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リベンジマッチ

 ヴァイスが正体を現すと会場は阿鼻叫喚に包まれた。

 すぐさま聖騎士が動員されアドラのいるリングを囲う。

 勇者の国で魔族の本性を現せば当然だ。ここで退場してくれるならこちらとしても楽でいいのだが……。


「おいおいおい! ソロネは古国のくせに礼儀のひとつも知らないのかい。オレは正式な手続きで来訪した国賓だぞ? 嘘だと思うなら上役にお伺いを立ててみろよ」


 ヴァイスの言葉に騎士たちは困惑するが構えた剣は降ろさない。

 魔族の言葉を鵜呑みにするわけにはいかないから当然だ。

 たとえウロボロスといえどこの数の聖剣に斬られては無事では済まないだろう。

 嘘をついて急場を凌ごうとしている可能性だって十分にある。

 そのわりにはあっさりと正体を見せたわけだが……。


「彼の参加は私が許可した」


 混乱する場内を収めるべく上役が貴賓席から慌てて降りてくる。

 見知ったその顔にアドラは少し顔を強ばらせる。


 ニ対の聖剣を供にした優雅にして可憐なる戦乙女バルキリー――聖王エリだ。


 完全無欠のその美貌は荒れた会場を一瞬で鎮静させる。

 すべては国民の聖王に対する信頼故だ。


「すまないヴァイス殿。どうやら末端まで連絡が行き届いていなかったようだ」

「今すぐアンタから説明してくれよ」「このオレの素性をさ」

「そうだな。我が愛する国民を安心させてやらないといけないことだしな」


 エリは客席に向き直ると鈴のような音色を響かせる。


「彼の名はヴァイス・ピエール・ロードランス。キュリオテスの第八王子だ」


 お――王子ぃ!?


 アドラは吃驚仰天して思わずヴァイスをマジマジと見てしまう。

 よく見れば頭に彫った槍持つ天使のタトゥーはキュリオテスの紋章ではないか。

 しかしこんな柄の悪い王子がいるか?


「何を驚くことがある」「我が国は強者こそが正義」「強者が弱者を統べる」「至極当然の話よ」


 他国のように細やかな法は一切なし。それどころか町や都市すらない。

 強者が絶対、力こそがすべてという修羅の国キュリオテス。

 噂には聞いていたが王が魔族だろうとお構いなしなのか。

 どうやら想像以上のブチギレ国家らしい。


「今回は国家を代表して私に挑戦してくれるそうだ」

「世界最強は我らキュリオテスの民」「その事実をソロネの民の前で証明しよう」

「――とのことだ。実に光栄な話じゃないか!」


 そういってエリは高らかに笑った。

 笑い事じゃねえだろ。


「そんな彼らの心意気に応え『敗北』というささやかな贈り物を渡すべく我が国へご招待した。ぜひとも受け取ってもらいたい。もちろん勝ち残ればの話だがね」


 エリはアドラを一瞥してから微笑んだ。


「では試合再開だ。何かあれば我ら聖騎士団が迅速に対処するので心配御無用。ヴァイス殿も私と彼以外にはほどほどに頼みたい」

「これでも王族」「礼節はわきまえているつもりだ」「ただし約束は忘れるな」「オレが優勝した暁にはその場でオレと闘え」

「二言はない。勝ち残り私の前に立つことを楽しみにしているぞ。では失礼する」


 いいたいことをいい終えるとエリは踵を返して貴賓席へと戻っていった。


 混乱していた客席はエリの言葉ですっかり元通りだ。

 国民の聖王への信頼は絶対的だった。自分が同じように説明してもこうはならない。

 あわよくば不戦勝をと思ったアドラだがそうは問屋が降ろさないようだ。


「では再開だ」「つまらんケチが入って悪かったな」


 ヴァイスの殺気混じりの視線が再びアドラに注がれる。

 しかしいつものように蛇ににらまれた蛙のようにはならない。

 その顔にはどこか余裕すらあった。


 相手は伝説の魔蛇――いや聖蛇か。その実力は魔王級か、あるいはそれ以上だろう。

 それでもアドラが臆さないのは秘密兵器を持っているから。

 彼の手には天才魔導師オルガンの造った最強の魔剣アンサラーが……。


 魔剣アンサラーが…………。


 アンサラーが………………。



 ――アンサラーがないッ!!!



