夫婦じゃない!!!
脱衣所にある洗濯カゴの前にくる。
そこには確かに俺の服があった。
「一回カゴに入れたら汚れているとは思わないけど、少し抵抗はあるんだよな」
時間もないため文句は言っていられない。
カゴに入っていた服に着替えリビングへと向かうことにした。
俺のかっこよさで汚さをどうにか浄化したい。
廊下に出ると丁度玄関の扉が開いた。
優華が着替えを終えて来たみたいだ。
「お邪魔します。あっ、強助」
「あ、あぁ優華」
さっき白姫さんに優華とのことを言われたばかりで恥ずかしさが残っている。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ぜんぜん喋れなくなっている。
こういうときは俺から話したほうがいいよな。
「・・・・・・優華が家くるのっていつぶりだっけ」
「姉さんに呼ばれてこの間の夜ご飯食べに来たよね?」
「その姉さんって呼び方律儀に守らなくていいのに」
「強助のお母さんとの約束だもん」
俺の母親がおばさんと呼ばれるのを嫌がり、姉さんと呼ばれるのは、息子の幼馴染から言われるにしてはしっくりこないと悩みに悩み、結果的にあねさん呼びに落ち着いた。
「ということは俺が天才料理人と呼んでと約束したら呼んでくれるの?」
「強助そんな風に呼ばれたいの」
「いや、全く」
「じゃあ約束する意味ないよね!?」
優華の鋭いツッコミが光る。
調子が元に戻った気がする。
「変な会話だね」
「俺がいるだけで、辺りの世界は俺に染まるからな」
「自分が変だって認めてるの?」
「特別な存在っていう意味での変だけど」
「それならいいか〜」
「自分で言っておいてなんだが、それはいいのかな」
優華の反応がおかしくて、自虐ツッコミみたいなことをしてしまった。
俺にしては珍しすぎる。
「それで、ケーキって美味しいの?」
本日の目的だ。
優華はケーキをいただくために俺の家にきた。
「たぶん」
「大丈夫なのそのケーキ」
クスクスと笑う優華。
「不味くはないだろうから。きっと、大丈夫なはず」
「ほんとにそのケーキ大丈夫!?」
「腐ってなさそうだった」
「そうでなきゃ困るよ!!」
鮮度が命だから確証が持てないんだよな。
「ちょっと腐ってるくらいだったら食べるけど」
モジモジとしながら小さい声で呟く優華。
なんだいまの可愛いかよ。
食いしん坊以前に、可愛いが先行しちゃってるって。
あざとさに俺は弱いんだよ。
「この服どうかな?」
ホッとするまもなく新たな質問がくる。
「えっ? どうって・・・・・・」
ひまわりのような黄色の膝上スカート、大人感あふれる所々が透けている黒色のブラウス。
明るくて年上のお姉さんのような優しさもある優華らしい服装だ。
「似合って、いると思うよ」
「ほ、ほんと?」
首を数回縦に振る。
「嬉しいな〜」
頬を緩ませて軽く目を瞑りながら笑う優華は、破壊力抜群だった。
加えて優華の服装は肌の露出多めでセクシー感が溢れているため、心臓も持たないし目のやり場に困る。
「なんで顔逸らしているの」
「な、なんでもない!」
「そんな勢いよく返さなくていいのに」
なにも言えずただ黙ってしまう。
「強助も黄色の半袖シャツ似合っているね。七夏実ちゃんが選んでくれたの?」
「これは母さんが買ってきたやつだよ」
もちろん着る人がいいという前提はあるけど。
「いつも黒ばっかり着ているからたまにはそういうの着ても良いと思うよ。結構明るめな服も似合うと思う」
褒められ慣れていないため、どう反応していいかわからない。
「肝に銘じておきます」
「そこまでしなくていいよ!」
褒められると調子が狂ってしまう。
慣れていないというのはやはり怖いものだな。
「二人とも玄関前でなにやってるの?」
リビングのドアを開けて顔を覗かせたのは白姫さんだった。
「顔を赤くして〜目も逸らし合って〜。付き合いたてのピュアカップルか!!」
「「付き合ってない!」」
「そんな反応見せたら逆に怪しいな〜〜二人とも」
自分だけの弄りならまだしも、誰かが加わったいじりは恥ずかしくなる。
その弄りをしてくる人物の性格によっては更に。
だからあんまりそういう弄りはしてほしくないけど相手は白姫さんだ。
通用しそうにないなぁ。
