噂話に我関せず
「戦いあっさりと終わったな」
返事がない。
「俺も入ればよかったかな」
答えてもらえない。
「優華?」
話しかけるとすぐに言葉を返してくれるはずなのに。
体育祭である程度クラスの人たちは仲良い人ができた。
俺は見事に炙れて絶賛孤高の男だ。
そんな俺に話しかけてくれる数少ない人物それが黒妃優華だ。
いつも話しかけてくれる、言葉を投げかけたら返してくれる。
けどなにも言葉が返されない。
俺の手を引っ張りながら黙々と歩いている。
怒らせるようなことしちゃったかな。
「優華になにかしたんだよな。ごめん」
顔は見えないが、目を見てしっかりと伝える気持ちで謝った。
でも反応はない。
これは相当怒らせているかもしれない。
廊下を抜け階段を降りていく。
引っ張られながら歩いていたため少し歩きにくかったが、優華が歩く速度を落としてくれたことで危なげなく階段を降りられた。
怒りながらでもこういう気遣いを忘れないのは優華らしい。
昔からそういう優しさに俺は助けられている。
いつか恩を返せたらな。
「強助ついたよ」
気づいたら下駄箱のある昇降口に着いていた。
教室は四階にあるが、一階まで降りるのはあっという間だった。
ついてから優華は手を離し自身の下駄箱へと向かう。
「聞いてもいい?」
「歩きながらにしよ」
優華が申し訳なさそうに歯に噛んだ顔をする。
「うん、わかった」
学校の人に俺と話しているところを聞かれたくないということなのだろうか。
それだと何回かは聞かれている。
直近で教室で聞かれているしな。
なら違うか。
教室でも移動しようと言ってきたことから、注目されたくない俺にとってありがたいことではあるんだけど、気になるな。
俺は自身の下駄箱へ向かい外靴に履き替える。
そして既に履き替えていた優華の方へと移動した。
「準備できたね。なら帰ろ」
昇降口を抜け校門へ向かって歩く。
優華の方を見ると気まずそうにしている。
なにかを隠していることは丸わかりだが、一体なにを隠しているんだろう。
「優華さっきの話の続きなんだけど、聞いてもいい?」
「え!? あぁ・・・・・・えっと、うん。いいよ」
そんなに驚くのか。
聞いてほしくないということなのかな。
「やっぱり聞かない方がいい?」
「ううん。全然なんでも聞いて。あ、一週間前に食べたご飯はなに、って聞かれたら流石に答えられないけどね」
「六日前ならいけるんだ」
「ギリギリいける・・・・・・と思うよ。ご飯のことは私忘れないから」
腰に手をあてエッヘンと自信たっぷりな態度で言ってくるが、そんなに誇るようなことではないだろう。
「優華ってそんなに食いしん坊キャラだったっけ」
「食いしん坊とか言わないでよ〜」
ジトーっと目を細め不服そうにしている。
「ごめんごめん。だけど俺は食いしん坊って悪いことではないと思うよ。妹だってかなり食べるから」
「そういう問題じゃないよ〜〜!!」
フォローの言葉はあまり意味がなかったらしい。
顔を背けられた。
「ごめんごめん話が逸れた・・・・・・優華さん?」
こちらを振り向いてはくれない。
完全に怒っているように感じる。
「優華さーん?」
これはまずい。
なんとかして怒りを収めてもらわないと。
「俺のセクシーな姿いくらでも見ていいよ」
「・・・・・・」
「えーっと、その・・・・・・さっき教室でスイーツを食べたいとか言っていたよね。奢ろっか?」
提案すると優華が瞬時に振り向き、俺の手を握り下から見上げてくる。
あざといって。
「駅前のアイス屋さん」
「りょ、了解です」
クソ、勝てない。
了承してしまった。
「やった〜! ありがとう強助!!」
嬉しそうに顔を綻ばせる優華。
上目遣いって半端ないな。
奢ることに躊躇したい気持ちがあったけどそんなものをどうでもよくしてしまう。
今度は俺が顔を背けながら返事をしてしまった。
あの顔で見つめられたら目を逸らすしかない。
「ねぇ・・・・・・」
先程までの態度とは真逆で、萎れた声で俯く優華。
「アイスニつでもいい?」
そんなことかい。
もっとオモイ話になると思ったわ。
やはり優華は食いしん坊キャラな気がする。
「いいけど」
「トッピングに粒々のカラフルなチョコとかも乗せていい?」
目をウルウルさせる優華。
だから可愛い顔でそういうことやるのは反則だって。
「なんでも大丈夫だよ。優華の望むままに」
「ありがとう強助!」
最初から奢らせることが狙いだったのか。
全て計画どおり、策士だな。
「行こ行こ強助」
嬉しそうだからいいか。
それに俺は———黒妃優華から一度笑顔を奪った。
彼女にしてあげられることは全部してあげなければダメなんだ。
