浮上する疑惑
「本咲くん怪我すご、どうしたん?」
怪我に至るまでの出来事を話した。
「黒姫ちゃんの部屋に跳び移ったら壁に当たって、血だらけの大怪我をしたってこと!? なにそれめちゃウケる〜」
嘘偽りない言葉が心に刺さる。
恥ずかしさで前を見れない。
「でも漢見せたね。かっこいいじゃん」
「えっ?」
「その調子でよろしく!」
背中を叩かれた。
けど叩かれた背中は不思議と痛くなくむしろ温かった。
満開の笑顔から俺を信頼してくれている気持ちが伝わってきたからだろうか。
なんだか照れくさいな。
さっきとは違った意味で顔を上げられない。
もっとシャキッとするんだ、お前はかっこいいんだ本咲強助。
心の中で自分に叱りを入れておく。
「下を向いておりますが、なにか嬉しいことでもありましたか本咲くん」
「喜ぶようなことはないよ」
顔を向けられないタイミングで後ろから声がかかってくる。
「そうでしたか。駒下さんに舞い上がるような言葉を頂いたのかと思いました」
「告白的なことを言ってるの? 残念だけど笹野内ちゃんそれはない。でも本咲くんはその方が嬉しかった?」
顔を覗きこんでくる。
必死で逸らした。
「二人共ほどほどにして頂けるとありがたいんですが・・・・・・」
ここはショッピングモールだ。
二人の女の子に大勢の人がいる中でからかわれる。
これほどまでに心臓がきつい場面はない。
「ごめんごめん。反応が面白くて」
「本咲くんの意外と表情に出るところが可愛かったのでついつい冗談を言いすぎてしまいました。申し訳ありません」
手を合わせて片目を閉じながら舌を出して謝る駒下さんに、スカートの横側を両手で軽く摘み上げながら、とろんとした顔で頭を下げる笹野内さん。
可愛いと可愛い、綺麗と綺麗、あざといとあざとい。
二人の美少女と会話をするのは危険だ。
常にドキドキと隣り合わせになる。
「・・・・・・」
「本咲くんどしたん? すごい顔になってるけど」
「そんな顔すら輝いているだろ」
「輝いているというか、傷だらけだね」
「漢の勲章さ」
「不良かよ!」
駒下さんが鋭いツッコミをしてくる。
白姫さんとはまた違ったキレがあるな。
「じゃあさ作戦会議始めよう!」
手を上に上げる駒下さん。
「私が作戦あるかと言われればないんだけどさ」
エヘヘと笑いながら申し訳なさそうにする駒下さん。
「作戦は二人にお任せする!」
「私も本咲くんにお任せです」
「笹野内さんも!?」
「本咲くんには素敵な案があるようなので」
過去に失敗した案だけど。
俺の案が成功するかはわからない。
自分の案で失敗するかもと思ったら怖くなる。
「信じますよ」
「私も信じる!!」
だとしてもなぁ・・・・・・。
「言っておくけど過去に失敗した方法だよ」
「今回成功させればいいだけ」
「私がいますから大丈夫です」
二人の自信や期待に背いたらどうしようという気持ちがあった。
ただ二人は成功しか目に見えていないようだ。
俺が恐れていては示しがつかない、かっこ悪いよな。
男が廃る。
もう一回、覚悟を決めろ本咲強助。
「目には目を。歯には歯を。噂には噂をだよ」
無言になる二人。
周りはザワザワとしながらこちらを見ている。
「とりあえずここから離れよう」
この場では人も多いから詳しく話せない。
移動するよう促すが固まって動かない二人。
俺が一人で喋っているみたいだ。
「わざとやっているの?」
「移動しましょうか」
「行こ行こう〜」
「絶対わざとやっているよね!?」
先に動いた二人を追っかけるように歩いた。
「先程の作戦は具体的にどのようなものでしょうか」
目的地もなく歩いている中で笹野内さんが聞いてきた。
「噂が流されたなら逆にこちら側から噂を流せばいい。簡単に言えばそういう作戦だよ」
「塗り変えるということでしょうか」
「そうだよ悪い噂を良い噂で塗り潰す」
「フフフ面白いですわ」
不適な笑みを浮かべる笹野内さん。
