屋上の密会
「ファッションビッチとファッション隠キャ。これらの噂をご存知ですか?」
思いもよらない言葉が笹野内さんから聞こえてきた。
「ご存知ないのであれば説明いたします」
「知っているよ」
本当は知っているのに知らぬ存じぬで通すのが悪い気がして言ってしまった。
「どこまで把握をしていらっしゃるのでしょうか」
「噂程度。俺と白姫さんがそんな風に言われているって」
「そこまで把握しておられましたか」
「誰が噂をしているとか、噂の詳しい内容とか、わかんないことはいっぱいあるんだけど・・・・・・話したいことって、そのことについてという認識でいい?」
「はい、そうです」
「なら・・・・・・実際いまなにが起こっているのかを笹野内さんは全て知っているってこと?」
フフフと溢したように笑ったあと、はいと静かに呟いた。
俺が視線を集めていたこともなにか関係しているのだろうか。
「教えてくれないかな」
「えぇもちろんそのつもりです。私が伝えたくて、あなたに声をかけたのですから」
高校に入ってから少なからず会話をしたことはあるが、どれも事務的なものだった。
しっかりと会話をするのは今回が初めてだ。
「ありがとう」
感謝を伝えると笹野内さんが目を丸くして頬を少し朱色に染めた。
「どうかしたの?」
逸らした顔は太陽の日を浴びたのかと思うくらい明るかった。
「ご心配なく。懐かしくなっただけです。私にとって大切だった方と重なってしまいました。申し訳ないです」
・・・・・・。
「本日十七時ちょうどに駅の近くにあるカフェ、ディーテにいらしてください」
「いま話すんじゃないの?」
ここまで言ってお預けかと残念な気持ちになる。
「ファッションビッチとファッション隠キャという噂が学校中に広がっております。詳しくは放課後に」
淡々と報告のように呟き、背中を向け歩き出す笹野内さん。
「本咲くんまたあとで」
こちらにもう一度振り返ると制服のスカートを両手で摘み上げてから、貴族のように頭を下げる笹野内さん。
屋上から出るドアの近くで、誰も来ないように見張りをしていたであろう天上くんに近づいていく。
「ありがとうございます」
ドアを開けて笹野内さんが段差で躓かないように手を差し出す天上くん。
まるで英国紳士の嗜みだ。
笹野内さんが屋上から出る。
すると、天上くんが俺を睨んでくる。
一言二言なにか呟いていたが声は聞こえなかった。
フン、と鼻息の音だけはしっかりと聞こえたが、それと同時に扉を閉めて屋上をあとにしていく。
ただ一人俺だけ屋上に残される。
「テスト結果に、ファッションビッチとファッション隠キャ。噂が広まり大変なことになっているな」
太陽の眩い光を全身に浴びる。
「熱いなやっぱり」
梅雨の季節だが今日は雲一つない快晴。
夏が近づいてきていることを感じさせられる。
「熱さには慣れない」
ジメジメとした湿気を肌に感じながら考える。
「ファッションってなんだよ。ビッチとか隠キャとか、なんなんだよ」
心の中で灰色の雲が蠢き覆う。
「テストの結果を見に行っただけなのに、なんであんなに視線を受けなきゃいけないんだよ」
なにも関わっていないだろ。
誰にもなにもしていないだろ。
「———噂なんて嫌いだ・・・・・・」
昼休みの間屋上にいた。
教室へと戻ったあとも周りを極力見ないようにしてなんとなく授業を過ごした。
いつもよりも長く感じたが、終わりはやってくるもの。
ホームルームが終わったと同時に駅へと向かう。
「強引だよな笹野内さん」
有無を言わせず約束だけ取り付けて立ち去った。
「その強さが芯を作っているのか」
白姫さんにしろ笹野内さんにしろ、強引さが彼女たちの強さになっている。
「うーん。ものは捉えようなのか」
ブツブツと考えていると目的のカフェに着いた。
「ここだよな・・・・・・敷居たか・・・・・・」
ヨーロッパ感溢れる外観は七夏実や白姫さんが好きそうな写真映え重視の店という感じがした。
男一人で入るのには勇気がいる。
「本当に笹野内さんいるんだよな?」
もしいなかった場合俺は一人でカフェで待つということになる。
それは地獄だ。
とても耐えられる気がしない。
店の外で待っていればいいか。
でも、熱いしできれば早く涼しい所に行きたい。
入るしかないのか。
大きく深呼吸をして覚悟を決める。
「出たとこ勝負だ」
店の中に入る。
甘い香りに自然溢れる豊かな香り、様々な刺激が鼻に漂う。
いらっしゃいませ〜と近づいてくる店員さんからは、今日の天気みたいな明るさを感じ言葉が詰まる。
「あ、えっと、先客の方がいて」
辿々しく喋ったが一瞬で理解してくれたのかお連れ様はなんという名前かと聞いてくる。
「笹野内愛という方なんですけど・・・・・・」
困ったような表情をする店員さん。
悪い想像が当たる。
そちらのお客様はいないと言われた。
まだ来てないのか。
それとも騙されたのか。
どちらにしろこの状況はよろしくない。
他の店員さんから見られ、おかしなお客様だと思われている気がする。
どうしよう、どうすればいいんだ。
「あっ!! 本咲くん、こっちこっち」
全く知らないギャルっぽい女の子に名前を呼ばれた。