「美味しい〜〜」
口と目を閉じて足をバタバタさせ、美味しそうにアイスを頬張る優華。
学校の最寄り駅近くのショッピングモールにアイスクリームのお店があった。
「良かった」
「強助も食べなよ」
提案され優華におすすめされたアイスを自分用に買った。
一種類だけ。
バニラ味だ。
カップに盛られたアイスをスプーンですくい、口に運ぶとスッキリとした甘みが口一杯に広がる。
舌の上でアイスが溶けると同時に俺の頬も溶けそうなくらい美味しかった。
レシピが知りたい。
「美味しい?」
「凄く美味しい。こんなに美味しいお店あったんだ。知らなかったよ」
優華や妹の付き添いで駅近くのショッピングモールにはときどき行く。
でもこの店は知らなかった。
「最近オープンしたんだよね。私も行ったことがなくて前から気になってた」
新しいお店なのか。
「へー・・・・・・ならさ良かったの」
「どういうこと?」
「初めていく店を俺と行ってってこと」
「昔から新しい店に二人で行くことはあったよね?」
「あったといっても数回だよな」
大抵は小学生のときだ。
家族の誰かしらが同伴だった気がするから、正確には二人ではない気がする。
「それに俺と行ったら他の人とはもうこれなくなるよ?」
「私は別に大丈夫だよそれでも。あ、でもめいっちとはきたいな〜」
冗談で言ったつもりだけど、これは本気だと捉えられているのか!?
優華の親友であるめいっちの名前を出していることから見ても、俺が本気で言っていると捉えられている。
「あのじょ、冗談・・・・・・」
「強助は嫌?」
不安そうに唇を軽く噛む優華。
強烈だよ、卑怯だその言葉。
また負けてしまう。
「そ、そんなことないよ。優華と行くのは他の誰と行くよりもいいから。そもそも優華ぐらいしか店に連れていってくれる人はいないけど」
一人だったらこういうところには行かない。
行くぐらいなら作るからな。
誰かに誘われても基本的には行かない。
「だから俺も大丈夫だよ、、、って優華?」
なんでさっきからあんなに不安そうなんだ。
「・・・・・・私ね聞いちゃったんだよ、強助の変な噂を」
「変な噂?」
無言で辛そうにゆっくりと頷く優華。
さっきから隠していたことなのだろうか。
「クラスの女の子たちがね、ファッション隠キャって噂してるの」
「ファッション隠キャ・・・・・・なにそれ?」
「私も噂の由来を聞いたわけではないからわからない。でも、絶対悪い意味で言われてるよ!!」
隣にいた優華が移動して、俺の前に立ち顔を近づける。
「強助が優しいから知ってもなにもやり返さないことをいいことに、強助のことを悪く言っている。それが辛いよ・・・・・・」
頭を俯かせる優華。
ずっとそれを心配してくれていたのか。
いつも気にかけてくれているな。
そんなことを気にする必要はないのに。
「ありがとう優華。俺のために報告してくれたり、悲しんでくれたり。でもさ優華が悩む必要はないよ。それは俺の問題だから」
「強助そんなことは」
「あくまで俺が言われているだけだ。気にしないで。そういうのには慣れているしさ」
優華は青ざめて更に辛そうな表情をする。
「カッケー奴の宿命だから。噂は噂だ。内容が真実であれ嘘であれ、いずれ消える。その話を聞いた一瞬だけ熱くなれるものにすぎない」
これは優華に対するフォローの言葉だ。
「で、でも———」
「大丈夫。俺は心配いらないよ」
人は真実か嘘かもわからない情報を鵜呑みにして、言いたいことを勝手に言う。
噂を流されている本人がどう思うかなんて知らずに。
だけどそれが絶対にいけないことかと言われれば違うと思う。
噂を鵜呑みにして話す人にはその事柄に対して、良いことも悪いことも言いたいことを自由に言える嬉しさや楽しさがあるんだろう。
それをわざわざ否定するのは人それぞれの考えがあるのに、その考えを奪うことになるから違うと俺は思う。
だけど俺自身はそんなことをしない。
他人に自分の感情を優先してなにかをすれば、意図せず他人を傷つけることになるかもしれないからだ。
無意識に傷つけられる痛みを俺は知っている。
それを自分が行いたいとは思わない。
そんなことするべきではないと考えている。
まぁそれを人に押し付けるのもおかしな話だ。
だから、俺自身がなにも気にしない、人に期待しないでいる。
噂を流されようが流されまいが、認知が増え続けようが消えようがどうでもいい。
触らぬ神に祟りなし。
我関せず。
他人の考えに自分の考えをぶつけるからおかしくなる。
俺は人に不用意に関わることも、繋がることもしない。
自分の考えは自分の中で一生止めればいいんだ。
もう二度とあんなオモイはしたくないから。




