噂の中身
「この写真なんで・・・・・・」
誰かが盗撮していたのか。
あのとき感じていた視線は、思い込みか非科学的な幽霊だと思っていたけれど真実が判明した。
誰かに公園から写真を撮られていたから、感じた視線だったんだ。
「なんなんだろうねこの写真。発信元が誰なのかも不明だし」
スマホを覗き込む駒下さん。
「いつ見てもムカつくことだけは変わんないけど」
鬼のような形相で写真を睨む。
怒りがいまにも爆発しそうだ。
「どうやって駒下さんは知ったの?」
「SNSに流されてて、それを学校中の人が目に触れて拡散したの。波音羽や黒妃ちゃんは有名人だし」
人気者だから学校の人がみんな知っていたのか。
知らなければ広まることもなかったが、有名であればあるほど大きく迅速に広まる。
それが噂というものだ。
「それに匿名の書き込みでいろいろ言われたり、波音羽にダイレクトメッセージで、直接悪く言ってくる人もいて」
SNSをやっている弊害だ。
けれど、そんなことを絶対にされていいわけない。
目に見える形の言葉を見せていいわけないんだ。
「ねぇ本咲くん。本題なんだけどさ」
まっすぐ俺を見てくる。
「波音羽を助けてくれない?」
「助ける?」
「波音羽学校休んでる。連絡しても出てくれないし。心が辛くなってるんだと思う」
学校を休んでいたのか。
クラスの誰がいて誰が休んでいるかを確認する余裕がなくてわからなかった。
自分の知らないところで勝手に憶測で語られたら、その傷を自覚せずとも誰だって痛くて辛い。
それは紛れもない事実だ。
白姫さんは辛くなっている姿があまり想像できない女の子ではあるけど、強気で明るく元気な彼女が苦しんでいるのだとしたら、相当なダメージに違いないな。
「それはわかったよ。でも、なんで俺に助けを求めるの? 白姫さんと俺は関係性がないと思うけど」
「いつも仲良さそうに話してるから」
「仲良いなんてそんなことあるわけないよ。白姫さんに失礼だと思う」
軽く笑いながら自虐するように言う。
また自虐してしまった、流石に絵にならない。
「失礼なんてそんなことないと思うけど」
不快そうに口を結ぶ駒下さん。
納得がいっていないとは思わなかった。
「波音羽のこともとから嫌いな人って結構いる。あんな噂流されたら、もっと嫌われちゃう。酷い女の子じゃないのに、噂のせいでもっと波音羽は悪者になる。だから白姫波音羽っていう女の子を知ってもらいたい。本当の波音羽を」
ギュッと手を握りしめ言葉を震わせる駒下さん。
「波音羽は流れてる噂のような子じゃない。根は真面目で優しい子なの・・・・・・誤解を解きたい」
正面に向かい合う彼女を見ていればその言葉が嘘ではないとよくわかる。
「そもそも誰が噂を流したの?」
「誰が噂を流したのか私にはわからない———でも、どういう噂が流れてるかはわかる」
含みを持たせた言い方だな。
「ファッション隠キャとファッションビッチ?」
「知ってるんだ。それそれ。ほんとセンスのないつまんない噂」
「その二つはどんな意味なの?」
「隠キャぶってるけど、本当は隠キャじゃない陽キャ。隠キャというものをファッションとして着こなし、自分に酔いしれて過ごしてる本咲強助」
心にズキズキと刺さるような言われようだ。
鋼メンタルが豆腐メンタルになってしまう。
「いろんな男と関係を持って、取っ替え引っ替えで男を変える。ビッチである事実をファッションとして着こなして女子にマウントをとってる白姫波音羽。私が聞いたのはそういうの」
「へぇーそんな意味だったんだ」
「驚かないんだ」
「中身は気にしていないから」
疑問符を掲げた顔をしている駒下さん。
「流されている噂っていうのはそれで終わり?」
「ううん、まだある。ここから言うことが本咲くんを頼ったホントの理由でもあるの」
前のめりになり顔を近づけてくる。
「ファッション隠キャとファッションビッチ。二人が付き合ってるって言われてるの」
「俺と白姫さんが!?」
あまりの衝撃に店内だということを忘れてつい大声をだしてしまった。
他のお客さんたちに注目を浴び平謝りする。
前のケーキ屋の件とそっくりな光景だ。
「中身は気にしてないんじゃなかった」
「ごめん気にしてしまう内容もあったな」
「男子受けの白姫とカッコつけぼっち本咲。二人は恋人同士」
カッコつけぼっちか・・・・・・一番心へのダメージが大きい呼ばれ方だな。
「波音羽は恋人の人数稼ぎのために誰かれ構わず手を出す女。本咲くんは波音羽に好かれていると勘違いして付き合ってるカッコつけ童貞野郎。そんな風に噂を聞いた人は言ってた」
童貞野郎・・・・・・童貞かどうかでかっこよさは決まらない。
それに、白姫さんに好かれるなんてありえない、好かれたいとも考えていない。
だけど噂とはそういうものだ。
人から人へ伝わる度に誇張されていき、どんどんと噂が噂を呼んでいく。
根拠なき悪のウィルス。
「波音羽だけじゃなく、本咲くんにも関わることだから、私は頼ったの。一緒にどうにかしたくて・・・・・・さっきは、波音羽を助けるためと言ったけど、本咲くんを助けるためでもあって」
嘘はついていない。
本心から言っている。
言葉から裏腹な思いや嘘は感じなかった。
「お願い。一緒に助けて。本咲くんしかいない」
「なぜ俺しかいないの?」
俺でなくても白姫さんなら頼れる人がいるはずだ。
「本咲くんは他の人とは違う。誰かの、自分とは違う人のオモイを汲み取れる人だから」
俺の両手を掴み握ってくる。
印象とは違う無垢な瞳、聖母のような慈愛のこもった声、心から俺と白姫さんを助けたいというオモイが伝わる雰囲気でお願いをされる。
俺と白姫さんのためにここまで動けるんだ、駒下さんは根から優しい人なんだなぁ。
「本咲くん、ダメ?」
「・・・・・・駒下さんは優しいと思う。だけど、俺とは考え方が違う」
言葉を借りるなら、駒下さんには俺のオモイが汲み取れていない。
握られた手の間から自分の手をゆっくりと抜く。
「噂は辛いと思う。当たり前のように過ごしていた日々から、まるで異世界にいったかのように急に変わった日常になるから。それくらい強力な存在だから」
リュックの中から財布を出す。
駒下さんの分も含め、お会計のお金より少し多めにテーブルに置いた。
「だけどさ、どうにかしようと動くだけ、関わるだけ意味がない。自分自身じゃどうしようもできないもの。噂話に関与するだけ無駄なんだ」
リュックを手に取り立ち上がる。
「だが噂を受け入れろってわけじゃない。ちゃんと対処はする。てか、対処は勝手にされるんだよ。一時の間、短い流行期間だ。噂はいずれほとぼりが冷める。そうすればみんな噂のことなんて気にしなくなる」
噂は人と一緒でずっと輝くわけじゃない、ピークがある。
本人に残る傷だっていずれ慣れる。
俺が実証済みだ———。
慣れたらその分世界に絶望するだけだ。
俺のように———。
そのあとは、案外、気楽に生きられる。
俺がいまそれを証明し続けている———。
「安心して大丈夫・・・・・・」
「臆病者!! 逃げるんだあんた」




