波音羽家に訪問
「ここが波音羽の家」
案内されたのは十階建てのマンション。
「七階にいるんだけど、波音羽出てくれるかな」
エントランスに入り不安そうにインターホンを押す駒下さん。
俺と笹野内さんが訪れるから部屋への訪問を許可してもらっことを気にしているみたいだ。
でもそれは駒下さんを考えての白姫さんの言葉だと感じる。
白姫さんが駒下さんのことを心配して投げかけた言葉だろう。
駒下さんが気にやむことはない。
「はい」
心配もよそに白姫さんが出てくる。
「波音羽!!」
「雅・・・・・・」
どこか浮かない声が聞こえた。
「なんで連絡に出てくれなかったの・・・・・・私がどれだけ心配して」
目に涙を浮かべる駒下さん。
「ごめんね」
「とりあえずそっちに向かうから、開けて!!」
ドアが開く。
「本咲くんも笹野内ちゃんもついてきて」
促されるままに二人とも入った。
けど白姫さんの家に訪れることが目の前にきて実感する。
心臓の鼓動が激しい。
「どうしましたか本咲くん」
「やっぱり帰りたいなぁ」
「なにか問題があると仰っているようなものではないですか」
横を歩く笹野内さんに不可思議な視線を向けられる。
「予想の範疇でしかないのですけど」
「言わなくていいよ」
「女性の家に訪れるということに緊張しておられるのでしょうか?」
「完璧に言い当てるんだ」
「推測ですよ。本咲くんの様子と表情を見ればわかります」
淡々と言っているがそれは普通ではない。
いつかは考えていることが全て見透かされそうだ。
「緊張せずとも大丈夫ですよ」
「そうかな」
「本咲くんが女性の部屋に上がることはよくあることではないですか」
「全然ないけど!?」
心配してくれたかと思っていたが違った。
「そうですか。認識しておりませんでした」
「気にしないで」
笹野内さんは誕生日プレゼントを貰った子どものように、いまの俺を目の前にして楽しんでいる。
「二人ともなに話してるの?」
後ろにいるはずの人物達の存在が薄くなり、立ち止まって様子を伺ってくる駒下さん。
「なんでも・・・・・・」
「本咲くんが緊張している様子でしたので声をかけていました」
「笹野内さん!?」
「緊張? なんで緊張してるの。あ〜なるほどなるほど。波音羽の部屋に上がるからだ!!」
「大きい声で言わなくていいから!」
駒下さんはごめんと言いながらうんうんと頷いている。
絶対に悪いと思っていない。
「本咲くんほどの美形少年なら女の子は嫌なはずありません。むしろ嬉しいと思いますわ」
「美形・・・・・・わかっているな、笹野内さん」
「確かに本咲くんかっこいいと思う」
「駒下さんまで・・・・・・よくおれのことをわかってる」
「私らの学校結構かっこいい人多いけど、負けないくらいイケメンだと思う」
「・・・・・・」
「本咲くんなぜ顔を覆うのです。普段のあなたらしくないですね」
笹野内さんと駒下さんの褒めにどうしたらいいかわからなくなる。
褒められ慣れてないから、褒められるのは実は、苦手なんだ。
「女子の部屋に訪れるんだよ。かっこいいからとかそういう問題以前にいいの?」
「大丈夫に決まってる。波音羽がいいと言ってるんだから。それにさ仲良い男なら波音羽部屋に上げてるよ」
既に男の子を部屋に上げているの!?
確かにそれなら俺が入ることも特に変なことではない、抵抗値も下がる。
けど、なんだろう・・・・・・むず痒い。
嫉妬でもヤキモチを焼いているわけでもない。
ただ男子というものを意識していないのかもしれない白姫さんにモヤモヤする。
「本咲くんの言うこともわかる。波音羽は仲良い人には結構フレンドリーだから、男女の境界線が普通の人に比べてあんまないんだ」
「それが白姫さんの望むことならいいと思うよ。彼女自身がそういう生き方と性格なら悪いことではないと思うから」
自分自身の生き方や性格を蔑ろにされることは、不愉快で気分がいいものではない。
俺には理解できないけど、それが白姫さんの望みなら尊重されるべきだ。
「へぇ〜〜、そうですかそうですか」
「俺という存在に焼けちゃった?」
「突然いつもの調子に戻るね。なんか、本咲くんって意外に波音羽と相性いいかも」
「えっ?」
「なんでもない」
後ろを向き歩みを再開させる駒下さん。
黙って後を追う。
相性ってなんのことを言っているんだ。
エレベーターに乗り込む。
白姫さんのことを変に意識してしまう。
彼女が住む部屋に向かうまでの時間が長く感じる。
「到着したよ」
だけど部屋の目の前に立ったらいつの間にと思うほど時間が一瞬だったように感じた。
長く感じたり、短く感じたり、人の感じる時間ってやつは優柔不断だな。
「波音羽いる? 雅だけど」
コンコンとドアを叩く駒下さん。
扉の横にあるインターホンは押さないみたいだ。
三人の男女がドアの前に立ち扉を叩いている。
警察のおしかけみたいだ。
「反応ない・・・・・・」
「たくさん叩かなくても大丈夫だわ!!」
「波音羽!!!」
扉が開かれ白姫さんが出てくる。
駒下さんが勢いよく抱きつく。
「心配したんだから〜〜」
嬉しそうに涙を流す。
「ごめんごめん。けどちょっと強引じゃない?」
「これくらいやらなきゃ波音羽は出てこないと思ったから」
ちゃんと意図があったんだな。
「そんなことよりなんで連絡出なかったの!!」
「あー、う〜ん、なんというか。とりあえず家に入って」
もちもちよ、と言って一人先に入っていく駒下さん。
「ほんとにいるんだ」
予想していなかったように驚く白姫さん。
「どっちに対して言っているの?」
「二人ともだよ」
「レアキャラだもんなぁ」
「・・・・・・」
黙る白姫さんはいつもの雰囲気と違う。
「部屋に上がるのは難しそうかな?」
「そんなことない。来てくれて嬉しい、さぁ入って」
無理して笑っていることは丸わかりの笑顔だった。




