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序幕2 とある研究員の日常

序幕2 とある研究員の日常


 俺の名はレオルド・オブレイオン。

 魔石と呼ばれるエネルギー物質の研究をしている研究員だ。

 今行っている研究が一段落したので休憩に入り、偶然、父の書斎で見つけた歴史小説――、著リスタルテ・ハーメニスの『乱世立国』を読み漁っている最中である。


 遥か昔――、この世界は数多の小国が乱立し、戦乱の時代となっていた。

 その小国の中で、大陸中央から西の覇権を握った、メノウという覇王が誕生する。

 メノウは隣国を取り込み、西の大国メノウ国を建国――。

 彼は西側の諸国をまとめ上げ、東へ勢力を拡大しようと試みるのだった――。


「ありがちな展開かな……。と言っても、史実を基にしているから余計にそう思うわけだけど……。」


 愚痴を零しつつも、頁をめくる手は止まらない。

 ありふれた出だしにありふれたストーリー展開を予想させるが、何となく興味が出てきたのだ。


 そのメノウ国に対抗する勢力として、北東の小国をまとめ上げたベルクス国の王ベルクスは、メノウ国軍の北からの侵攻を防衛する。

 更に、南東では武力で勢力を伸ばしていた、武王と称されるネウス国の王、ネウスによってメノウ軍の南からの侵攻を防ぐだけでなく、徐々にメノウ軍を追い詰めていた。

 武王と称されるだけあり、ネウス国軍はアスティア山道からアスティア平原へと侵攻し、メノウ国東の要所であるロックスを包囲するまでに至る。

 ロックスが陥落すれば、そこを拠点にメノウ国首都部を直接攻撃する計画がネウス国にはあった。

 しかし、それを食い止めた知将――、鬼才と称されるメルクト将軍によってロックスは窮地を脱することになる。

 メルクト将軍の台頭で、ネウス国に押され気味だったメノウ国は息を吹き返したのだった――。


「そういえば、メルクトっていうと、歴史の教科書にも載っていた気がするかな。」


 学舎で受けた歴史の講義を思い出し、俺は少しテンションが上がる。

 その最たる理由が――、このメルクトという名は、ここアスバンの町の隣町である、メルクリムが大戦前に使用していた町の名前だからであった。

 過去の武将達が治めていた領地――、その武将達の名前が領地名――、町の名前となって今尚残っている場所もあるらしい。

 そう思うと、親近感から自然と興味が沸いて来たのだ。

 ちなみに、今俺が住んでいるこの町、アスバンは先程出てきたアスティア平原を開拓してできた町である――。


 メルクト将軍は防衛に長けた武将だった。

 攻めこそ失敗に終わることもあったが、守ればほぼ無敗と言われている。

 唯一の敗北は、メノウ国の精鋭部隊を率いる武将ラウィンとの共同作戦時、ネウス国の猛き老将ガルウェス将軍との対戦で、ガルウェス将軍の配下であった武将スメイシカの奇策によるものだけであった。

 しかし、その敗戦が覇王と名高いメノウの懸念を生み、奸臣の私利による助言も相まって、メルクト将軍は最前線から退くことになる。

 そして、その隙をついてネウス国はメノウ国を完全包囲に成功し、中央の覇権を掌握することになったのだった――。


 第1節まで読み終え、俺は本を閉じる。


「町の名前に使われるってことは、それだけ大きな功績を残したってことだよな。」


 実在したメルクトのメノウ国での活躍を思い、俺はふと考えた。

 勿論、当時の情勢からすれば町や国もただの集まりでしかなく、呼称しやすくする為に『〇〇領主の町』というような決め方だったのだろう。

 それでも、その代表として名を遺したという事――、しっかりとした実績のある逸話付きなのだから、まさに英雄と呼ぶに相応しい。

 幾度なく侵攻を阻んだ知略――、というより、防衛したことで町の守り神みたいな扱いになっている筈だ。


「当時の町の人は自慢げに、ここは英雄メルクトの町だ!この町にはメルクト将軍の加護がある!みたいに言っていたのかな?」


 少なからず、そこに暮らす人々にとって誇りのようなものはあるだろう。

 現在はメルクリムと改名しているが、数百年もの間守り継がれてきたのだ。


「英雄の名は、その影響を100年齎す……、か。」


 著ヴィロー・サイプスの『英雄論』に載っていた言葉を思い出す。

 これもまた、父の書斎にあったものだ。


「父さんの研究が成功していれば、実験名やその機械に父の名が使われていたかもしれないし、そうなることも考えて、何か対策をしようとしていたのかな……。」


 何年も前に亡くなっている為、その答えを聞くことはできない。

 ただ、禁忌とされている魔石実験に手を出せば、悪名を遺す事になる。


「だから、工業技術支援団体に参加したりしてたのか……。」


 工業支援の名目で研究成果が出れば、工業発展への貢献者となるはずだ。

 兵器開発へ転用されない保証はないが、目的が工業技術の発展であれば、恐らく悪名として残ることは無い。

 未来で俺と弟が困らないよう、どのようにすれば悪名を回避できるかを考えて、こういった本を参考にしていたのだと改めて理解した。


「子孫の未来を考えてか……。」


 いつか自分が父親になったとき、そういう行動ができるだろうか――。

 そういうことも考えながら、幾多の選択を正しく選び抜けるだろうか――。


「……まぁ、今考えても仕方がないか。」


 閉じた本を整理し、俺は立ち上がる。


「そろそろ次の実験準備をしないと、またマオが口うるさくなるだろうな……。」


 そして、休憩終了とばかりに伸びをし、再び研究室へと向かった――。

世界観というか、話の始まりをもう少しわかりやすくするために追加しました。

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