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買収

「ルージィ、こいつがルガウ王って……」

「すまないマオリ義兄にいさん。少し外してくれないか」


 ルージィがマオリを下がらせる。

 それを見たアドラもサーニャに席を外させた。

 バーのカウンターで二人の男が静かに酒を酌み交わす。

 もっともアドラの方は呑んだフリなのだが。


「……どうしておれが酒場ここに来るってわかったんですか?」


 最初に口を開いたのはアドラだった。

 ルージィはレジスタンスのリーダー格。訊きたいことは山ほどある。


「雇った暗殺者からの連絡が途絶えたから用心していただけです。まさか本人が直接乗り込んで来るとは思わなかったですが」

「逃げようとは思わなかったんですか?」

「私が死んだところで代わりはいくらでもいますから。私もまだまだガキンチョでね、我が身の安全より好奇心が勝ってしまいました」


 アドラはルージィの言葉を鵜呑みにはしない。

 酒をぶっかけられても怒らなかったのを見て対話の余地ありと判断したのだろう。

 マオリが喧嘩を売るように仕向けた可能性すらある。

 おそらく無関係であろう兄を利用するとはなかなか食えない人物のようだ。


「あなたが暗殺の主犯ということでいいんですか?」

「私は暗殺者の仲介をしただけですが、それでも構いませんよ」

「白状した以上、覚悟はあると思っていいんですよね」

「勿論。だが私ごときを処刑するのにわざわざ王御自ら出向くだろうか」


 ――だから、私に何か用事でもあるのでは? と。


 ルージィは先ほどの質問を繰り返した。

 相手の思考を推察しすべてを見透かしたようにしゃべる。

 大物ではあるが個人的にはあまり好きになれない。


「単刀直入にいうと、あなたにおれの味方になってもらいたい」


 こういう手合いと腹のさぐり合いをしても負けるだけ。

 アドラはさっさと用件を伝えることにした。


「おれはこのルガウ島を人間と魔族が手を取り合って生きていける楽園にしたい」

「それはまた無理難題を。島民は魔族を決して赦しませんよ」

「もちろん今すぐというわけじゃない。少しずつ関係を良くしていずれは……そのためにはこの辺りの顔役であるあなたの助力が必要だ」

「買いかぶりすぎですよ。他を当たったほうがよろしいのでは?」


 アドラはコートから金の入った封筒を取り出しルージィの前に差し出した。


「悪い王様だ」

「おれのポケットマネーですよ。国庫にはいっさい手をつけていません」


 借金返済用に貯めていた給料なのだが背に腹は代えられない。

 アドラとて理念だけですべてがどうにかなるとは思っていない。

 金で転ぶような相手は金で解決するのが一番楽だ。


「……わかりました。他ならぬ王の頼み、やれるだけのことはやってみましょう」


 ルージィは封筒を懐に入れると連絡先を書き置きして去っていった。



                   ※



「上手くいきましたデスねー」

「さあ、それはどうだろう」


 酒場から出たアドラはサーニャに自身の疑念を伝える。


「いくらなんでも聞き分けが良すぎる。彼も島民なのにまるで他人事だ」

「人間なんてそんなもんデスよー。暗殺者だってそうだったじゃないデスか」


 暗殺者は金で雇われただけだから口では何といおうと金で転ぶのはわかる。

 だがルージィは違う。

 彼は島民の代表として金を預かり暗殺者の仲介を任されるだけの信頼を得ている。

 そこがどうしても引っかかる。


「どうしたんですか。人を疑うなんてアドラ様らしくないデスよ」

「そーだね! 君たちの教育の賜物だね!」


 魔王軍に入ってからすっかり柄が悪くなってしまった。

 自己嫌悪に陥ったアドラは道ばたの小石を蹴っ飛ばす。

 実に気分が悪い。

 こういう時は酒を呑んで発散するのが一番らしい。


 ……今度試しに買ってみるか。

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