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武闘大会予選開始

「さあみなさんお待ちかね、第一三〇回ソロネ武闘大会の時間がやってまいりました」

「誰ですあなた?」

「なんと今回は前代未聞のバトルロイヤル形式! 闘技場に集まったファイターたちもいささか困惑気味です」

「少しどころじゃなく困惑してますよ。大事なことは事前に伝えておいてください。一三〇回もやってて何ですかこの手際の悪さ」

「しかも今年からなんと飛び入り参加も可能! 未知の強豪がどこからともなく現れるやもしれませんね!」

「おいぃっ! だったら何のためのエントリーだよッ! 並んだ時間返せ!!」

「だがそんなことで気後れする彼らではありません。なぜなら彼らはどんな過酷な状況下でも闘い抜く実力ちからと勇気を兼ね備えた真の勇者だからですッ!!」

「いやそういう問題じゃないから。大会運営仕事しろよ」

「ではそろそろ始めましょう……ヒーローファイト、レディゴーッ!!!」

「だから誰だよあんたっ!!」


 隣のリングで眼帯をつけたチョビ髭親父が両腕を高々と突き上げるのと同時に、試合開始を伝える鐘の音が鳴り響いた。

 おそらく審判なのだろうが……無駄に熱い独り語りには、さすがのアドラもツッコミを入れざるをえない。


「……」


 アドラは当惑しながら周囲の様子を伺う。

 いきなりリングにすし詰めにされてさあ闘えといわれて心構えが出来ているはずもない。積極的に相手に襲いかかれるほど好戦的でもない。


 他の選手たちもアドラと同様に困惑している模様だ。

 然もありなん。


「……なあ、どうする?」

「闘るしかないだろ。お客さんも観てることだしな」


 しばらくすると観客の目を気にした選手たちがボツボツと闘いを始めた。

 クソみたいな運営でもどうにか大会を盛り上げようとがんばる彼らは立派だとアドラ感心する。


「おれはやんないけどね……」


 こんな試合に積極的につきあう義理はない。せいぜい盛り下がって反省すればいい。

 アドラは正方形のリングの右隅に立って静観を決め込むことにした。


 敗北条件がリングアウトオンリーなのだからここが一番の危険地帯。

 逆にいえば好き好んでここに来たがる者もいないということ。

 選手たちは中央に密集するのだから見方を変えれば一番安全な場所といえる。


 それにここからならリング全体の様子が把握できる。

 杜撰な運営は当然選手の安全考慮も杜撰。

 いちおう武具の使用は禁止ということになっているがそれ以外は使いたい放題なのだから毎年死者が絶えない。

 だがアドラは自分が参戦する戦場で死者を出すつもりはない。

 ここで戦況を監視して危ないと判断したら審判より先に止めに入るつもりだ。

 バトルロイヤル形式の唯一の利点といえる。


「兄ちゃん、そんな端っこにいたら落っこちちまうぜ」


 そしてこれも当然の話だが――静観を決め込むアドラを快く思わず、ちょっかいをかけてくる者がいた。


「中央に来てオレと闘ろうぜ。アンタ強いんだろ?」


 禿頭で筋骨隆々の大男だった。

 頭部には大きなタトゥーが入っている。

 あまりお近づきになりたくない職業の人だろう。

 できれば一刻もはやく帰って欲しい。ていうか帰りたい。


「ご覧の通りのもやしっ子です。弱いから端っこに逃げ込んでるんです。強い方をお求めなら他を当たってください」

「それはない。控え室にいたときからアンタの底知れぬ強さはひしひしと感じていた。変な結界を張ってるせいでわかりにくいがオレの眼は誤魔化せない」


 アドラは少しだけぎょっとした。

 こうも易々と結界の存在を見抜かれると結界を張ってる事自体にリスクがあるのかもしれない。


「買いかぶりですよ。先日も大敗を喫したばかりですしね」

「誰に?」

「……誰でもいいじゃないですか」

「なるほど。いえば素性がバレるほどの大物ってことか」


 ――意外と頭がキレるなこの人。


 どうやらこの男を相手にしらばっくれるのは限度があるようだ。

 いずれは闘わなくてはならない相手だろうが、こちらにもレスキューの仕事がある。できればもう少し後回しにしたい。


「わかりました闘りましょう。ただもう少し脱落者が増えるまで待ってください。あなただってもっと広々とした場所で決着をつけたいでしょう?」

「それもそうだな。じゃあちょっくら掃除してくるわ」


 禿頭の男は気さくに笑ってリング中央に戻っていった。

 どうにか一触即発だけは凌いだ。アドラは嘆息する。


 しかし安心するのもつかの間――次の瞬間、リング中央で闘っていた戦士たちがまるで木の葉のように吹き飛んでいた。


「これでリングが空いたぞ」「さあ闘おうじゃないか」


 暴風が渦巻き砂埃が舞う。まるで竜巻だ。

 視界が開けるとアドラは目を丸くして驚いた。


 だだっ広いリングが狭く見えるほどの巨躯を誇る大蛇がそこにいた。


 ――蛇人だ。しかもただの蛇人じゃない。


「この程度で驚くなよ」「アンタも本性隠してんだろ?」


 その蛇は尾にも頭がついていた。

 先ほどから二つある頭で同時に話しかけてくる。

 アドラは彼の正体を知っている。


「オレは強いヤツと闘りに来た」「アンタみたいな強者と出会えて嬉しいぜ」


 双頭の大蛇――ウロボロス種。


 魔界の伝説に謳われる最上位魔族だ。

 地上に棲息していたのか。


「オレの名はヴァイス」「アンタの名を聞かせてもらえるか」

「アドラ・メノスです。よろしくお願いします、伝説の蛇さん」

「知っててその余裕か」「アンタが負けたっていう相手の名も知りたいな」


 大蛇は二つある頭をもたげて大笑いする。

 彼らが笑っただけで空気が震え耳鳴りが起きた。


 負けた相手が知りたい――か。


 ――だったら、教えてあげるよ。


聖王エリはおれの獲物なんで……悪いですが、ここで退場していただけませんか」

「なるほど目的は一緒か」「ならば手加減は無用だな」


 ヴァイスの大影がアドラを包みこむ。

 最上位魔族の凄まじい圧力が全身に襲いかかる。


 だがこんなところで怖じけてはいられない。

 これはただの前哨戦にすぎない。

 この程度の相手に勝てずして天下の聖王は討てないのだから。

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