強助のバカ〜
「家についたはいいけど・・・・・・」
緊張する、優華は出てくれるのだろうか。
今朝はインターホン越しで少し会話をしただけだ。
面と向かって会話をしてくれるかな。
休んでいる理由を笹野内さん伝えで知れたとはいえ、優華自身が俺と話してくれる保証はない。
一か八か。
あまり好きではないがそんなことも言っていられない。
向き合うと決めたのだから。
「ふぅ〜はぁ〜」
深呼吸をする。
緊張を落ち着かせるために。
大丈夫だ、俺だぞ、俺なんだ。
それくらいできる。
「行わない限り一生向き合えない」
笹野内さんに言われた言葉を胸にインターホンを押した。
応答はなく出てきそうな気配もなかった。
優華以外の家族もいないのだろうか、中に人がいそうな気配はない。
「自分の部屋にいるのかな」
俺の部屋の向かい側に優華の部屋がある。
二人とも二階の端にある部屋だ。
「あそこにいるもんな」
走って自分の家に入り俺の部屋を目指す。
着いてから窓を開けベランダへと出た。
「閉まっているか」
カーテンは二重に閉じられていた。
でも逆に言えば部屋にいることの証明な気がした。
「優華、優華! 優華!!」
聞こえているはずなんだけど反応はない。
優華は怒っているのかもしれない、近所の人だって。
俺のせいで周りの誰かが嫌なオモイをしている。
「———傷つけるかもしれない覚悟を持つこと。すごい怖い。自分が自分じゃないみたいだ」
いますぐに逃げたい。
やっぱり無理だと笹野内さんに言ってこんなことしたくない。
「でもそれでもやるしかない」
上手くできなくたっていい、ただ向き合いたい気持ちがあるなら。
もらった言葉を胸にベランダの手すりに乗った。
予想よりも揺れる。
円形状の手すりな上に裸足だからか足場は不安定、バランスをとるのが難しい。
だとしてもそんなことで止まってはいられない。
何度でも感じよう、向き合うために、分かり合うために。
膝を曲げ腕を上下に強く振る。
腕を上に上げるタイミングで膝を伸ばして跳んだ。
二メートルほど離れた優華の部屋のベランダまで。
体にあたる風は心地よかった。
あとは身を任せて目的の場所へと向かう。
「いける」
そう思ったが現実は不条理。
到着する前に下へと落ちていく。
「クソ」
保たない、抗えない、たどり着くことはできない。
脳裏に過ったその言葉が腹正しくなる。
不愉快だ、不必要だ、不可能にするな。
体が怒りの感情で埋め尽くされ、気がついたら手を伸ばしていた。
ほんの僅かな最後の足掻きのおかげで届いた。
向こう側にあるベランダの手すりをなんとか掴むことができた。
「意外とやれるな」
ただ完璧な成功とはいかずベランダの外壁に顔面から衝突し口の中に血の味が広がる。
足や胸も強打してジンジンと強烈な痛みが広がる。
「や、やべぇ」
手すりを掴んでいる腕にも衝撃と体重がかかり体を支えるのが苦しくなる。
「すごい音がしたけどなに!?」
だけど怪我の巧妙か、衝突時に大きな音が響いたため部屋の中から優華が出てくる。
「出てきて・・・・・・くれた」
成功したよ笹野内さん。
「えっ、ちょっと、手!? なんで手すりに手があるの」
「た、助けてくれると・・・・・・ありがたいです」
「お、お化け!?!?」
怯えた声が聞こえてくる。
「違うよ、本咲です。本咲強助なんですけど・・・・・・」
「強助。強助がそこにいるの?」
手すりから顔を覗かせる優華。
「なんでこんなとこにいるの・・・・・・って顔血だらけ!?」
「話はいくらでもするのでいまは助けていただけるとありがたいです」
「そだよね。早くしないと落ちちゃう」
手を掴み引っ張りあげてくれる優華。
無理してみるものだ、まずはこうやって顔を向かい合うことができた。
「なかなか大変・・・・・・」
男一人を持ち上げるのは楽ではないはずだ。
けれど嫌な顔一つせず俺を上げてくれた。
足が上げられそうな位置まで上げてもらったあとは、自力でベランダの中に転げ落ちるように入った。
「大丈夫!?」
「ダサいところを見せちゃったな」
「ダサくなんてないよ。それより、なんであんなところに? なんでこんなに怪我をしているの?」
「向き合いたいから」
「え?」
「向き合うためにきたんだ」
「どういう意味」
ポカーンとした顔の優華。
「それはキミと・・・・・・って待って優華!? な、な、なに、なにその格好!?!?!?」
「へぇっ?」
自身の姿を見まわす優華。
ピンク色のキャミソールを着ていて、黄色と黒の下着が透けている。
「み、み、見ないで強助!!」
慌てて部屋に入っていく優華。
部屋から跳んで血だらけの怪我をしてようやく会えたのに、ここで話せなくなったら二度と話せないかもしれない。
無我夢中で優華を追っかけ部屋の中に入り手首を掴んだ。
「き、強助!?」
「待ってごめん優華。話を・・・・・・」
「だから、見ないで〜〜」
優華が勢いよく手を振り解き、そのまま体勢を崩した。
慌てて倒れないように抱え込もうとしたが時すでに遅し優華と一緒にそのまま倒れてしまう。
気がついたときには鼻と鼻が触れ合い唇が微かにあたりそうなくらい近づいていた。
吐息がお互いにかかる。
なにがなんだか、お互い分からず全く動けない。
ただ優華はそっと目を閉じた。
「・・・・・・」
快晴な空のような水色の瞳に俺の金色の目がしっかりと確認できるくらい映っていた。
自身の目を見た瞬間落ち着きを取り戻すことができ離れる。
「ご、ごめん」
膝で優華の体を挟み見下ろす形になっている。
「・・・・・・バカ」
優華が顔を萎めて声を漏らす。
「強助の、バカ〜〜!!」
下半身に電流が流れたかのような衝撃が走り、更にはサッカーボールを鼻にぶつけられ、恥ずかしそうに叫んでいる優華の姿を最後に見て意識がとんだ。




