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ファッション隠キャとファッションビッチ




 今日も学校が始まる。

 高校に入学して、体育祭は終わり、中間テストも終えた六月の初頭。

 一日、一日、ときは着実に進むが俺は変わらない。

 ずっとかっこいい。

 

 窓際の一番後ろの席に座って隣を見渡すと広がる青色に輝く大きな海。

 うん、絵になるな。


 東京湾の近くにある学校からは、毎日海をのぞくことができる。

 まるで俺のために用意された舞台だ。


「ねぇ。今日も外見てなにしてるの?」


「・・・・・・」


「無視!? 本咲(ほんざき)それはないわ〜〜」


「なぜそんなに俺に絡むの?」


「だって前の席だし」


「それは穴があったら入りたくなる的な?」


「穴があったら埋めたくなるでしょ」

 それは人それぞれな気がする。


「で、本咲強助(ほんざききょうすけ)早く答えてくれない。なにしてたのかな〜?」

 いじらしく笑いながら、人差し指を顔の前で振り子のように振り回して聞いてくる。


「ただ海を見ていただけだよ。白姫さん」

 白姫波音羽。

 同じ教室で過ごす女の子。


「海は見るより入る方が楽しいじゃん」


「楽しいかどうかの話しはしていないでしょ」


「そうだっけ」


「会話の内容は覚えていようよ」

 いつもニコニコ、クスクス、ヘラヘラと笑っている。

 俺とは真逆、常に明るい白姫さん。

 

「ごめんごめん許して」

 両手を合わせて謝罪をしている中で、左のまぶたをぱちっとウィンクしてくる。

 自分が可愛いと思っているからなのか、度々こういった行動をする。


「あざといなぁ」


「え、なんか言った?」


「なにも言っていない。前向きなよ」


「照れてんだぁ〜」

 俺の言葉を無視してニタッーと笑う白姫さん。


「そんなんじゃないよ。もうすぐ朝の会が始まるから」


「なるほどね〜。教えてくれてありがとっ」

 見せスマイルか?

 狙った笑顔か?

 クソぉ、可愛いな。

 もともと顔は可愛い系なんだ。

 使いこなしたら当然可愛いんだよ。

 全てを見通すような黒色の瞳、長いまつげ、少し(うる)んだ柔らかそうな唇をしている。

 これはモテる。

 しかもスタイルもいい。

 やはりこれはモテる、何度でも言える。

 制服の第二ボタンを外しているのか、つけているのか、カーディガンを着ているためわからないが、胸元が大きく開いていて、彼女の豊かな膨らみが強調されている。

 スカートもかなり短めで、海から強い風がきたら一瞬で(めく)れてしまいそうだ。


「うん?」

 白姫さんがジーッと見てくる。


「なんかエロいこと考えてなかった?」


「女の子なのにエロいとか言っちゃうんだ」


「逆に本咲はそういうの気にするんだ」


「白姫さんのこと考えて言ったんだけどな」


「余計なお世話です〜〜」

 ベッ〜と舌を出して前を向く。

 すると綺麗に(なび)く、透き通るような金髪ロングの髪が目に入る。

 手入れをしているんだろうな。

 妹や姉さんも女の子のお手入れは大変だと言っていた。

 なのに(おこた)っていない、身だしなみをしっかりこだわっている。

 よりモテる要素が追加されたよ。


「凄いな・・・・・・う、なんだこの匂い」

 海風からくる(いそ)の香りと、シャンプーなのか、香水なのか、甘くて包み込むような、目の前の彼女からする香りが混ざり、不快とも爽快とも、なんともいえない複雑な香りが漂う。

 この自然に生まれた香りはなんていえばいいのだろう。

 

「海と・・・・・・」

 白姫さんの香り。

 海と姫の香り?

 人魚姫。

 良いネーミングではないか。

 流石俺、センスが極まっているな。


「本咲」

 