イタズラをする子供のような瞳をしている。
「ちょっと待って私置いてかれてる。どういうこと?」
俺と笹野内さんの前に出て焦った様子で聞く駒下さん。
「流されている白姫さん、優華さん、本咲くんの噂。それらは嘘だった。事実と異なる。そのように新しい噂を流すということです」
説明する前に笹野内さんが駒下さんに概要を伝えてくれた。
「なるほどなるほど。つまり私たち伝えで新しい噂を流しちゃえばいいんだ!!」
「そういうこと」
「けど信じてもらえるかな」
嬉しそうな顔をしたが一転不安そうな顔をする駒下さん。
「私たちだけなんだよね。三人だけで学校中に流された噂を塗り潰せる?」
「心配は杞憂だよ。三人だけが流すわけじゃない。俺や駒下さんの友達や知り合いにも流してもらうんだ」
「あ、そっか。でも自慢じゃないけど私友達少ないよ。現に友達の一人が噂流されてるもん」
納得がいっていない様子だ。
「言い方悪くなるけど、本咲くんだって友達少ないよね。教室でいつもボッチだし」
その通りだけど素直すぎる言葉はダメージが・・・・・・。
傷つけられる覚悟、これか。
なかなかにきつい。
「駒下さんの言うとおりだよ」
「だよねーどうすればいいの」
肯定されると二倍のダメージが・・・・・・。
グサッグサッと立て続けに刺さる。
けどここで説明を終えてはいけない。
問題に休止符を打てる方法があるからだ。
「俺と駒下さんは影響力が少ない」
「ですが私でしたらこの方法も機能致します」
タイミングがわかっていたかのように口を挟む笹野内さん。
「なるほどー! 学校中からの信頼がある笹野内さんなら影響力は絶対だ!!」
説明を奪われたが、言っていることは正しい。
笹野内さんなら噂を塗り潰せる。
学年への影響力抜群。
この方法に最適な人だ。
・・・・・・なんだろう違和感が残る。
最適ということは、笹野内さんがいなければ大変だった。
いや普通なら大変。
だけど笹野内さんが近くにいて、俺に今回の件をおさめるため声をかけてくれたから、この方法をとれる。
一体なぜ笹野内さんは俺の近くにいたんだ。
「聞いてもいいかな。そもそも二人はなんで俺に声をかけたの?」
「波音羽に流された噂をどうにかしようと一人で悩んでたら、笹野内さんが声をかけてくれて。そのとき笹野内さんが、本咲くんは白姫さんと仲良さそうなので一緒に行動してくれるのでは、と言ってくれたから私が声をかけたんだ」
偶然ではない、笹野内さんが仕向けたもの。
もっと遡れば、今日掲示板で困った俺の前に現れて、その後の道を屋上で示したのも彼女なんだ。
「それって———まるで笹野内さんが最初から仕組んでいたように見えるけど」
まさか、そんなことないよな。
「俺が提示した方法も思いついていたんじゃない笹野内さん」
全ては笹野内さんの手のひらの上なのかもしれない。
「話に乗っかることも、この方法を実行することも全部読んでいた。いや実行するように仕向けた・・・・・・」
関わりがなかった俺に接触して情報提供、協力者との顔合わせ、行動するためのきっかけとなりうる人物との会合。
笹野内さんが全てに関わっている。
「なにか狙いがあるんじゃないの。俺を勇気づけて俺がこの方法をとるっていうことも全てわかっていたんじゃ・・・・・・」
「本咲くんそれは関係ないんじゃない。いまはこの作戦をやることが大事じゃん!! 狙いとか仕組んでるとかそんなのはどうでもいいじゃん」
駒下さんに止めに入られた。
「本咲くんと波音羽を助けることが優先でしょ! 作戦を成功させることに集中しよ!」
話は流れる。
笹野内さんは俺を利用しているのか、もしくは駒下さんが俺を、いや他に敵がいるのかもしれない。
誰の手のひらの上にいてなにを狙らわれているのか。
いまはわからないけれど、確実に真の黒幕がいることがわかった。
俺はなにと向き合っていくのか、その先を見間違えないように己の兜の緒をしめた。




