アーチレギナ
メテアクテを出立したアドラたちは公道を使い北上しトーレイへとたどり着いた。
トーレイは海外との交易により収入を得る港町。
ミクネアとアーチレギナを繋ぐオーガスタロードはこの町と交易するために生まれたといっても過言ではない。
他国からは『ソロネの玄関』などと呼ばれている。
その人口はメテアクテの四倍以上。メテアクテのようなド田舎とはわけが違う。
ここから先は出来る限り目立たずに行動する必要がある。
旅の泉は思いのほかあっさりと利用できた。
オーガスタロードを使うまでもない小規模の荷物を運ぶための商用移動手段。
手続きも簡単だし通行料も決して安くはないが手が届かないほどでもない。
行き交う商人の数も多かったので注目されるようなこともなかった。
こうしてアドラたちは何の苦労もなくソロネの首都アーチレギナの関所までたどり着くことができた。
ただ――ここから先は多少の不都合があった。
関所では当然ながら手形と交通税を要求されるのだが、手形のほうで門番とトラブルがあったのだ。
「ちょっと待て、おまえたちエクスシア出身なのか」
ソロネは排他的な国家。
港町付近の田舎はともかく首都ともなると他国の人間に対する風当たりは強い。
とはいえ現在は武闘大会のエントリー期間中。
全国から猛者を集めているのだから怪しまれる理由はないはずなのだが……。
「間者かもしれん。これは入念に身体検査しないといけないなぁ」
門番の瞳が好色に染まる。
オルガンの美貌に目がくらんで性的な悪戯をしようとしたのだ。
「はいそこまで」
鼻息を荒くして手を伸ばす門番の目の前でオルガンは指をパチンと鳴らす。
結局門番すべてを魅了洗脳してから関所を抜けることになった。
後で深刻な問題が発生するんじゃないかと気が気でならない。
関所を抜けて山道を進むと今度は物盗りだ。
アーチレギナは四方を囲んだ山脈を天然の城壁とする都市だが、そこにはさも当然のように山賊が巣くっていて、金目のモノを狙って襲ってくるのだ。
このトラブルにはガイアスが丁重に対応してくれた。
「首都圏内とはいえソロネの治安はこんなものか」
ガイアスは嘆息すると襲いかかってきた山賊たちをあっという間に叩きのめした。
目立つのは嫌なので殺してはいない。
相変わらずの強さにアドラは拍手喝采する。
同伴していたキャラバンの商人たちに感謝されるが、キャラバンを隠れ蓑に利用しているのだからむしろこっちが感謝したいぐらいだ。
謝礼の話も出たがもちろん固辞した。あまり英雄扱いはされたくはない。
適当にはぐらかしてから仲良く一緒に下山する。
――そして現在。
アドラたちはソロネの首都アーチレギナに居た。
「……すごい」
アドラは驚きで目を丸くした。
文明レベル的には確かにサタナキアの首都キョウエンには劣るのかもしれない。
だが市内に渦巻くその熱は決して負けてはいない。
町並みも、行き交う人々も、魔界と何も変わりはしない。
人間たちがこの世界で一生懸命に生きている。
「やっぱりおれたちは戦ってはいけないんだ」
同じだ。人間も魔族も。
だったらわかり合えるはずだ。
いや、わかり合わなければならない。
アーチレギナの熱に当てられアドラの使命感はいっそう強く燃え上がっていた。




