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四天王アドラの憂鬱~黒き邪竜と優しい死神~  作者: 飼育係
第5章 選神戦争 Ragnarok Transcendence
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四天王アドラの終焉

 おはようこんにちはこんばんは。はじめましての方ははじめまして。アドラ・メノスと申す者です。職業は仕立屋、現在は何やかんやあって魔王軍で四天王をやってます。もっとも、四天王といっても今はおれ一人だけなんですけどね。

 ガイアスさんは旅に出て行方不明だし、オルガンさんは地上から帰ってこないし、サーニャさんは地獄で建国中。おかげで仕事が山積みです。みんな戦争は終わったんだからもういいだろ感出しまくってますけれど、ホントに大変なのは戦後処理なんですよ。そこのところを誰もわかってません。いつもやったらやりっぱなしだからホント困りますよ。


 まっ……四天王の面々がフリーダムなのは昔からだし、今さら愚痴っても仕方がないので、気を取り直して近況報告をさせていただきます。


 オキニスを倒し、最後の勝利者となったおれが神権を放棄することで決着がついた選神戦争から約半年――ドラゴン(とシルヴィ)に荒らされまくった魔界はだいたい復興しました。

 サタンの放った障気もスッカリ消えて地上を侵略する必要がなくなり、代わりに地上との貿易が盛んになりました。資源に乏しい魔界ですが技術力はありますからね。これからは技術立国として地上人類たちと共存していくことになると思います。そのための調整役が今のおれの仕事です。


 ちなみにオキニスとはあれ以来一度も会ってません。

 聞けば今はルガウの勇者を辞めて新天地にて王の道を歩んでいるそうです。

 即位早々おれに対して悪態をつきまくっているそうですが、人類を正しい道へと導く立派な勇者王になることを願っています。


 そのオキニスの代理人であるルージィさんは、彼を真の神王にするために奔走中です。枢機卿を辞めた現在、主な仕事は歴史のねつ造だそうです。それって仕事なのかよとツッコんだら負けです。

 最初は四名の王を平等に歴史に残す予定でしたが、やはり人類の王は我が王だけでいいと思い直してエセ歴史家になって裏工作に走ったそうです。ちなみに半年前のおれとオキニスとの決闘もおれが無様に負けたことになりました。

 最初はふざけるなよこのヒョロガリチョビ髭クソオヤジめとも思いましたが、白昼堂々とおれにねつ造の許可を取りにくるルージィさんの面の皮の厚さに免じてOKを出しました。勇者が大魔王に負けたって歴史書に残すのはかなり問題があると思うし、そこはまあいいです。

 最近のルージィさんは色々と無茶苦茶だけど、すごく生き生きとしていて、正直嫌いではありません。これからもオキニスのためにがんばって欲しいです。


 あっ、オキニスといえば、彼がいなくなった後のルガウ島の話を少し。

 おれたちの努力が実ってようやく魔族による独裁を廃止して議会制に移行できそうな感じです。ゆくゆくは地上と魔界との橋渡しを仕事とする国として自立していく予定です。統治管理なんて面倒極まりないし最初からこうするべきだったんですよ。

 今は初代議長を誰にするかで揉めてますけど、おれ的には配管工のマオリさんにやってもらいたいと思っています。地域住民のまとめ役として長年貢献していましたしね。ちょっとだけ学が足りないですけど、そこは義弟のルージィさんが補佐してあげればいいだけでしょう。ああ、モモさんが軽く洗脳してたというだけで実は赤の他人でしたっけ? 今でもすごく仲がいいからスッカリ忘れていました。何なら嫁のモモさんよりも仲良さそうに見えます。


 そういやモモさんって元教皇らしいですね。最初は何の冗談だろうと思いましたけど、よく考えたら教皇でまともな人ってガブリエル聖下ぐらいなのでかえって納得しました。ジャラハさん曰くあの人も結構なロクデナシらしいですけど。

 あ、いや、別に教皇をディスってるわけじゃないですよ。ただ突然ハルメスさんに呼び出されて何事かと焦って来たらダスクさんと一緒に飲み屋のハシゴをさせられたり、未だにおれを神にすることを諦めていないウリエルさんを見てると……うん、まあ……色々と思うところがあるわけですよ。

 ミカエルさんとは選神戦争以降仲良くしてますけれど、お世辞にも正常まともとはいい難い御方ですからね。政治家は玉虫色、清濁併せ持つべきとか口癖のようにいってますけど絶対濁の部分のほうが多いですもの。そのせいで色んなところから突き上げを食らってるんだから少しは悔い改めて欲しいものです。さすがに麻薬製造と軽犯罪者に対する過剰な懲罰は即行やめさせましたけどね!


