愛の狙い
「あなたは計り知れませんね」
「本咲強助だからな」
褒められているけど嬉しくない。
内容が内容だからだ。
噂を流したのが白姫さん。
笹野内さんはそう思っている。
「もともと男性から人気であっても、女性から人気のない彼女にとっては、このような噂を流されたとして、気にするに足らないものだと思っていました。ですが、彼女は学校を休み連絡にも出ない。始めはそれが気がかりでした」
噂を気にするはずがない女の子。
白姫波音羽という人物を同じように評していたんだな。
「けれど考えても動機や目的が一向にわからない。彼女には噂を流すデメリットもなければメリットもないのです」
噂を流す意味がないということか。
「そんなとき、一つの考えが生まれました」
「白姫さんが噂を流されたことによるデメリット。それは女子ではなく、男子に嫌われること。けど彼女はこれも気にしているように思えない。だからデメリットになり得ない。だとするならメリットは・・・・・・」
「あなたを手に入れられるかもしれないこと」
行きついた答え。
「もともと孤立していた本咲くん。噂が流れることで孤立がより進む。そうすると嫌われた者同士、傷の舐め合いのように結ばれる。そのようなことを狙っているのではないかと考えました」
「白姫さんが仮に俺のことを好きだとしたら仮説は全て成り立つんだ」
「ですが違いましたね。本咲くんが酷い人、私のことを好きな人、恋人同士。いくつか揺さぶりをかけようと試してみましたけど、白姫さんが揺れることはありませんでした。というよりも———」
言い淀む笹野内さん。
「彼女は面白い人ですね」
なにか別のことを言おうとしたが直前で言い変える。
「仮説は間違っていましたが、もう一つの目的は達成されましたよ」
前へと回り込む笹野内さん。
「どんな目的」
「当ててくださらないのですか?」
今度は俺を試すように聞いてくる。
「たぶんだけど当てなければいけないのって笹野内さんの感情だよね?」
「流石です」
「けどキミの感情を当てるのは一筋縄ではいかなそうだから」
「その評価は良しとしましょう。けれど私も殿方に感情を言い当てられてみたいものです。今回はお二方が待っているので仕方がないですけど」
子どもっぽく拗ねているように見える。
感情を言い当てられたい。
それはつまり、当てられたことがない、隠すのが上手ということだ。
笹野内さんが普段から人に感情を見せていないことの証明だな。
「本咲くんは私が噂を流した人物だと疑っていたのでしょう」
「まさかそれの仕返し?」
「当然です。私があなたに声をかけたというのに、あなたが私を疑うのですから。意地悪してみたくなったんですわ」
「前触れもなく接触してきたから、どんな理由があるのかわからなかったんだよ」
「私は本咲強助くんの味方ですわ。もっと信じてください」
シャツの下あたりを掴まれ甘えるように言われる。
「そもそも信じる信じないっていう選択がないよ。信じざるをえないという感じだから」
人のことを信じられない俺が、信じてみようと思える人であることは間違いない。
けどそれよりも。
「キミが敵に回ったら怖い。助けてくれた笹野内さんに裏切られているとも考えたくないからな」
黒幕かもしれないと疑ったが、実際に黒幕だったとしたらお手上げ状態になるんだ。
だったら疑うより信じる方が断然いい。
「お褒めの言葉と受け取りますね」
口を手で押さえて優しく笑う姿は絵になるような綺麗さを醸し出している。
「お待たせしすぎても要らぬ誤解を与えそうですので部屋に入りましょう」
「誤解ならもう与えているんだけど」
「ですから解きにいくのです」
狙って誤解を与えた張本人が言うセリフではないよな。
部屋に入ると、遅いと怒る駒下さんとさっきよりは明るいオーラを出す白姫さんがソファーに座っていた。
壁や床など全体的に肌色のリビングは様々な雑貨があり色鮮やかだ。
家ではないと錯覚しそうなくらいお店のような雰囲気が出ている。
これが女の子の家か。
もちろん他の家族もいるから、白姫さんだけの家というわけではないだろう。
けれどクラスメイトの女子高生の家。
そのシュチュエーションだけで昂るなにかがある。
女の子の家という事実。
初めてに近い経験に恥ずかしさと嬉しさが込み上げる。
これってめっちゃキモいのか!?
でも普通な、健全な男子高校生の反応だ、そう強く願いたい。
「二人してこそこそなにを話してたの?」
ソファーに座る駒下さんは仲間外ずれにされたことを拗ねているみたいだ。
笹野内さんが二人に向けて説明をする。
イタズラ心から先程のようなことを行っていた。
そのことを本咲くんにも伝えていなかったから謝っていた。
お二人にも申し訳ないことをしましたと、誠意のこもった風な謝り方をする笹野内さん。
全て演技だ。
実際の目的は別にあり隠すために嘘の言葉を並べているだけ。
「笹野内さんもそういうことするんだ。なんだか意外」
駒下さんが不思議そうに笹野内さんを見る。
「まぁとにかく本題に入ろっか」
立ち上がった駒下さんにソファーまで案内される。
白姫さんでなくていいのか?
彼女の家だというのに勝手に案内するのはあまり良くない気がするけど。
「白姫さんいいの?」
「勝手に座っていい」
作り笑いを浮かべる白姫さん。
精神的に疲弊しているのかもしれない。
普段とは違い髪を上で束ね、リップを薄く塗り、青と白のトップスを着て、パンツを履いた塩らしい白姫さん。
学校とは違う可愛いさがある。
「照れているのですか本咲くん」
「女子三人と部屋にいるんだ恥ずかしくもなるだろ」
「それだけでしょうか。顔が朱色に染まっていますけど」
反応がそこまで出ているのか。
見えないからわからない。
「白姫さんの姿に驚いてしまわれたのでは?」
「そなの本咲くん」
「イメージと違ったから。いい意味でさ」
白姫さんの方を見ると顔を下に向けられていた。
キモいって思われたのかもしれない。
笹野内さんは興味深そうにしていて、駒下さんは驚いた様子で俺のことを見ていた。
話を聞く前にやらかしてしまったな。
「ごめんいまのは忘れて」
「忘れないからね!?」
取り乱している白姫さん。
「本咲が・・・・・・せっかく褒めてくれたんだから」
恥ずかしがりながらポツリポツリと言う。
「・・・・・・うん」
予想していない反応にどう対応すればいいのかわからなかった。