「ほら、二人とも早く。七夏実ちゃんが待ってるから」
照れは治っていないけど七夏実や白姫さんを待たせるわけにもいかないためリビングへと向かう。
優華も恥ずかしそうにしながら俺の後ろをトボトボと歩いていた。
「二人ともお疲れ様です。なんだか疲れていますね」
台所に立ちながら不思議そうに見てくる七夏実。
「一日の疲れがどっときただけだよ。かっこいいとなにかと疲れが溜まるんだ」
「大変ですねお兄ちゃん。マッサージしてあげましょうか?」
「ありがとな。けど自然治癒も一つの手だから大丈夫だ」
七夏実を見て安心させるために一回頷いた。
「優華姉は?」
「お気づかいありがとう七夏実ちゃん。でも気にしないで。暑さにちょっとやられただけなの」
「なるほどです優華姉。エアコンの温度下げましょうか?」
「下げなくて大丈夫だよ。しばらくすれば元気になるから」
申し訳なさそうにする優華。
「それならいいですけど」
「七夏実は座ってて」
「ケーキの準備が・・・・・・」
「遅れたお詫びに俺が準備するよ」
冷蔵庫へと向かいケーキの入った箱を取り出す。
「白姫さんも座ってて」
「りょ〜かい」
椅子に向かう白姫さん。
「私は紅茶をいれるね」
「ありがとう」
茶葉が閉まってあるキッチンの棚へと優華が手を伸ばす。
俺はその間に箱から優華の特製チョコレートケーキを取り出し、七夏実が用意してくれていた皿の上に乗せる。
皿の数が多い気がするが、あとで家族が食べるとき用に多く出しているんだろうな。
七夏実らしい気遣いだ。
「どれが白姫さんが食べるケーキなんだ?」
「ショートケーキ」
白姫さんが答える。
「了解です。にしても・・・・・・なんかケーキ多くない?」
十個くらいはある気がする。
この家はそこまでの大家族ではないし、俺と七夏実の分は昼前に食べたから抜くはずなのに数が多すぎる。
「私とお兄ちゃん分もありますからね」
「お腹いっぱいじゃないのか?」
「スイーツは別腹ですから」
エッヘンとお姫様のように答える七夏実。
別腹の概念が俺にはわからないんだが。
「あーそっか・・・・・・だとしても量多くない?」
「お姉ちゃんやお母さんもたくさん食べる人ですので、たくさん買っておいて損はないはずです!」
親指を立てこちらに向けてくる。
なら、いっか。
いや、いいのか?
「腐らせないように気をつけて」
そう言うことしかできない。
返品は出来ない。
捨てるのは料理をしている身としては勿体無いため、したくないからな。
「お兄ちゃんも食べるんですよ?」
「いま食べるとケーキが俺に胸焼けする。だから食べない方がいい」
「それは残念です。私はフルーツケーキです!!」
俺の渾身のボケをスルー?
なかなか反抗期の妹になったな。
「お兄ちゃんの分は私が責任持って食べます!!」
絶対俺が食べないことを残念に思っていない。
さっきはケーキを食べて欲しいと言っていたのに、絶対最初から食べる気満々だっただろ。
「私はどのケーキを食べていいの?」
マグカップに茶葉を入れ終えた優華が、ケーキを皿に移している俺を覗き込んでくる。
「優華姉は特製チョコレートケーキですよ。お兄ちゃんが選んでくれました」
特製を強調する七夏実。
「強助が?」
「はい! たくさん悩んで買ってましたよ」
「優華が喜んでくれそうなケーキをあげたくて、考えこみました。その結果が特製です」
本人の前で白状するのはきついな。
顔合わせず伝える。
恥ずかしいことの連続すぎる。
心臓がそろそろ爆発して、この家が無くなりそうだ。
「考えこまなくても私は強助がくれた物ならなんでも・・・・・・」
「うん?」
「なんでもない、なんでもない。考えてくれたんだありがとう」
嬉しそうだけどなにか思うことがあるような顔をしていた。
皿にケーキを移し終え、椅子に座っている白姫さんと七夏実、優華が座るであろう場所の前にケーキを持っていた。
「お待たせ」
優華が紅茶の入ったマグカップ四つをトレーに乗せて持ってきた。
ニヤけている白姫さん。
悪い予感がする。
「ふ〜ん。へぇ〜。ほぉ〜」
白姫さんが謎の相槌を行っている。
「さっきから思ってたけど、二人ともやっぱ夫婦感半端ないね!!」
「「夫婦じゃない!!!」」




