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第62話 魔石実験

第62話 魔石実験


 ――――ブォブォブォブォブォブォブォブォ――――


 鈍く低い異音と共に、青黒い空間が赤黒く発光を繰り返しながら広がりを見せる。

 元の景観が激しく歪められ、実験機器から部屋の装飾に至るまでがひしゃげていった。

 破壊された機器からは歪を帯びた音が響き、鈍い異音と相まって危機を奏でる。

 ただ、2人しか居合わせなかった事が幸いし、悲鳴による恐怖の音色を聴くことはなかった。


「ダメだ……、制御装置が機能していない。兄さん、最悪の事態になる前に早く逃げよう!」


 共に実験を試みていた弟のマオは、坦々と作業をこなしながらも焦った様子で、その言葉と同時にこちらへ手を伸ばす。

 しかし、俺がその手を掴むことはない。


「意地張ってないで、早く!」


 その素振りに気づいてか、マオは再度脱出を促すように強く言い放った。

 赤黒い歪を帯びた空間は少しずつ広がりを見せ、やがてこの部屋一帯にまで達するであろうと予測させる。

 それが焦りを助長させ、危機意識となってマオを駆り立てているようだった。

 だが、この手を掴んでしまえば、運命を共にすることはできても弟が助かる可能性が下がってしまう。

 助かる見込みの悪いこの状況で、共倒れの結果は一番よくない。

 それは、マオと自分の二人という意味合いと、実験と生命という意味合いの両方に対しての思いだ。

 同じく研究者の道を行く弟であれば、このことは重々判っているはずであろう。

 いや、そう願いたい――。


「マオ、俺達は研究者だ。」


 故に、この一言でその意図は伝わる筈だ。

 いや、伝わって欲しいという俺自身の願望かもしれないが、この際どうだっていい。

 父が生涯をかけたこの研究――。

 たとえ何度失敗しても、後世に引き継ぐためにと用意された地下実験施設と実験資料――。

 政府軍に目を付けられながらも、今までバレずに隠し通し、研鑽を重ねてきたのだ。

 ここで終わりに等できない。

 この思いだけは届くはずだ。


「こんなところで終わらせられない……。終わらせたらダメなんだ。」


 意図が伝われば、次に伝えるべきは未来に繋げる為の布石が相応しいだろう。


「だからこそ、この実験の被害は最小限にしなくてはいけない。」


 この実験――、魔石を使ったエネルギー実験は、国だけでなく世界的にも禁忌であった。

 その禁忌である実験を行い、注目を浴びるほどの被害ともなれば、再びこの実験を行う機会は完全に閉ざされてしまうだろう。

 お咎めも、排斥も承知の上とは言え、実現させねばそれこそ報われない。

 報われる日の為にも――。


「何としても、俺は次の実験に繋げたいんだ。マオ、頼む!」


「兄さん……。」


 納得には到底及ばないにも、言いたい事は理解はできるといったところだろう。

 逆の立場であれば、俺も同様の反応を示す筈だ。


「それならボクは外から封じ込めるよ。被害を地上に出さないよう最善を尽くすから……。」


 拒否したい思いを胸の奥へと押し込んだような表情で、それでもマオは自分なりにしなくてはいけない事を考えて提示する。


「だから、兄さんも無理はしな――……。」


 気づいた時には既に遅く、マオが言い切る前に、赤黒い歪は急速に広がり、俺を飲み込んでいた。

 そして――、俺の意識は一旦途切れることになる――。

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