 ああ、あとジャラハさんはもうルガウにいません。「やりたいことはだいたい済ませたしもういいか」とかいってようやく地元に帰ってくれました。目の上のタンコブだったので正直すごく助かります。王になったヴァイスさんが連れ戻しに来なかったら今でも居座ってたかもしれないと思うとちょっとしたホラーです。

 いちおうルガウはキュリオテス領なのですが、此度めでたくジャラハさんから正式に独立を認められました。これで大手を振って貿易ができます。それとガイアスさんに会ったら「おれと勝負してから勝敗関係なくキュリオテス王になれ」と伝えておくよういわれましたが……勝負はともかく王の件は絶対断られますよ。今ならおれもハッキリといえます。あんな国、おカネをもらっても要りません。それでも喧嘩バカたちにとってはユートピアなんでしょうけどね。


 ――まあ、何やかんやで、サタンを倒した後の世界は、良い方向に進んでいると思いますよ。


 リドルくん……今は亡きおれの親友は、減らすこと、殺して排除することで世界を平らに均そうとしていました。だけどおれは逆に資源リソースを増やして、へこんだ所を埋めることで世界を均していくほうがずっといいと思っています。現在、魔界を筆頭とした国家間の貧富の差はずいぶんとなくなってきていると肌で感じています。

 世界が平らに近づいたことで争いは確実に減りました。あくまで一時的なものかもしれませんが、その変化の一端に貢献できたのは誠に誇らしいことだと思っています。そういった国際情勢を踏まえて、これからおれが話す内容に一定のご理解をいただけたらと思います。




 お れ の 借 金 も 平 ら に し て く れ よ ! ! !




 いいだろそのぐらい! 今回おれめちゃがんばったんだからさ! 自己評価甘いかもしれんけど、かなり世界平和に貢献しただろ!? なあ魔界銀行!!? 百歩譲って利息ぐらいはまけてくれよ! サタンとやりあってる最中にまで増えてるとかねぇわ!!

 王だとか英雄だとか、そういうおためごかしの言葉なんて要らねえんだよ! 欲しいのは華じゃなくて実! 実利だよ実利! 当たり前だろ! 借金棒引きしてくれとかおれからは口が裂けてもいえねーけど、その辺はそっちが気を利かせてさ! 世界が平和になってずいぶん魔界の富も増えただろ? だったら積極的に貧富の差を埋めていこうよ! 主におれの貧を!!

 つうかさ、おれなんで今でも四天王の仕事を必死こいてやらされてるわけ!?

 こんな他人の顔色ばっか窺う仕事やりたくないし、忙しいわりには給料もそんな良くないし! いや高給もらうわけにはいかないっていったのおれだけどさ! そこは遠慮してるだけだってわかるだろ! もうちょっとこう……空気を読んでくれよ! 空気をッ! うちの父さん母さん、御役目終わったから遅めの新婚旅行ハネムーンとかで世界一周の旅を楽しんでるのに、息子だけ働きづめってあんまりだよ! こんなの絶対におかしいよ! 有給くれよ!! いや有給はあるんだ、それを使わせろ!!!



 ……あれ? 今気づいたけど――おれの当初の問題、何ひとつとして解決してなくね?