 予選は武具の使用が禁止なので当たり前の話である。

 誰かに盗られないようアンサラーはオルガンに預けてあるのだ。


「すすすすすいませんヴァイスさん、すすすすすす少し手心を加えていただけませんでしょうかかかかかかかっ!」

「アンタもたぶん最上位魔族だろう」「ならば殺すつもりで闘って構うまい」


 相手は修羅の国からやってきた戦闘馬鹿。話が通じるはずもない。

 だったら審判に直訴するしかあるまい。

 アドラは六番リングにいるチョビ髭親父に向かって大声を張り上げる。


「ジャッジィィィ! 武器の使用を許可してくださいよぉぉぉっ! こんな化け物、素手じゃ絶対無理ですよぉ!! 武器持って初めて対等でしょぉぉぉっ!!!」

「ルールはルールですから。あと私審判じゃないんでいわれても困ります」


 だったらあのモノローグはなんじゃい!

 思わせぶりなことすんじゃねえよ!


 キレたところで状況は変わらない。

 ヴァイスは血のように赤い舌をちろちろと出して舐め回すようにアドラの品定めをしていた。


「ヤツの魔力の性質がわからない」「やはり底が知れないな」「だが臆していても始まるまい」「先手必勝だ」

「いや何独りで勝手に話進めてるんですか! もう少し冷静に話し合いましょうよ!」


 必死の説得もむなしくヴァイスの尾がアドラに振り下ろされた。

 尾についた蛇頭がアドラを丸飲みにしようと襲いかかる。

 とっさのことでかわしきれない!


 ――万事休す!


 観念したアドラを、しかしすんでのところで助ける者がいた。

 蛇頭がアドラを喰らう直前に彼を抱き抱えて脱出する。


「大丈夫かアドラ」

「ガイアスさん!」


 アドラを助けたのは客席にいたはずのガイアスだった。

 先ほどの聖王の説明中にちゃっかりリングインしていたらしい。


「でもいいんですか? ガイアスさん、大会にエントリーしてないですよね」

「審判に確認した。飛び入り参加OKだとよ。本当は静観するつもりだったがアレを見せられたら黙ってはいられんな」


 ガイアスはアドラを降ろすとヴァイスを激しくにらみつける。


「ようウロボロス種。てめえの面は初めて見るが、てめえの先祖にゃあずいぶんと世話になった」

「誰だ貴様」「邪魔をするな塵芥が」

「そう邪険にすんなよ。すぐに思い出させてやるからちょっと待ってろ」


 魔力解放――ガイアスは人の姿を捨てて瞬く間に魔狼へと変化する。


 その姿を見たヴァイスは鼻で笑う。


「人狼族の雑種か」「魔界に逃げた臆病者」「失せろ下郎」「貴様に興味はない」


 少ないやりとりだけでアドラは二人の関係を理解した。

 キュリオテスでの生存競争に負け魔界へと逃げ延び、最強の種族となって返り咲くと誓った人狼族。その末裔にして長がガイアスだ。


 そして眼前に立ち塞がりしはキュリオテスの頂点――最強の種ウロボロス。


 これは復讐だ。

 悠久の刻を越えたリベンジマッチだ。

 先祖の、そしてガイアスの悲願を果たす絶好の機会が、ついにやって来たのだ。


「邪魔するなよアドラ、こいつは俺の獲物だ」

「はい師匠! 存分に闘ってください!」

「……変な呼び方をするな」

「事実なので!」


 師の悲願は弟子の悲願。邪魔立てするつもりは毛頭ない。

 アドラはガイアスの勝利を心より信じる。


 敵は最上位魔族。だが四天王最強の男、ガイアス・ヴェインが負けるはずがない。

 敗者の汚名を濯ぐべく研ぎ続けた牙は誰よりも鋭いはずだから。

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