確かな成長
「乙女を何時間も待たせるとはいい度胸ですわ」
「ごめん笹野内さん」
なぜか言葉とは裏腹に上機嫌な様子だ。
「しっかりとお話は出来ましたか?」
「少しは向き合えたと思う。笹野内さんのおかげだ」
「良かったです。お力添えできたことが大変嬉しいです」
「ありがとう」
フフフと微笑みながらいえいえと言葉を返してくれた。
「ですが、か弱き乙女を夜の公園に放置していたことは見逃せませんね」
「放置のつもりはなかったんだけど、結果的にはそうなるかもしれない」
生粋のお嬢様を放ったらかしにしたのは事実だから申し訳ない。
これだけ導いてくれる強い女の子だとしても、弱さはしっかりと持っているんだ。
疎かにしてはいけない。
「今回は貸しということにしておきましょう」
「貸し?」
「私が困ったことがあったとき、今度は本咲くんが助けてください」
「ご期待に添えるかはわからないけど、頑張ってみるよ」
「是非お願いします」
「か弱き乙女なら弱い俺でも頑張れると思うから」
「馬鹿にしていらっしゃいますか?」
「いいえ全く」
「冗談もほどほどにしてください」
態度が変わらなかった笹野内さんから僅かに怒りを感じる。
崩れない彼女が少し崩れた瞬間は違った可愛いさがあった。
「それにしても傷だらけですね」
「戦士の傷は勲章ものっていうけど似合っている?」
「いいえ戦士ではないですので」
「戦士だったら似合っているってことか」
「本咲くんには似合わないです。あなたは弱いのでしょう?」
さっきの言葉を根に持っていたようだ。
冗談を交えたやりとりだったけどなかなか毒のある言葉をもらった。
本心ではないんだよな?
本心だったら追加でダメージをもらうんだけど。
「先程の仕返しです。それ程までには思っていないですよ」
思ってはいるんだ!?
「落ち込んだ顔をなさらないでください。本咲くんは十分かっこいいです」
かっこいいとかそういう言葉は、そういう言葉で反応しづらい。
「落ち込んではいないよ」
「慰めて差し上げましょうか。私の胸に飛び込んできても構いませんよ」
手を広げて待ち構えている。
俺をなんだと思っているんだろう。
「フフフ、困った顔なさらないでください。強制ではないですから」
「その心配はしていなかったよ!?」
まぁそうでしたかと驚いた様子の笹野内さん。
天然なのか狙っているのかわからないな。
ただ言えるのはどちらにしろあざとい。
白姫さんよりも断然上だ。
「本咲くんなにか白姫さんと黒妃さんを助けるいい案がありそうですね」
「なにも言っていないけど」
「顔に書いてありましたよ」
「笹野内さんは超能力者なの」
「そうですと言ったら信じますか」
「信じてほしいなら信じるよ」
「私は本咲くんの考えを聞いているのですけどね」
不満顔になりながらお腹の辺りを突いてくる。
すいませんすいませんと謝りを入れた。
「案を聞かせてください」
「・・・・・・その前に声をかけてほしい人がいるんだ」
「駒下さんですか」
「そうだけど・・・・・・なんでわかったの」
「黒妃さんだけを救うのだとしたら彼女は関係ありません。ですが白姫さんを救うのであれば彼女と仲のいい駒下さんの協力は必要ですから」
流石だな。
もしかしたら俺の案も全てわかっているのかもしれない。
「いまから会えるかな」
「彼女は駅前のショッピングモールに滞在しているみたいですよ」
「笹野内さん」
「向かうのですね。いいですよ行きましょう」
陽は沈み辺りは真っ暗だがそれでもやらなければいけないことがある。
隣にいる笹野内さんを巻き込むのは申し訳なかったが、彼女は全て了承済みですと付いてきてくれた。
ショッピングモールに着きしばらく中を移動する。
「あちらにいらっしゃいますよ」
ソファーに座り待っている駒下さんがいた。
スマホを触りながら首を振って周りを確認している。
「待っていて笹野内さん。俺一人で行ってくる」
駒下さんは俺が傷つけた。
なのにもう一度協力してほしいと頼むんだ。
笹野内さんの力を借りてはいけない。
俺が一人で解決しないと。
「駒下さん待たせてごめん」
「本咲くん」
「さっきはキミのことを傷つけた。駒下さんは俺を頼ってくれたのに無下にして本当にごめん。キミに言われてわかったんだ。俺は向き合っていなかったんだって。起きている現実に、自分自身に」
あのとき卑怯者と言われ、駒下さんに怒りが湧いたと思っていた。
でも違った、卑怯者であることを認めようとしない自分自身に怒っていたんだ。
「だけど決めたよ。白姫さんを助ける。起こっていること全て解決してみせるよ。だから協力してほしい」
頭を下げた。
堂々とショッピングモールで行っているから悪目立ちする。
案の定周りから見られる。
だとしても恐れてはいられない。
怖いけど体が震えていますぐ逃げ出したいけど、立ち向かわなければいけないんだ。
相手を傷つける覚悟と同じくらい自分が傷つく覚悟も持たなければいけないから。
「わかった。本咲くんに協力する。一緒に波音羽を助けよ!!」
頭を下げた俺の手をとり笑顔を咲かせる駒下さん。
まだ周りから向けられる視線は苦しい、ただ乗り越えた先に良かったと思えることがあるんだな。
「本咲くんもやればできるじゃん〜〜」
うんうんと言いながら手を離し、俺の左胸を軽く触れてくる駒下さん。
力ない手の感触と褒められた高揚感で別の意味で心が苦しくなった。




