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オモイと向き合い






「ファッション優等生・・・・・・優華は、優華にはどんな噂が流されているの?」


「気になりますか?」


「・・・・・・教えてほしい」

 

「構いませんが少し強引ですわ」

 突くように指を動かす笹野内さん。

 動かす指がトントンと俺の手に触れる。


「ごめん・・・・・・」

 笹野内さんの肩を強く掴んでいることに気づき慌てて離す。


「いえいえ。悪い気分ではありませんでした。本咲くんが本日会話を行った中で一番感情を表に見せてくれましたから」


「ははは・・・・・・」

 正直嬉しくはない。

 本心に近い自分の本能的な感情は出したくないからなぁ。


「黒妃さんは特別でしょうか」


「急にどうしたの」


「本心をあまり紡がないあなたが、反射的に口を開いた。自分が求めているものをただ尋ねた」

 

「特別ってわけでは」


「本咲くんにとって普段の自分を変えてしまう存在がいるのです。そのお方が黒妃優華さん。彼女のためならあなたはなんでもできます」

 

「だからなにを言って・・・・・・」

 俺の全てを見透かしてるみたいだ。


「黒妃優華さんはファッション優等生。良い子のふりをした小悪魔、清楚系ビッチ。隠キャを着こなしている本咲強助と同じように、優等生というものを着こなして、自分を良き模範もはんのある人物に見せている人物です」

 

「そんな人物なわけない」


「実際は白姫波音羽と同じ正真正銘のビッチなのにです。いいえ、白姫波音羽よりもあくどいビッチです。良い子のふりをして、清楚な優等生を気取っているのですから。中身は男をたぶらかす魔性の女性だというのに」


「優華はそんなんじゃない」


「本咲くんや白姫さんよりも悪い噂が流されていますわね」


「なんで優華が!」

 手のひらが潰れるくらい力強く握る。

 

「鬼気迫る表情になりましたね」

 笹野内さんが朗らかに俺を見る。

 胸痛くなるような内容なのに平然として優しげな言い方をする彼女に苛立ちが募る。


「なにその言い方は・・・・・・」

 笹野内さんの方を見ると鋭い目つきで俺のことを見ていた。


「あなたが望んでいた内容を教えました。だからこそ、問題はあなたが事実を知りなにをするのかです」

 この人はなんなんだ。


「言われなくても考えてるよ・・・・・・」


「なにもしないでしょうか?」


「っつ!?」


「白姫さんの噂と同じようにただ時間が過ぎるのを待つだけですか」


「そんなことは言っていない!!」

 怒りの形相で睨む。


「でしたらどうするのです」


「なんなんだよキミは、そんな言い方をして・・・・・・」


「ただ聞いているだけですよ。あなたがなにを思って、なにを行うのか。答えられませんか」


「だから・・・・・・」

 笹野内愛。

 キミはなんなんだ、俺のなんなんだよ。

 偉そうに上から目線で言葉を並べて。


「俺だって優華が望むなら。白姫さんが本気で困っているとわかったら。行動したさ、したよ!! でも、二人が俺になにかを言ったか? なにも言ってないんだよ。頼られてなんかいないんだよ。なのに俺から行動したらより二人を傷つけるかもしれないだろ」

 俺が動けない理由。

 動いても無駄だから、それはもちろんある。

 けど、それと同じくらい誰かを自分の手で傷つけてしまうのが嫌だから。

 

「そうでしょうか」


「そうに決まっている!!」

 勝手な考えでなにかをすることほど悪手なことはない。

 相手を傷つける可能性があるのに理解せず人はなにかをしてしまう。

 そのせいでずっとずっと、心に残ってしまう傷ができることがあるんだ。


「話してみたのですか」

 

「え・・・・・・」


「聞いてみたのですか」

 

