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幼馴染との約束





「強助、強助、強助」

 大きく体を揺らされる。


「う、うぅ・・・・・・優華?」


「強助!!」

 目は開かれていなかったが声で優華だとわかった。


「ここ・・・・・・どこ?」


「私の部屋! 強助がここにきたんだよ」

 

「そっか、そうだ」

 なんとなく思い出してきた。

 俺は優華と向き合うために訪れたんだ。


「記憶が曖昧になってるね。私のせいだ・・・・・・。ごめん強助」

 正座をしている優華が申し訳なさそうに膝に手を置いている。


「気にしないで。それより今日は優華と話したくてさ」

 起き上がり優華に向き直ると猛烈もうれつな痛みに襲われる。

 体中が悲鳴をあげている。


「あんまり動いちゃダメ。安静にしないとだよ」

 腫れと青あざばっかで包帯や絆創膏だらけだ。


「なんでこんなに怪我してるの」

 

「うーん、なんでだろう? 俺が俺だから?」


「真面目に答えてよ〜」

 頬が緩む優華。


「優華と顔を合わせたかったから」


「へぇ〜ふ〜ん。そうなんだね」

 顔を色々な方向に動かして俺の方に向けないが、チラリと見える横顔は朱色に染まっていた。


「だとしてもこんなに怪我をするのは良くないよ。傷が治るのに時間かかっちゃうから」

 

「すいません。気をつけます」

 心配そうに見つめる目からは優華の優しさを感じる。

 

「久々だったから上手くできたかはわからないんだけど。手当してみました」

 優華の横に救急箱があった。

 

「それって」


「小さい頃は強助が公園でいっぱい怪我をしていたから、その度に手当をしてたよね」


「あった気もしなくもない」

 小学生の頃は怪我だらけだった。


「そのときに使ってた救急箱。ほこりかぶってたけど、中身は全然そのままだったよ」

 

「昔からお世話になりっぱなしだな」


「私の方だって。強助にたくさん助けてもらってるから」

 目を瞑って恥ずかしそうに笑う優華。

 下着姿に近かったさっきとは違い、土曜日に見たうさぎのパジャマに着替えていた。

 ふわふわした可愛いさもある優華と相性抜群で、心臓のドキドキが早くなっていくけど目が離せなくる。


「可愛い」


「へっ?」


「えっ?」

 変な沈黙が訪れる。


「いま可愛いって」

 指摘してもらえて自覚した。

 とんでもない言葉を言っていたことに。


「俺がだよ」


「なんで急に自分可愛いとか言うの」


「そういえば俺怪我しているけどまだかっこいい?」


「話逸らさないで」

 話題は変えられないみたいだ。

 

「いやえっと、変な意味はなくて。その、だから、あの・・・・・・」

 言葉が上手く回らない。

 俺は堂々と可愛いって本心を漏らしたのか。

 なにをやっているんだよ。

 優華からしたら困ってしまう迷惑な言葉なはず。 

 幼馴染が急に可愛いとか言うなんて、気持ち悪いし信じられないだろう。

 怪我に続いてなんて失態しったいさらしているんだ。


「素直にそう思ったんだ、ごめん」


「謝らなくていいよ嬉しい言葉なんだから・・・・・・ありがとう」

 昔から知っている幼馴染の優華に嫌われなくて良かった。

 安堵あんどのため息が溢れる。

 それと同時に出会って十年くらい経っているのに初々しい男女の会話みたいになってしまう。

 普段よりも数倍の緊張が二人の間に流れている。


「は、話を戻すとさ」

 

「うん」

 

「優華に聞きたいことがあるんだ。なんか悩みとか、辛いことある?」


「辛いこと、悩み・・・・・・そうだね。う〜〜ん」


「小さいことでもいい、教えてほしいんだ」

 あごに手を添えて考えているが表情は変わっていない。

 やっぱり言いづらいのか、それとも単純に噂のことを知らず今日はただ体調悪くて休んだだけなのか。

 

「あるよ。悩みも辛いこともね」

 どんどん声が小さくなっていく。  

 打ち明けてくれたことは嬉しいはずなのに、どこか切なくなる。

 

「聞かせてもらってもいいかな。優華に起きていることを知りたいんだ」

 パジャマをギュッと掴み顔を下に向ける優華。

 

「どうしても?」


「優華の力になりたい。優華を助けたいから」

 更に深く下を向く優華。


「・・・・・・なんで私のためにそう言ってくれるの?」

 胸を張って答えられるわけではない。

 自信を持って言えることでもない。

 だけどそれでも向き合うってことは、分かり合うってことは自分のオモイも伝えないと。

 全部を伝えることは難しくても、いま言えることはいま言わなければ、いつのまにか言えなくなってしまう。


「幼馴染だからだよ。幼馴染だからキミを助けたい、キミの悩みや辛いことを解決したいんだ」

 これが優華のために行動する理由。

 本咲強助のオモイだ。


「・・・・・・」

 反応がないため言う前となにも変わらないかもしれない。

 でも笹野内さんは言っていた。

 なにも変わらなくたって、聞いた時点で相手に変化は与えられているからそれでいいと。

 教えてもらえないのは辛いけど、それならそれで俺が勝手に優華を助けるだけだ。

 

「私ね、噂が流されているみたいなの」

 ポツポツと小雨のように語り始める優華。

 

「強助と白姫さん、二人と同じような・・・・・・ファッション優等生って」

 自分の口で語ってくれる優華。

 傷つける覚悟で聞いてみたら答えてもらえた。


「それでね写真が送られてきたの」


「どんな写真」


「強助と白姫さんと私。三人で写っている写真」

 スマホを取り出し見せてくれた。

 俺が駒下さんに見せてもらった写真と一緒だった。


「それでね、それで」

 目の前にいる辛そうな優華に手を伸ばす。

 背中と腰に手をあて優しく撫でる。


「誰かもわからない人から、優等生のくせに、ほんとは淫乱なんだって言われて。見かけによらず・・・・・・や、や、とか。び、び・・・・・・」


「もう大丈夫だよ。そこから先は言わなくていい」

 鼻と口で必死に涙を堪えている音がする。

 苦しそうに自身の胸の前で腕を震わせ、そのまま力が抜けたように俺の胸にもたれかかってくる。

 回していた背中と腰に力を強めて寄せる。


「大変だったな。辛いよな。一人で抱えて、優華は頑張ったよ」

 そんなことないと力ない声がする。

 相当追い込まれている。

 知らない人から写真と共に心ない言葉まで言われてどれほど辛かったんだろう。

 優しい誰も包み込むような優華が、酷い言葉を心で受け止めるのは本当に苦しかったはずだ。

 言葉のナイフは見境みさかいなく柔らかい心を突き破るから。

 

「強助・・・・・・強助・・・・・・」

 顔を上げた優華の方を見る。


「助けて・・・・・・」

 小さくて消えてしまいそうな声だったけど、振りしぼったその中に確かな力が宿っていた。

 胸の奥底にあるオモイをくれた。

 

「当然だよ。約束する」

 覚悟は決まった。




 俺が———助ける。










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