「俺の顔になんかついてる?」


「目がエロい」


「じゃあ俺は外を見るよ」


「悲しいこと言うな〜」


「じゃあなんでそんな俺に構うの」


「本咲と話したいから、って言ったらどうする?」

 ニヤニヤとしながら、俺を試すような含みのある大人の笑い方をする。

 不意な挑発に言い返す言葉が見つからない。


「冗談冗談。マジにならないでよぉ〜」

 試しておいて笑う白姫さんに少しムカッとする。

 こんなふうに多くの男子をもてあそんできたのだろうか。

 だとしたらご愁傷(しゅうしょう)様だ。

 このあざとさに()ぐには対応できない。


「こんどこそ前向くね」


「へぇー言うこと聞くんだ」

 まぁ俺だから、仕方ないな。


「どうだろうねぇ〜」

 言葉を言い残して前を向こうとする白姫さん。

 だけど途中でやめてもう一度俺に向き直る。


「ともかく、本咲と話したいのはホントだから」

 回れ右をする白姫さんの横顔は少し赤く染まっていた気がする。

 言葉が本心なのか嘘なのか、偶然なのか狙っているのかはわからない。

 ただ、それを受けた俺はしばらく白姫さんの言葉と顔が頭から離れなかった。

 意外とやるな。

 心の中でそう呟くことしかできなかった。













「本咲くんって身長は高いしさ、黒髪は綺麗に靡いてて、羨ましい。体型もスラッとしてて、顔もめっちゃイケメン!」

 教室の隅にいた女の子が海を背景に黄昏(たそがれ)て謎に決めている男の子、本咲強助を見て呟く。


「かっこいい・・・・・・なのにさ〜、ね?」

 隣にいる友達の女の子に同意を求めるように聞く。


「いつも人が近づくなオーラを出してるよね。自分しか眼中にないって感じで。優しい雰囲気を出せばモテるのにさ〜、なんかもったいないよね」

 教室のドアにもたれかかりながら二人の女の子は顔を合わせる。


「本来なら陽キャなんだよ。なのに隠キャぶって、なにがしたいんだろ」


「確かに〜。本咲って根暗な隠キャでクラスで浮いてるっていうより、自分から浮きにいってるよね」


「だから陽キャなの。ちゃんとした隠キャじゃない。なんていうか、隠キャを装っているように見える」

 

「というと?」

 お互いの顔を見合わせていたが、もう一度本咲強助の方を見る。


「ファッション隠キャって感じ」


「ファッション隠キャ?」

 聞いていた女の子は笑いながら聞き返す。


「隠キャっていうキャラを着飾ってるだけ。実際は隠キャじゃないのに、隠キャのフリをしてる。あいつはそんな気がするよ」


「言うね〜〜でも、なんで隠キャのフリなんかしてるの?」


「さぁ、知らない。どうせ、カッコつけとかそんな理由だよ」

 クスクスと笑い合う二人。

 教室は朝のホームルーム前ということもあって、クラスにいる人達は友人や恋人と談笑している。

 それもあり、話している二人の声は自然にかき消されていた。


「隠キャの割には人気者の女の子優華(ゆか)ちゃんと仲良いしさ」


「一緒に帰ったりしてるよね」

 

「そうだそうだ! ファッションといえばさ、白姫(しらひめ)さん!!」

 忘れていた噂を語る女の子。


「白姫さんがどうかしたの?」


「たくさん男いるんだって。流石は学年の男受けトップ」


「へぇ〜やっぱいりいるんだ。ホント、うざいね」


「顔がいいからって、なにしてもいいと思ってる。自分のわがままで世界が回ってるとでも? 勘違いすんなよ」


「ねぇ、同感同感。調子乗りすぎだよね〜」


「男子からモテてるだけなのに調子乗ってるっていうか、ただのとんでもない傲慢女だよ。女の子にはめっちゃ嫌われてるからね」

 

「フフ、言えてるね」

 少し声のトーンを下げる。


「しかもしかも。年上年下関係ない。やれればいいんだよあいつ。毛の生えたばかりの子供でも汚いおっさんでも誰とでもやってるんだよ」


「いいすぎだよ〜〜、でも違うように感じられないのが終わってるよね」

 こそこそと笑い合う二人の女の子。

 

「あいつさ〜〜ホントムカつく」


「ね〜〜」


「あいつの更にキモいのはさ、それすらも利用してること」


「利用?」


「言っちゃえば誰にでも股を開くビッチでしょ。そのことを使って、自分モテますよアピールしてんの」


「やばガチ淫乱(いんらん)女じゃん。どんだけ変態なの。ビッチもびっくりするほどのビッチじゃん!! ヤリマンじゃん!!!」


「そそ、だからあいつもさ、本咲と一緒」

 苛立ちと憎悪が体の中で渦巻く女の子。


「ファッションなんだよ。ファッションビッチ。本当に気持ち悪い」

 クラスの地位を確保するためにあえて嫌われるような行動をしている。それなのになぜか、白姫波音羽と本咲強助がクラスのみんなから一目置かれていることに対して抱く不快感。


 それが彼女たちの全て。


「うわ〜、噂をすればだね」

 海を見ていた強助にあざとく近づいていく波音羽。


「ね、席が近いとは思ってたでけど、あんだけベタベタ喋るなんて」


「男釣れました! みたいな? あぁやって行為に持ち込んでいくんだろくなぁ〜」

 談笑している二人に視線を送りながら、会話を続ける。

 

「やば、なんか見てきてない?」


「うんうん、逃げなきゃ!」

 ドアを開け慌てて教室から出る二人。


「ちょっといいか?」

 

「え?」

 金髪のパーマがかった髪、イヤリングに指輪などアクセサリーを全身に身につけた、学生にしては派手な見た目をした男が話しかける。


「嘘!? サッカー部エースの副生徒会長さんですか?」


「あぁ」


「お会いできるなんて。光栄です」

 恋焦がれるような視線を向ける二人の女の子。


「朝練は終わったんですか?」


「今日はないんだ。ありがとな後輩ちゃんたち」


「そんなことないですよ〜〜」

 嬉しそうに笑う。


「でさぁ、放課後空いてる?」


「空いてます空いてます! というか、副生徒会長様のためなら、絶対に空けます!!」


「そっか、ならちょっとお願いしたいことがあってさ」


「なんの用事でしょうか?」


「放課後生徒会室まで来てくれ・・・・・・白姫波音羽と本咲強助について、聞きたいことがあるんだ———」


 そう言うとサッカー部兼『副会長』である西蓮寺春兎の目は怪しく光った。









 




 


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