「それは・・・・・・」

 自分から聞けるわけがない。

 仲良くもない白姫さんに。

 仲良い優華に。

 そもそも人に本心を聞くなんてできるわけがない・・・・・・。


「直接聞いてみなければわからないこともありますよ」

 笹野内さんが頬に両手をあててくる。


「優華は、俺が聞いて教えてくれることなら、聞かずとも教えてくれる。だから俺に言わないということは優華が俺に話したくないことなんだ。そんなことしても無駄なんだよ」

 優しく頬を撫でられる。


「幼馴染だとしても、近しい存在だとしても、全てを話しているというわけではないでしょう。聞いてみたら、優華さんの口から本咲くんの知らないなにかを聞けるかもしれません」

 

「ほんとにそうかな・・・・・・俺が聞いても結局は教えてもらえなくて、聞く前と状況はなにも変わらないんじゃ・・・・・・むしろ傷つけることに・・・・・・」

 自身がもてない。

 勇気を持って聞いたのに断られてなにも答えてもらえなかったら辛すぎる。

 それどころか相手を傷つける結果になったとき、その責任をとれるのか。

 ただの勇気損なんだよ。


「変わらなくたっていいと思いますよ。状況が変わらなかったとしてもあなたが聞いてしまった以上、すでに優華さんには変化を与えていますから。あなただって優華さんに聞いてしまったのなら、変化をしておりますしね」


「それは優華の気分が悪くなるってことだよね。そんなこと俺の勝手でしたくない。俺の勝手なオモイで、彼女を傷つけたくはないんだ」

 優華や白姫さんの本心以前に、俺自身の本心を誰かに言うなんてできるわけがない。


「本咲くんにとって優華さんを傷つけることはとても嫌なことなのでしょう。それは、優華さんだけでなく白姫さんも同じ。人という存在、自分以外の他人を自分の行いで傷つけたくないんでしょう。ですが相手を傷つけるかもしれない覚悟を持たない限り、向き合うことはできませんよ」


「むき、あう?」

 駒下さんにも言われた言葉だ。


「聞くということ、言うということは向き合いです。相手と自分、二つの存在がなければできないこと。難しいことで怖いことです。相手を知るということで相手に知られるということだから。知らないことを伝え合うというのは誰だって不安に駆られます。伝えられる前も、伝えられたあとも」

 そうだよ、だから本心なんて言いたくない。


「けれど相手を知らなければ、どれだけ大切な人だったとしても、本当に分かり合うことはできません。向き合った先でしかお互いを分かり合うことができないのです」

 

「わかり、あう」


「相手が傷つくことも、相手が辛いことも、嬉しいことも、楽しいことも。向き合わなければ分かり合うことはできませんよ」

 距離を詰め顔を近づける笹野内さん。


「誰にも自分自身の本心を、オモイを伝えられないのは、どなたでも辛いことでしょう。本咲くんだって例外ではないです」

 あと少しで顔が触れ合うのではないかという距離で微笑まれる。


「・・・・・・そんな簡単に向き合えるかな?」


「行ってみて自身が望むほどの向き合いができるかどうかはわかりませんが、行わない限りは一生向き合えないと思いますよ」

 やってみなければわからない。 

 けどその先に分かり合うがある。

 少なくとも向き合うことはできる。


「笹野内さん、ありがとう。俺、上手くできるかどうかはわかんないけど、向き合ってみるよ」


「上手くできなくたっていいんです。ただ向き合いたい気持ちがあるなら」

 

「行ってくるよ」

 頬にある手に自分の手を重ね、笹野内さんの目を見つめる。

 軽く頷いてその手を笹野内さんの膝下に下ろす。

 

「また話そう、笹野内さん。今度は俺とキミが」

 笹野内さんとも話したくなった。

 お互いのことを分かり合ってみたくなった。

 伝えると笹野内さんは微かにはい、と言った気がした。

 俺の方にヒラヒラと上品に手を振りながら見送ってくれる。

 そんな彼女を背にして優華の家へと向かった。




「頑張ってね強助くん。ですが・・・・・・あなたはあざといですわ」

 











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