 家は焼けたまんまだし借金は増えてるし嫁さんは詐欺だったし新しくできた婚約者は音信不通だし職場はブラックだしいいことないじゃん。何もないじゃん。

 この有様でなんでめでたしめでたしみたいな空気感出してるわけ? しかも今回で最終回って……残り一話でどうやってハッピーエンドに持っていくんだよ。どうせ未来だの世界だの壮大な事いって曖昧に締めときゃそれっぽいだろとか思ってんだろ。冗談やめてくれよ、無理だよぜってー終わらねぇよ。何がネバーエンディングストーリーだよくそったれが。このままじゃおれだけバッドエンド確定だっつうの。第三の “持たざる者” の誕生だよ。もうダメだ何もかもおしまいだ。首が回らなくなったら首を吊るしかねえんだよ。


 ――いや待て。ちょっと待て。諦めたらそこで人生終了だ。今からでも遅くはない。ここから一発逆転する方法を考えようじゃないか。


 うん……決めた。とりあえず今の仕事は辞めよう。そして魔界では有名になりすぎて動きづらいから地上に出よう。


 風の噂でミーザル地方のミレノという国でファッションの祭典をやってるという話を聞いたことがある。どうにかしておれもそこに参加しよう。そして一躍有名になって大儲けして借金を返して大邸宅を建ててからそこにオルガンさんを呼ぼう。

 いいじゃないかいいじゃないか。有名ファッションデザイナーになれて借金も返せる一石二鳥のナイスアイディアだ。ネメシス母さんもそのほうがいいよいいよナイスアイディアだよさすが我が分身だっていってるよ、たぶん。


 そうと決まれば善は急げ――さっそく魔王様に辞表を叩きつけにいこう!



「魔王様! 四天王を辞めさせてくださいッ!!!」



 久しぶりの謁見の間にて魔王様に懇願する。

 互いに忙しい身分だからこうして顔を見れるだけでちょっと嬉しい。今日で見納めかと思うと尚更感慨深い。


「あいわかった。手続きはこちらで済ませておこう」


 ……なんかヤケにあっさり通ったな。


 必要とされていないみたいでちょっと寂しいけど……まあ辞められるなら何でもいいかな……。

 もう上司と部下の関係じゃないから役職名で呼ぶ必要はないよね。普通に名前で呼ぼうっと。


「いいんですかネウロイさん、こんなクソ忙しい時期に軍を抜けちゃって?」

「構わんよ。一人二人抜けた程度でどうにかなる組織にはしていないからな」


 サーニャさんの『ゾンビランドサーニャ計画プロジェクト』のためにルーファス様が親衛隊を引き連れて地獄に出向してから、その後継としてネウロイさんが魔王に就任しました。

 正確には渋るネウロイさんにおれが押しつけました。

 昔もう四天王には戻らんっていってましたけど、魔王に就任しないとは一言もいってないからいいですよね?


「さすがはネウロイさん。あなたが頂点に君臨している限り魔界は安泰だ」

「調子いいこと抜かしおってからに。ただの責任逃れだろうが」


 え? いやいや、これは決して責任逃れなんかじゃないよ? ネウロイさんが魔王ならおれがやるよりぜんぜんいいし極めて合理的な判断だよ。そもそもおれは人の上に立つ器じゃないからね。

 同じ理由で炎滅帝の座もイビルにくれてやったけど、こっちは正直かなり不安だ。まあ何かあったらネウロイさんがどうにかしてくれるか。あいつも大概小賢しいけどネウロイさんは格が違うもの。


「過ぎたことをいっても仕方がないか。最終的には儂も納得して就任したわけだしな」

「おっしゃるとおりです。その調子でおれの後任探しもお願いします」

「ああ、それならすでに決まっている。いい機会だしここで紹介しよう」

「……え?」


 ネウロイさんが指を鳴らすと、彼の背後から鎧姿の艶やかな女性が颯爽と現れた。


「新魔王軍総司令ルキフゲ・フォロカレだ。知っておるかもしれんが彼女はルーファスの一人娘だ。いずれは魔王わし地位あとを継いでもらう予定でもある」

「お久しぶりですアドラ様、あなた様の後継に選ばれたこと、この上なき光栄です。不肖の身なれどより一層の精進をいたす所存です」


 うわ出た! 懐かしのクーデターコンビ! おれあんたを追ってカラクリテンくんだりまで出向したんだよ! 正直あれは辛かった!

 それにしても……ルーファス様の娘ねぇ。まあ、薄々そうだとは思ってたけどね。詳しい経緯はよく知らないけど父親と和解したみたいでホント良かった。

 話には聞いてたけど、本来の姿に戻った彼女は、見れば見るほどサーニャさんにソックリだなぁ。髪を切ったらまんまじゃないかな。パンピーのサーニャさんが不死人になってルーファス様の側近になったのって、つまりそういうことだったんだね。ルーファス様も人の子だったんだなぁ――って、今はそんなことはどうだっていいんだよ!


