戦争を止めろ!
カラクリテンへの無差別砲撃を皮切りに、魔王軍と反乱軍の戦いの火蓋は切って落とされた。
大型魔導兵器を主力にした魔王軍の侵略に対して反乱軍は得意のゲリラ戦で対抗。
しかし予想以上に効果は薄く魔王軍の首都侵入を易々と許してしまった。
燃えあがる建物。逃げまどう都民。我が者顔で闊歩する兵士。
歴史ある機械の街が無慈悲に蹂躙されていく。
館内にいたアドラはその凄惨な光景に愕然としていた。
「どうしてこんなことに……」
「あたしたちが戒厳令を敷いた時点で動いたみたいね。どうもルキフゲに敗北したと思われたようよ」
動揺で震えが止まらないアドラ。反面オルガンは至って平静だった。
「どうしてそんなに落ち着いていられるんですか! こんなこと許されないですよ!」
「あたしだってムカついてるわよ。でもこればっかりはしょうがないじゃない」
ルキフゲとルーファスに踏みにじられたプライド。
しかしオルガンは華よりも実を取る性格。
癪に障るがこれで魔王軍の勝利が確定したことも事実。
早期攻撃早期抹殺は英断ではあるのだ。
だがそれを良しとしない魔族がここにいた。
「戦争を止める方法はありませんか?」
アドラはオルガンをまっすぐ見つめていった。
普段のどこか間の抜けたような顔ではない。その眼には強い覚悟の光が宿っている。
そうやって真剣にしている彼は本当にかっこいい。
オルガンはうっかり見惚れてしまった自分を少しだけ恥じた。
「止める理由なんてあるの? 反乱軍なんて各地で迷惑をかけてる害虫どもじゃない」
「この国には罪のない民衆がたくさんいます。彼らに不当な裁きが下されることは閻魔の息子として許容できません」
「あいかわらずクソまじめねぇ。いいわ、向こうの司令官と少しかけあってあげる」
オルガンは部下に命じて司令官の名前と居場所を探らせる。
もっとも調べるまでもなくだいたいの目星はついているのだが。
調査結果はすぐに送られてきた。
「司令官はガイアスね。まあ当然か、再編成中に動かせる部隊はあいつのしかない」
オルガンは四天王直通の携帯でガイアスに連絡を入れる。
話はすぐに終わった。オルガンはため息をついて携帯を胸元にしまう。
「『寝言は寝ていえ』とのことよ。ホント嫌になっちゃう」
無慈悲な報告にアドラは肩を落とす。
しかしここで諦めるわけにはいかない。
「携帯貸してください。おれが説得してみます」
「無駄無駄。あれは聞く耳持ってない。脳みそ筋肉だもの」
「やってみなければわかりませんよ。とにかく貸してください!」
「借りたければどうぞご勝手に」
オルガンが携帯の入った胸元を差し出すとアドラは顔をまっ赤にしてたじろぐ。
その様子を見てオルガンは笑いながら、
「というわけで、今から実力行使しちゃいまぁぁぁぁ~~~~す♪」
大使館の執務室は市内の状況が一望できるよう一部の壁がガラス張りになっているのだが、オルガンはそれを鋭い蹴りで粉々にぶち壊した。
「知ってるアドラちゃん。四天王はねぇ……舐められたら終めぇなんだよッッ!!!」
オルガンは華より実を取る性格。
よってルーファスに先手を取られたところまでは許容する。
だが魔王未満の有象無象にまで舐められ侮られることは許さない。
舐められること自体が実利を大きく損ないかねないゆゆしき事態だからだ。
もちろんアドラはこれっぽっちも舐めても侮ってもいないし、レヴィンに至っては恐怖のあまり部屋の隅っこにまで逃げ出していた。
「……レヴィンさん。メアド交換しません?」
この魔族とは仲良くできそうだとアドラはなんとなく思った。
少なくとも裏切るなどというだいそれたことは到底無理そうだ。




