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第71話 勇者と元勇者

第71話 勇者と元勇者


 意識が戻ると、天井が最初に目に入った。


 天井があるという事は、恐らくここは何処かの宿だと思うが――、どうやってここまで来たのかは覚えていない。


 たしか――、平原で謎の人物と対峙して瞬殺されて――。


「……っ!」


 その時のことを思い出しながら身体を起こそうとしたが、節々に走った痛みで記憶が鮮明になる。


「……まいったな。」


 俺は確かに斬られた。

 刃を交えることすら許されず、斬りかかったあの一瞬の刻に一太刀を浴び――、気が付けばこの有様である。


「……かなり、強かった。」


 居合抜きの早業に加え、峰打ちの正確さ。

 技量の違いは明確だった。

 そもそも、斬られていたら今こうして生きてはいないだろう。

 殺すつもりはなかったという事だろうか――。


「目が覚めたようね。」


 そんな事を考えていると、不意に声をかけられた。


「ここはリネ協定国ネウス領の宿よ。もう起きられるかしら?」


 黒く長い髪に赤い括り紐。

 間違いなく、襲撃してきた相手だった。


「いや、身体の節々が痛くて、起き上がれそうにないかな。」


 強がっても仕方がない為、正直に返答する。


「そもそも、なぜこんな事になったのか……。君はいったい誰なんだ?」


 返答と同時に、今の状況やこの女性が誰でどういう立場なのかを確認しようと試みた。


「どうしてこうなったのかは……、まぁ追々説明するわ。」


 何故か呆れ口調で返答が返ってくる。

 詳しくは読み取れないが、故意に戦闘を仕掛けた訳ではない事は分かった。


「私の名前はヨヅキ。ヨヅキ・ミヤシロよ。」


「俺はレオルド。レオルド・オブレイオンだ。既に知っていると思うが、勇者として妖魔領域を目指していた。」


 相手が名乗った為、こちらも同じように名乗る。

 更に、先にこちらの目的を明かすことで、相手も目的を言いやすい状況を意図的に作った。


「レオルドね。私の時と同じだし、たぶんそうだと思っていたわ。」


 自分と同じ――。

 彼女の口からはそう聞こえた。


「ってことは、君も勇者なのか?」


 同じという点が何を指しているかはまだ確定ではないが、状況や境遇の事だと推察するとその確率が高くなる。

 だったら、彼女の目的も同じなのかもしれない。


「私の場合は元が付くけどね。」


 元が付く――。


「……元?」


 元が付くという事は、今は違うという事だ。

 同じ勇者であれば共闘して魔王に挑めると思っていたが、その可能性が少し下がる。

 既に彼女が魔王と対峙していたなら、その危険性を知らせに来た可能性も考えられるし、魔王の配下として次の勇者を消しに来た可能性も濃厚だ。


「そう。何年も前に魔王に挑んだけど、魔王と戦う前に鬼に敗れた元勇者よ。」


 鬼!?

 魔王のみならず、妖魔領域には鬼が出るというのか――。


「よ、よく生きて帰れましたね……。」


 物語にしか登場しないような巨体の悪魔とされる鬼。

 その鬼と対峙して生きて帰れただけでもすごいことだろう。

 否、一瞬で俺を斬り伏せた凄腕の彼女だからこそ生還できたに違いない。

 対して、今の俺では生還は不可能だ。


「あの時は死を覚悟したわ。でも、とある英雄に助けられたのよ。今からその彼と合流して、一緒に妖魔領域へ向かうわよ。」


 端的に述べられる説明だけでは詳しくは分からなかったが、その説明の中にあった2つの言葉が俺を安堵と不安の対極の渦へと誘う。


「ちょっと待って。その、英雄と合流するのは心強いんだけど……、鬼が出るような妖魔領域に、本当に向かう訳?」


 彼女も死にかけたとまで言っていた妖魔領域だ。

 何かの冗談だろう。


「ええ、そうよ。その為に迎えに来たのだから。」


 冗談ではなかった。


「いやいやいや。死にかけたから、そうなる前に俺に忠告するのが目的じゃないのか?」


 これまでの話を聞く限り、普通、そういう展開になると予想するだろう。


「魔王討伐は止めるつもりだけど、妖魔領域に行くことは最初から決まっている事よ。」


 しかし、あくまでも彼女は妖魔領域を目指すみたいだ。


「えーと……、魔王を倒さないなら行く必要ある?」


 魔王討伐の為――、これが目的でその為に妖魔領域に行く。

 妖魔領域に行くのは目的ではなく手段だ。

 だが、彼女の口振りからすると妖魔領域へ向かう事が目的の様に聞こえる。


「大丈夫よ。行ってみれば分かるから。」


 何が大丈夫なのだろうか。

 自信満々に胸を張る彼女とは対照に、俺は不安が増していく。


「行く行かないは身体が治ってから決めるという事で……、一旦保留でもいいかな?」


 どの道、身体が動かせないことには歩くこともままならない。

 回復するまで只管拒み続けていたら、そのうち彼女も諦めるだろう。

 そんな算段から保留を提案したのだが――、


「保留も何も、今から出発するわよ。」


 保留の選択肢も残されてはいなかった――。

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