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シュメイトク遠征②

 城下町を抜けて城の前まで来ると、家臣たちが総出でアドラを出迎えてくれた。


「おかえりなさい坊ちゃん」


 頭を下げるのはトマル城城主代理であるルウィード。

 炎滅帝ヴェルバーゼの魔力により生まれし樹齢5000年を越える木人だ。

 普段は裸で暮らしているのだが今日は来客を歓待するために着飾っている。

 紋付き袴と呼ばれるシュメイトク独特の正装だ。


「坊ちゃんはよしてくれよ。すでに勘当された身の上だし」

「ヴェルバーゼ様はそのようにはおっしゃっておりません。今も変わらずシュメイトクの次期後継者であらせられます」


 アドラは首を横に振る。

 祖父がどう思っていようとアドラはすでにメノス王家とは縁を切った。

 自分は田舎の仕立て屋以外の何者でもない。

 現在はなぜか無駄に大仰な肩書きがついてしまっているが。


「積もる話もあります。どうか中にお入りください」


 ルウィードに促され実に1000年ぶりにトマル城へと入城する。

 奥の応接間にて差し出された座布団に正座する。

 もはや記憶も朧だがそれでも身体は故郷の風習を覚えていた。

 昔と変わらぬ顔ぶれにアドラは気安く話しかける。


「いちおう念を押しておくけど、おれが魔王軍に入ったことはじいさんには黙っておいてね」

「いえるわけがありません。家臣もろとも皆殺しにされてしまいます。私自身あなたの行動を決して好意的に見ているわけではございません」


 ルウィードたちの視線はどこか冷たい。

 生まれ故郷でもこんな扱いか。

 アドラは少しだけ肩を落とす。


「いやでもこれはしょうがないじゃない。時代の流れってやつだよ。肩書きを見ればわかる通り厚遇されてるから。決してシュメイトクが舐められてるわけじゃないから」


 口にして初めて自分がコネで四天王になったのだと気づく。

 じいさんには感謝するべきかそれとも恨むべきか。

 判断が難しいところだ。


「果たしてそうでしょうか。魔王軍は現在シュメイトクを潰す気だというのに」

「それはみんなが反抗的な態度ばっかりとってるからだよ。やめようよそういうの」

「我ら降伏はすれど狗に非ず。礼を失する者には相応の態度で応じるのみです」


 ダメだこりゃ。

 事前に情報を伝えておいたにも関わらずこの有様。アドラは天を仰ぐ。


 誇り高きシュメイトクの民には申し訳ないが、すでに立場は対等ではないのだ。

 長いものには巻かれる必要があるということをこれから教え込む必要がある。


 独りで来て本当に良かった。

 間違ってもこんな現場を他の四天王には見せられない。


「はぁ……父さんがいたら話が早かったんだけどなぁ」

「トマル様はまだ地獄から還ってきておりません」

「だよねぇ。あれは1000年かそこらでどうにかなる問題じゃない」


 祖父は隠居。父は出張。いない肉親を頼ってもしかたない。

 今は子である自分が何とかするしかない。


 アドラは自作の応接マニュアルを配って熟読するよう厳命する。

 炎滅帝の孫という肩書きは未だ有効で家臣たちは渋々ながらも従ってくれた。

 縁を切ったと口にしたばかりで家の権威をふりかざすのはいささか気が引けたが、国家存亡の危機故手段を選んでなどいられない。


「魔王軍への配慮はひとまずこれで良しとして、何を置いても反乱軍との癒着の疑いを晴らすのが先決だ。もちろん濡れ衣だよね?」


 沈黙。

 決して長くはないが息が詰まりそうな時間。

 アドラの額に脂汗がにじむ。

 心臓に悪いから黙り込むのはやめて。


「国家としては反乱軍に与してはおりません」


 ルウィードのその言葉を聞いてアドラはようやく息を吐く。

 冤罪で本当に良かった。

 最悪もみ消しまで考えていたがどうやら犯罪行為に手を染めなくて済みそうだ。


「ただ、都内のとある団体が反乱軍を支援しているという情報を掴んでおります」

「そのぐらいならいいよ。その団体を検挙して上に報告すれば解決さ」

「それが、その……団体のリーダーが、フォメット殿である可能性が濃厚でして……」

「はあああああああああああああああっ!?」


 何やってんだよフォメくん!

 かつての幼なじみの名を聞いてアドラは吃驚仰天して立ち上がる。

 久々の正座で足が痺れて倒れたが気にしている暇はない。

 どうやら適当に調書をまとめてハイ帰国というわけにはいかないようだ。


 ああ――ストレスで胃が痛くなってきた。

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