第67話 ルオルエル・ローグリフとの面会
第67話 ルオルエル・ローグリフとの面会
拝宮殿の入り口を通り、受付のようなところでレイラは質素な白いローブを着た宮殿の者と話をする。
話がついたのが、宮殿の者は確認の為に奥へと向かい、彼女はこちらへ戻ってきた。
「話は通しておいたから、後は頑張ってね。」
そう言葉を残して、彼女は宮殿の者が向かった先とは逆方向へ消えていく。
「……そういえば、ちゃんとありがとうって言ってなかったような……。まぁ、また会った時でいいか……。」
ふと気づいたときには遅く、彼女は行ってしまっていた。
過ぎたことを気にしても仕方ない。
とりあえず、今はさっきの人が戻ってくるのを待つことにする。
しばらくして、受付のような所にいたさっきの人と一緒に、少しいい生地を使ったであろう光沢のある白いローブを纏った男が歩み寄ってきた。
「貴方様が転移者……、勇者様で間違いないでしょうか?」
「ああ、勇者かどうかはわからないけど、転移したのはあっている。」
男の質問に肯定で返答する。
「分かりました。では、私についてきて下さい。」
肯定に対し怪しむ様子はない。
何の疑いもなく男は俺を奥へと案内しはじめる。
「……。」
確かめなくてもいいのかと聞こうと思ったが、余計に時間を取っても面倒なのは自分自身だ。
ここまでの移動で歩き疲れているし、日も既に落ちようとしている。
無暗に質問はせず、俺は只々ついて行くことにした。
「こちらの部屋です。」
「あっ、ああ……、ありがとう。」
急に声をかけられ、声が裏返りながらも返答する。
会話のないまましばらく歩いた後、いきなり言葉をかけられて驚かない方がおかしいというものだ。
「どうぞお入りください。」
俺の驚きを意にも留めず、男は淡々と業務をこなすが如く案内を続ける。
「こちらの席にお掛けし、もうしばらくお待ちください。」
最後にそう言って、男は部屋から出て行った。
そして、だだっ広い空間の中に、俺一人が取り残される形となる。
「ここは何かの斎場なのかな?」
千人規模を収容できそうな程の部屋を見渡していると、つい独り言が零れた。
誰かがいるわけではないので、当然それを拾ってくれる者もいない。
レイラが一緒なら、多分答えてくれたんだろうけど――。
そんな事を思いながらこの空間の装飾や造りを観察し続けていると、先ほどの入り口から別の人物が入ってきた事に気が付いた。
「拝宮殿の奥殿、天衣宮の景観はいかがですかな?」
野太く落ち着いた声の先に、贅沢な宝飾を編み込み、光沢と質感が程よく調和した純白のローブを纏った初老の男の姿が立っており、観察していた俺に対して感想を求めてくる。
「一言でまとめるなら、壮観ですね。」
特にうまい言い回しもできない為、見たままを簡潔にまとめて伝えた。
「なるほど、壮観ですか。中々悪くない感想ですな。」
もっとこう別の表現があるだろう等と言われるかと思ったが、対して気にしている様子は伺えない。
一応これでよかったのだろう。
それを肯定するように、話は本題へと進んでいった。
「私は現教皇を努めます、ルオルエル・ローグリフと申します。転生して間もない中、我がローグリフ連合を拠り所として頂いたことに、まずは感謝の意を申し上げます。勇者レオルド様。」
教皇は名を名乗り、ローグリフ連合国であるベロックス国を拠点にと選んでくれたことに感謝を述べる。
自身で選んだわけではないが、一先ず感謝の言葉は素直に受け取ることにした。
「い、いえ。俺もこのように受け入れて頂き……、あ、ありがとうございます。」
丁寧な言葉を普段使わない所為か、言葉の節々がぎこちなくなる。
レイラと出会った時よりも不自然になってしまっているのは、恐らくこの場の雰囲気と教皇の存在が大きいからだ。
「もっと楽になさって下さい。言葉遣いもいつも通りで結構です。我々にとって、貴方は大切な客人であり、希望の存在となるのですから。」
楽にと言いつつも、希望の存在とかプレッシャーをかけてくる。
「で、では、そうさせて貰い……、ます。」
やはり落ち着けようがない。
「楽にと言われても急には難しい様ですな。では食事を用意させますので、お寛ぎになりながら対話いたすとしましょう。」
そう言って教皇がベルを鳴らすと、先ほどの白ローブの男が入室し、その男に続いて同じく白ローブの従者達が食事を運び込む。
「こんな静粛な場で食事しても大丈夫なんですかね?」
神々しい造りの宮殿内で食事など、バチが当たらないかと心配が過った。
「我々はロザリオ神のお教えを信仰していますが、ロザリオ様はこのような事でお怒りになる器ではございませんので、お気になさらず。」
しかし、案外何をしても大丈夫そうな物言いに、神に対する敬意というのか、敬うという思いに少し疑念が浮かぶ。
そもそも神の器を語る信者がいるだろうか――。
「なんというか、神の扱いが雑なような……。」
そう口に出してから気づいたが、いつの間にか自分が普通に対話していることに驚く。
話の内容――、というより、この教皇の信仰心が胡散臭く感じ、口調や態度が普段通り戻っていたのだ。
「まぁそうですね。ローグリフ教典は神の教えではなく、ロザリオ様が存命中に語られたお言葉を記したもので、そのお教え自体を我々は信仰している訳ですので、神への信仰とはまた別であるからやもしれませぬな。」
なるほどと納得していいものなのだろうか――。
返ってきた回答に困惑しつつ、俺は食事に手を付け始める。
「ああ、どうぞそのままお召し上がりください。食事をとりながらで結構ですので、少しばかり私の長い話にお付き合いいただければ幸いです。」
そう言って、教皇は勇者とその役目について話し始めるのだった――。