「待って待って! いくらなんでも手際が良すぎるのでは!? まるであらかじめおれが辞めることを想定してたみたいな流れじゃないですか!」

「そらするわ。日に一度は辞めたいと愚痴ってると報告を受けておるからな」


 ……言ってたっけ、そんなこと? とんと記憶にございません。


「いやまあ、それはひょっとしたら事実かもしれませんけど……だからといって事前にここまで準備されてるのはちょっと……そんなにおれ、要らない子でした?」

「さっきまで辞めたがってたくせに相変わらず面倒臭い奴だな。無論、儂個人としては魔王軍ここに残ってもらいたいとは思っておるよ。だがおまえには新たな職場が待っておるからなぁ」

「はい?」

「というわけで――ダラクッ!!」


 ネウロイさんが手を叩いて呼ぶと、いつの間にかおれの全身は縄で縛られていた。


「捕縛完了にゃ」

「ご苦労」


 ダラクくんは相変わらずはやいなぁ。武闘大会で観た頃よりさらに疾い。おれまったく反応できなかったよ。対人限定ならたぶん世界最強の勇者だろうなぁ。それって勇者としてどうよって思うけど、まあ半分魔族だしいいのか。


 ……今さらだけど、なんで君、魔王軍の親衛隊隊長なんてやってんの?


 いや、その圧倒的な強さで魔王軍の権威に貢献してるから別にいいんだけどさ。どうしたんだよソロネ聖騎士団は。クビか? リストラか? それとも最初から入団しなかったのか?

 よくわからないけどネウロイさんに拾われたのはラッキーだったね。おれも誰か拾ってくれないかな。もちろんファッションデザイナーとして。


「……ネウロイさん、質問いいですか?」

「いくらでも」

「なんでおれ、縛られてるんですか?」

「そこまで心配はしておらんが、万が一にも逃げ出されては困るからだ」

「おれは逃げませんし意味もないですよ。こんなショボい細縄」

「ショボくはないぞ。その縄はウロボロスの皮をなめして作られているからな」

「――ッ! まさか、どれだけちぎっても元通りになる無限の再生力がっ!?」

「さすがにそれはない。ただの祭事用のしめ縄だ。多少の魔力は篭もっておるがおまえなら難なく引きちぎれるだろう」

「だったらなんで……」

「ただしとんでもなく高級たかいぞ」

「……」

「もしちぎったら弁償してもらう」

「えええええええええええええええええええええええええッ!!!」


 なるほど確かにこれは決してちぎれない。

 おれの性格を見透かした完璧な拘束だ。さすがはネウロイさん……って感心してる場合じゃねえよ!


「ネウロイさん――おれ、何か悪い事でもしましたかぁ!?」

「詳しい事情は当人たちに訊くといい。ちょっと待っておれ」


 そういってネウロイさんは魔導通信を使って誰かに連絡を入れる。

 端末ひとつで魔界のどこででも会話できるんだから便利な世の中になったものだ。

 そしてその当人とやらはすぐにやってきた。どうもあらかじめ魔王城で待機していたらしい。


「陛下――ご所望の品、確かに納品いたしました」

「さすがはネウロイ殿。いつもながら素晴らしい手腕だ。お忙しいところ手間をおかけして誠にもうしわけない」

「いえいえ、今後とも同盟国として末永くやっていくために、当然の事をしたまででございます」

「これで貴国との友好関係はますます盤石となるだろう」


 そういって二人はガッチリ握手して笑いあう。


 ……陛下って誰だろうかと思って身構えてたら、なんだエリじゃないか。あ、もちろん初代じゃなくて当代のほうね。初代のほうは今でもおれの中でサタンとイチャイチャしてるよ。爆発しろよ。


 あ、背後にはシルヴィも控えているな。二人ともなんで魔界に居るんだろうか。政務はどうした政務は。ソロネは今、色々と忙しい時期だろうに。オズワルドさんホントかわいそう。今頃また聖王像を切り刻んでるだろうな。


「なあエリ、いったいこれは何の冗談だい」

「それはこちらの台詞だ。戴冠式の予定日はとうに過ぎているというのに、いつまでこんな場所で遊んでいる? なかなか戻ってこないから迎えにきたぞ」

「?」

「そのクエスチョンマークは何だ。あなたにはソロネ王としての自覚がまるで足りていない」


 ……………………?


