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真夜中のデート①

 アスタリオの自決による反乱軍の敗北は魔界全土に大きな衝撃を与えた。

 すでに大勢は決していたとはいえ反乱軍の存在は魔王軍に反抗的だった地域にとって大きな希望だったからだ。


 各地の暴動は鳴りを潜め、各国は続々と魔王軍への恭順を示す。

 これを好機と見たルーファスは魔界全土に天下統一を宣言した。

 それにより旧王家の王位はすべて剥奪。

 ルーファスを唯一の王とする独裁体制が築かれることになる。


 だがルーファスは自らが頂点に立つことはしなかった。

 あくまでレイワール皇家の臣下であり、魔界の監査役であるという立場を徹底した。

 魔王への即位もアドラを通じてレイワール皇家より頂戴する形を取った。



                   ※



 地獄皇アルザーク・レイワール及び閻魔イザベル・レイワールの御前にて粛々と行われる即位の儀。

 その厳かな光景をアドラは複雑な心境で見守っていた。


 これでよかったんだ――とは思っている。


 ルーファスはレイワール家を尊重してくれている。

 きちんと段取りを踏んで正式に魔王に即位してくれている。

 それだけでも他の王家とは違う。たとえ建前でもありがたい話だ。

 大量にいた自称魔王も消え去りつまらない紛争もなくなるだろう。

 長らく混沌としていた魔界に新たな秩序が生まれる。

 魔王の監査の下サタンの驚異に備える本来あるべき魔界へと戻る。

 これ以上のことは望むべくもない。


 だがアドラの不安はどうしても消えない。

 ハッキリとどこがダメとはいえないのだが、どうにも嫌な予感がするのだ。

 それは母イザベルも同じようで、


「アレが新しい魔王ねぇ。いや別に誰が魔王でもいいっちゃいいんだけど、アレはなんか面構えが憎たらしいというか、気に入らないのよなぁ」


 閻魔とは思えぬざっくばらんな物言いで不安視していた。

 イザベルの勘は3割2分4厘で当たるらしい。野球なら結構な大打者だが……。


「……考えすぎかな」


 杞憂であるという結論に達したアドラは魔王軍と共にサタニスタへと帰還した。


 ルーファスが正式に魔王になった今、逆らえる者は誰もいない。

 そうなれば今の仕事にも余裕ができて洋服を作る時間も取れるはずだ。

 現実はそこまで甘くはないかもしれないがとにかく平和は訪れた。


 アドラは誰かに感謝したい気分になったがルーファス本人にいうのは違う気がした。

 理由はどうあれルーファスがカラクリテンの民を虐殺したのは事実であり、彼に感謝するというのは大義のために民を犠牲にすることを是とすることになる。


 では誰に感謝するかといえば、それはもう一人しかいないだろう。

 アドラはキョウエンに到着するとすぐにオルガンを食事に誘った。


「オッケー。じゃあ今晩6時、魔王城の前に集合ね」


 お誘いは拍子抜けするほどあっさり通った。

 アドラは大急ぎで自宅に戻ると普段着のコートを脱いでスーツに着替える。

 これでもいちおう元王族。最低限の礼儀ぐらいはわきまえていた。



                   ※



 約束の時間の30分も前に魔王城に到着したアドラは、そわそわしながらオルガンの到着を待つ。

 サキュバス種は自由奔放な性格なので1時間ぐらいは遅れて来るかもしれない。

 しかしそのぐらいは愛敬の内。

 突然誘ったのはこちらなので何時間でも待つつもりだった。


「アドラちゃんの方から誘って来るなんて珍しいじゃない。いったいどういう風の吹き回しかしら?」


 意外にもオルガンは待ち合わせの場所に時間ピッタリにやってきた。

 普段のサキュバスルックスではなく肩を大きくはだけさせた黒のドレスを着ている。

 いつもより布面積は増えているのになぜかこっちのほうが性的に感じる。

 気のせいだろうか。いや気のせいに違いない。


「いやその……先日おれのわがままにつきあってもらったお礼をと思いまして。あの、もしかしてお嫌だったでしょうか?」


 しどろもどろに答えながら、アドラはついオルガンから目をそらしてしまった。

 今日のオルガンは本当に魅力的な女性だったから。

 あまりにまぶしくて直視しようものなら目が潰れてしまうかもしれない。


「嫌なわけないじゃない。さあ行きましょう。エスコートしてくれるんでしょう?」


 優しく腕を組まれると心臓が飛び出してしまいそうになる。

 内心の動揺を抑えつつアドラは予約したレストランまで案内した。


 黄昏時のキョウエンをオルガンと二人きりで歩く。

 その間、二人は終始無言だった。

 何か話そうかと思ったがいい話が思いつかないし、こうして一緒に歩いているだけでも十分に幸せだったから。


 女性と二人きりで出かけるのはいつぶりだろうか。

 家出して以降一度もないから1000年ぐらい昔だろうか。

 妻を何度かデートに誘ったが、いつも何かしらの理由をつけられて断られていたことを思い出す。

 次第にアドラも空気を読んで誘わなくなったわけだが……。


 ――もしかしておれ、妻に避けられてたんだろうか?


 今頃になってようやくアドラはその事実に気づく。

 帰郷といってよく家を開けるし現在も長期旅行中で不在にしている。

 浮かれてたのは自分だけでその実、冷えきった家庭だったのかもしれない。

 実は家庭でも何でもなかったのだが、そんなことは露にも思わないアドラは自分に何か落ち度でもあったのだろうかと思い悩む。もしくは……。


「急に俯いちゃって……どうしたのアドラちゃん?」

「いえ、なんでもありません!」


 アドラは慌てて首を振って雑念を振り払った。

 家庭の事情は彼女とは無関係。今はエスコートに専念しよう。

 気を取り直したアドラは精一杯の笑顔を浮かべてみせた。

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