招かれざる客
招かれざる客は突然、何のアポイントもなしに司令室に押し掛けてきた。
アドラの眼前にルーファス以上の大男が仁王立ちしている。
岩のように厳つい顔つき。
触れれば刺さりそうなボサボサの剛毛頭。
身の丈の半分ほどの長さの大剣を背負っている。
全身至る所に刻みつく傷が歴戦の勇者であることを物語っていた。
魔族の名はガイアス。
人狼族の長にして四天王が一人。
「着任早々、俺の仕事を蹴っ飛ばすとはいい度胸してんじゃねえか」
ガイアスはにんまり笑うと大きな掌で、出迎えたアドラの頭をむんずと掴む。
「この落とし前、当然つけてくれるんだよな?」
シュメイトク殲滅はもともとガイアスを長とする第二司令部の管轄。
ガイアス自らが指揮を執ることもすでに決定していた。
第一にはただの形式として申請が来ただけであり、それを却下したアドラは第二司令であるガイアスのメンツを潰した事になる。
アドラは半泣きになりながら、そのような意図は決してないと必死に弁明する。
「本来なら八つ裂きにしてやるところだが、今日のところは魔王の顔を立ててやる」
ガイアスがアドラの頭から手を離す。
頭蓋骨を潰されるかと思った。
難事を乗り越えたアドラはホッと胸をなで下ろした。
「では今すぐ作戦の許可を出してくれ」
「あ、それは無理です」
次の瞬間、叩きつけられた拳が事務机を粉々に粉砕した。
怒って暴れだすガイアスを懸命になだめながら、世の中には法律というものがあって証拠もないのに罰してはいけないのだと諭す。
「何だかよくわからんがわかった。要するにちゃんと調べてから潰せばいいんだな?」
ガイアスはアドラの想像以上に脳筋だった。
魔界征服最大の功労者であるにも関わらず四天王のトップに君臨していない理由を痛感する。
おそらく例の書類もろくに目を通さずに即決したのだろう。
「気に食わん。気に食わんが……ろくに説明もせずに、いつもこっちを小馬鹿にするような態度をとってたネウロイよりかはいくらかマシか」
では、さっさと調べてさっさと許可を出してくれ。
最後にそう告げてガイアスは肩を怒らせながら司令室を去っていった。
部屋が狭ければ室内の家具がめちゃくちゃになっていただろう。無駄に広いわけではないことを悟り先人の苦労を察する。
粉々になった机を前にして、ふと自分の行動に疑問を感じたアドラはゲルダに訊く。
「もしかしておれ、何かおかしなことしてます?」
「いえ、いたってマトモかと存じ上げます」
秘書のお墨付きをもらい安堵するアドラ。
そんなアドラを見てゲルダはもう一言つけくわえた。
「ただ、正常な者では、四天王を務めあげるのはいささか厳しいかと。今後も続ける気であればこういった非常識にお慣れください」
アドラは笑うしかなかった。
常識人が魔界征服などというだいそれた所行など為せるはずもなし。
奇人変人狂人揃いの魔王軍の中に放り込まれ小市民アドラはただ震えるばかり。
だがすでに賽は投げられた。後戻りはできない。
渡る世間は鬼ばかり。
後悔先に立たず。