けどわかったことが一つある。
俺と生徒会にはなにかしら繋がりがあるんだ。
「俺という存在をわざわざ選んだのは生徒会が目につけているからとか?」
目を伏せる笹野内さん。
「本咲くん。あなたは素晴らしい人ですわ」
優しい微笑みを向けてくる。
「急になんだよ」
「だから私はあなたを選んだ」
ゆっくりと言葉を吐く笹野内さん。
「これまでもこれからも」
背を伸ばし軽く触れられた。
笹野内さんの柔らかさが伝わってきた。
数秒経ったあと離される。
「なにをしているの」
「いまのあなたを納得させる方法が思いつかなかったんです」
「納得・・・・・・わからないことだらけだけど、キミを信用しろってこと?」
「はい」
信用させる方法なんていっぱいあるはずなのに、わざわざなんでこの方法を選んだんだ。
「笹野内さんは勘違いをしているよ。キミが今回俺を利用していようと、裏切っていようと、俺はキミのことを信じる。キミと駒下さんと一緒に行動すると決めたときに覚悟はしているんだ」
笹野内さんの目をしっかりと見つめる。
いまの彼女はあざといのではない、恐怖だ。
鎖に捕えられて、逃れられないような怖さを感じる。
「だから俺から見限るようなことはしないよ。疑問だらけだけどそれでも本咲強助は笹野内愛を信用する」
「本咲くん」
「信用はする。だからといって質問に答えないのは納得いっていない」
言葉をぶつけるが笹野内さんは表情を変えない。
「・・・・・・明日何時に生徒会の元にいけばいいの」
「お昼休みに一緒に行きましょう。生徒会室前で合流です」
「わかった」
約束を交わした。
見えないことだらけだけど、明日になれば見えてくる、笹野内愛の言う通りなら。
わからないたくさんのことも、わかっていくに違いない。
その結果悪い結果が起ころうと、嫌な真実が明かされようと前に進むしかない。
今回はそうすると決めたから。
まぁ、最悪裏切られようが利用されていようが、いま更俺になにか響くことはない。
笹野内愛ではなく、俺の、本咲強助の思うままに進めていけばいいだけだ。
いつだって結局最後は自分しか信じられないだろう?
それはわかっている、だからこそ俺は本咲強助なんだ。




