死闘の果てに
二人の勝負が始まっていったいどれだけの時間が経っただろうか。
頭上にあった太陽が次第に傾き始めている。
両者共に死力を尽くした。
――決着の時間だ。
「嘘だろ……」
最初こそ呑気に観戦していたアドラだったが今ではその余裕が完全に失われていた。
勝負は終始ガイアスが優勢。華麗なる魔術の数々でヴァイスをいっさい近寄らせず四方八方から攻撃を加え続ける。
一方ヴァイスは防戦に徹することしかできない。
それでも守りきれずに強力な魔術をまともに受け続けていた。
さしものウロボロス種も限界が近づいている。
――近づいていなければおかしいッ!
「勇敢なる人狼の戦士よ」「度重なる非礼を今ここで詫びよう」
魔術を酷使し息も絶え絶えといった様子のガイアス。
だがヴァイスは――アドラの眼にはどうしても無傷にしか見えないのだ!
「オレをここまで追いつめたのは貴様がはじめてだ」「敬意を表し、せめて苦しまずに葬ろう」
アドラは見た。
陽光を浴びて威風堂々と佇むヴァイス。
その背後に∞を描く神々しい魔力を。
「か……か……勝てるわけがない……っ!!」
その伝説に嘘偽りなし。
無限大の魔力。無限大の再生力。
不死不滅の至高神の守護者。
キュリオテスを束ねる最強の天使。
魔王だろうと聖王だろうとすべてが矮小。その威光にただひれ伏すしかない。
「おれたちは井の中の蛙にすぎなかった……」
圧倒的な力を目の当たりにして絶望するアドラ。
しかし闘う当の本人はなぜか不敵に笑う。
「キュリオテス現最強のウロボロス種――期待はしてたが少々ガッカリな相手だ」
外傷こそ少ないが魔力は枯渇寸前。満身創痍といっていい状態だ。
それでもガイアスの瞳から光が消えることはない。
「ヴァイス……おまえさ、魔術を使わないんじゃなくて使えないんだな」
「気でも狂れたか」「神より賜りしこの大いなる魔力が瞳に映らぬか」
「そう、その大いなる魔力とやらを、おまえはなぜか自己再生にしか使わない。最初は不思議に思ったが、今ようやく理解したぜ」
ガイアスは犬歯を剥き出しにして壮絶に嘲笑った。
「てめえはビビッてんのさぁ! 魔力を攻撃に回して再生が遅れることをなぁ! この腰抜けめ、そんなに死ぬのが怖いならお家から出てくんなよなぁ――――ッ!!!」
ヴァイスの長大な肢体がうねりをあげて襲いかかる。
疲弊して動きが鈍ったガイアスはあっさり巻き付かれて全身を拘束されてしまう。
「その侮辱、決して赦すまじ」「このまま締め付けてバラバラにしてやる」
「臆病者のくせに挑発に乗って簡単に罠にはまる。ますます度し難い」
怒り狂うヴァイス。その身体に力が入る。
だがガイアスはその瞬間を待っていたのだ。
ガイアスが残された魔力を解放するとヴァイスの身体が横倒れになる。
――重力魔術。
ガイアスを中心に発生した重力波がヴァイスの全身にのしかかったのだ。
短時間だが彼らにかかったGは軽く十倍以上。ヴァイスの身体が大きければ大きいほど、重ければ重いほど有効な拘束手段になる。
「この程度で!」「オレを止められると思うな!」
ヴァイスが重力波から逃れようとするが拘束したガイアスが邪魔で上手くいかない。
事ここにいたりようやくヴァイスは拘束されたのが自分のほうだと理解する。
「おっと逃がさねえぜ」
ガイアスは横倒しになったヴァイスの二つの首にダイヤモンドの枷をはめる。
枷は大地に深々と根付き、ヴァイスをさながら昆虫の標本のように磔にした。
「覚悟はいいか。さあ処刑の時間だ」
準備は整った。ガイアスは満を持して魔力を蒼穹へと解き放つ。
顕現せしは二枚の真空の刃。
不逞な神の使徒を断罪する悪のギロチンだ。
落とされた白刃はウロボロスの象徴である二つの首を同時に切り落とした。
「ずっと考えていた。なんでてめえは頭が二つもあるのかってな」
ガイアスは力を失ったヴァイスの身体を爪で切り刻んで拘束を解くと、ポトリと地面に落ちた頭をひとつ蹴り飛ばす。
「尻尾のほうにある副頭は安全装置。さしものてめえも命令を出す頭がなけりゃ魔術を行使できないってことだ。だからてめえの攻略法は二つある頭を同時に潰すこと。どうやら正解のようだな」
「き、き、き、貴様ぁ~~~~~っ!!!」
「つまりだ、魔力を再生にしか回せんてめえは、俺の敵じゃねえってことだ」
戦闘力を失いなお敵愾心を無くさぬヴァイスのもう一方の頭を、ガイアスは思い切り蹴り飛ばした。
「安心しな、殺しゃしねえよ。回復したらせいぜい精進するこった」
ヴァイスの気絶を確認したガイアスは人間体へと戻る。
鮮やかすぎる逆転劇。アドラは興奮のあまりらしくもなく吼えた。
「ガイアスさん……やっぱりあなたは魔界最強――いや、世界最強の魔族だッ!!」
「ケッ! こっちは逆にちぃっとばかし思い知っちまったんだけどな」
なぜか不機嫌そうにしながらガイアスはコロシアムを去っていった。
その大きな背中が今のアドラにはとてつもなく誇らしかった。




