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独りでは勝てない!

 地上征服の準備はアドラの想像よりはるかに早く整った。

 魔界全土から雲霞のごとく集まった兵士たちがルーファスの許に馳せ参じ、魔王軍の傘下に加わっていく。

 編成や補給線確保も大きなトラブルなくあっという間に終わった。

 進軍可能な状態になるまで一ヶ月も経過していない。


 それは異常な光景だった。


 確かに魔王軍は魔界統一を果たした。

 だがそれは魔王軍の強さに恐れをなしたからであって決して人徳からではない。

 徴兵などしようものなら渋るところがいくらでも出てくるはずだ。

 兵を賄う糧食についても確保が早すぎる。

 周囲がこんなに協力的なのはどう考えてもおかしい。

 最低でも一年か二年はかかると思っていたのに。


「……なぜ?」


 アドラは自らの疑問をオルガンにぶつけた。

 彼はここのところ第三指令部に入り浸っていた。

 現時点で頼れる魔族が彼女しかいなかったからだ。


「なぁ~んでだと思う?」


 オルガンは得意げに鼻を鳴らす。

 ここのところアドラがよく来てくれるので機嫌がいいのだ。


「正解はみんなが馬鹿ばっかりだからでぇす」


 アドラが小首を傾げる。

 オルガンは自慢げに説明を始めた。


「ルーファス様は今回、地上での略奪行為を許可してるからね。土地や資源欲しさにみんなこぞって集まってきてるわけよぉ」

「馬鹿な、それで何度返り討ちにあってると思ってるんですか!」

「だから馬鹿なのよ。喉元すぎれば何とやら、何度やられても傷が癒えてくるとまた侵略したくなってくるの。それだけ地上が魅力的っていうのもあるけどねぇ」

「資源なんて侵略しなくても手に入ります。おれにはよくわからない感覚です」

「アドラちゃんも一度地上に出てみればわかるわよ。連中が馬鹿になる理由が」


 炎滅帝ヴェルバーゼもすべてわかったうえで地上に侵攻して、案の定大敗北を喫した。

 侵攻前は自分なら楽勝だと息巻いていたが侵攻後はすっかり老け込んでご隠居だ。


 それが魔王軍台頭の理由のひとつなのだが――なぜまた同じようなことをする?


 自分たちもヴェルバーゼの二の舞になるとは考えないのか。

 馬鹿だからの一言では片づけたくはない。



 ――やはり地上にそれほどの魅力があるということか。



 一度この目で確かめなければならない。

 アドラは地上への進出を真剣に検討し始めていた。


「オルガンさんはこの侵攻、勝ち目があると思っていますか?」

「あるわけないじゃない。バァカじゃないのぉ」


 ですよねぇ。

 オルガンはやはり聡明でアドラは嬉しく思う。


「専門家の話だと地上の面積は約510,100,000 km²。魔界の軽く100倍以上。単純計算で100倍以上の国力を持つことになるわね。これって大人と子供どころの騒ぎじゃないわよ。正気だったらまずやんない」

「その通りです! だったら一緒にルーファス様に直訴しましょうよ!」

「とっくにしてるしあなただってしてるでしょう。無駄無駄、あの爺は侵略しないと死んじゃう侵略キ○ガイなんだから。無駄なことは諦めましょう」

「でもそれじゃあ、おれたちあえなく全滅ですよ」

「あたしはその辺は上手くやれる自信はあるわ。世界征服は論外だけど地上にいくらかの領土は欲しいしね。まあそういう考え方自体がちょいヤバかもしんないけど」


 アドラは口を手で覆って考える。

 この様子だとオルガンに過度の期待をするのは酷だ。

 計画に巻き込むのは忍びない。


 やはり独りで……いや、自分だけでは魔王には絶対に敵わない。


 仲間は絶対に必要だ。


「ところでオルガンさん、なんで地上に領土なんて欲しいんですか?」

「バカンス用」


 実にオルガンらしい答えだった。

 アドラは思わず苦笑した。


 ――さあ、どうするアドラ。最善手を考えろ。


 いうまでもなくアドラは強い。

 その魔力は比類なく、紛れもなく世界最強。

 だがどれだけ強かろうと独りでは何もできない。何も為せない。


 メノス家を出奔して以来決して頼ることのなかった『群れの力』の行使。

 アドラが試されているのは今まさにそれであった。

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