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四天王任命

 謁見の間に通されたアドラはさながら小動物の如く震えていた。


 絢爛豪華な玉座に鎮座し値踏みするようにこちらを見下ろすルーファス。

 そしてアドラを拘束するかのように両脇を固める四人の魔族。

 これから自分にどんな沙汰が下されるのか――考えただけで胃が痛くなる。


「頭を上げよ」


 ルーファスに命じられ膝をついていた四人の魔族が立ち上がる。

 それを見たアドラも慌ててそれに倣う。


「貴様等を呼びつけたのは他でもない。其の者の処遇についての話だ」


 ルーファスがアドラを指さすと四人の視線が一斉に集まる。

 どう取り繕っていいのかわからずアドラは愛想笑いを浮かべた。


「アドラ・メノス。本日付けで貴様を四天王に任命する」


 てっきり何かの罪に問われるとばかり思っていたアドラは、わけのわからぬ大抜擢に暫し呆然とした。


 四天王といえば一三ある師団を率いる司令官であり魔王の側近の通称。

 わかりやすくいえば魔王軍のNo.2だ。

 周囲がざわめくのは至極当然のこと。アドラは今すぐ誤解を解こうとしたが、その声は左隣の魔族の怒声にかき消されてしまう。


「魔王様、御戯れが過ぎますぞ!」


 ルーファスに進言したのは石の皮膚を持つ灰色のガーゴイルだった。

 年齢的にはこの場にいる魔族の中で最年長だろう。経年劣化により皮膚にはところどころにヒビが入っている。

 鳥っぽい外見をしているが人の服を着ている。金の刺繍の入った高級な貴族服だ。鋭い爪のついた指にはダイヤの指輪をいくつも付けていた。


 魔軍総司令ネウロイ。四天王が一角にして魔王の右腕。

 アドラも顔ぐらいは知っている有名人だった。


「何の武功もない無知蒙昧な道楽息子に、四天王などという大任が務まるはずがありません! 何卒お考え直しを!」


 至極当然の進言。アドラは何度も激しくうなづいてしまう。

 しかしルーファスは楽しげに笑いながら、


「これは決定事項だ」


 と冷たく却下した。

 それでも諦めず執拗に食い下がるネウロイ。

 次第にルーファスの口もとから笑みが消えていく。


「誰にしようか少しだけ迷ったが……やはり貴様だな」


 ルーファスの掌がゆっくりとネウロイに向けられる。

 同時にネウロイは青ざめた顔で喉を押さえた。


 ネウロイの首を見えない掌が掴んでいた。


 もがき苦しむネウロイ。その身体がゆっくりと持ち上がっていく。

 身体が天井まで上がったところで首の拘束が解かれる。

 すでに反失神状態だったネウロイは自慢の翼を使うこともできず頭から墜落した。


「ネウロイ、貴様を解任する。四天王が五人も居ては不格好だからな」


 吐き捨てるようにいうとルーファスは、残りの四天王にいくつか簡単な命令を与えてから謁見の間を後にした。

 白目を剥いて地に這い蹲るネウロイを見てアドラは恐怖で身震いする。


 やはり噂は真実だった。

 迂闊なことを口にすればネウロイの二の舞。

 しかし自分が魔王の期待にそえないとわかれば、やはり同じ末路を辿るだろう。

 行くも地獄。行かぬも地獄。

 今のアドラに出来ることはただ絶望に打ちひしがれることだけだった。

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