 …………


 ……



 ああ、そういえば、そんな話があったような、なかったような……。



「でもあれってサタンを討つための英雄を生み出すための制度でしたよね。君はサタンと共に戦う戦士が欲しくて、おれは魔界と交渉するための後ろ盾が欲しくて、いわば利害の一致による一時的な共闘関係だったわけですよ。すでに双方めでたく問題解決したわけですし、契約は無事果たされて終了したのでは?」

「それこそ何の話だ。私は勇者の試練を経てあなたを人生の伴侶に決め、あなたはそれを確かに承諾した。それだけだ。約束の反故は許されない」


 ……――んん? そんな話だったっけ?


 その辺の記憶がどうにも曖昧なんだけど……――


「仮に! 仮にそうだったとしても、もうしわけないけどその約束はなかったことにしてください! だっておれ、すでに将来を誓いあった婚約者がいますので!!」

「オルガン殿ならソロネに領地を確約したら喜んでOKを出してくれたぞ。というか、すでにソロネに移住している」


 オルガンさあああああああああああああああああん!!

 なかなか魔界に帰ってこないからおかしいと思ったら!! いや、もともとソロネ領地狙いの婚約だったから責められないけどさぁぁぁっ!! てか最近やけに幸せそうにしてた理由ってそれだったのぉぉぉっ!!?


「すでに外堀は埋まっている。さあ行くぞアドラ」

「いやいやいやいやいや、しかしですね……ッ!」

「確かに私はあなたの運命の勇者ではなかったのかもしれない。だが運命の女性にはなれると思うんだ」

「それはないです! もっと歳の差とか考えて!」


 おれは自称常識竜のサタンと違ってロリコンじゃないんだよ!

 1000も2000も歳が違う異性を女としては見れないんだよ!!

 常識的に考えてくれよ常識的にっ!!!


「歳の差? 実にくだらない話だ。女の魅力は年齢ではないぞ。なあシルヴィ」

「姉様のおっしゃる通りです。むしろ若い果実のほうが瑞々しくて美味しいということをこれからアドラ様にゆっくりと教えてさしあげます」


 朗らかに笑いながら二人の勇者がおれの両脇を固める。

 まずい、このままではマジでソロネに連行されてしまうぞ。

 いやいやそれは困るから! 王様とか柄じゃないっておれは炎滅帝になって骨の髄まで思い知らされたから! 決して絶対、二度とやらないぞ!!


「助けて、ネウロイさん……!」


 おれの必死の懇願を受けて、事態を静観していたネウロイさんは、ついにその重い腰を上げてくれた。

 やはり最後に頼りになるのはこの御方しかいない。さすがは歴代最高の魔王――いや新世界の豊穣神様だ。


「実はなアドラ、現在ヴァーチェ大陸は大戦争勃発の瀬戸際なのだ」


 ……え?


「先日グロリアのサタンへの関与が明らかになってしまったからな。もちろんグロリア側は否定しているが、それでヒエロとサーモスが納得してくれるはずもなし。先の大戦で疲弊しているから開戦していないというだけの状態といっていいだろう」


 いわれてみれば……おれは上っ面だけを見て平和になったと思い込んでいたけれど、水面下では結構ヤバい情勢なのかも。


「先日ミカエル殿から仲裁の要請が来てな、もちろん儂は快く受けたよ。サタン討伐の件に対する借りがあるというのもあるが、宗教を理由としたあまりに無益極まりない戦争だからな」


 ま……まさかと思うけど……。



「儂はおぬしがソロネの王となり、周辺諸国の仲を取り持つのがベストと判断した」



 やっぱりそうきたかあああああああああああああああああああああっ!!!



「ヒエロはソロネを無視できんし、サーモスはお主を無視できん。人類ソロネ王アドラの誕生は世界平和に大きく貢献することだろう」


 そりゃそうかもしれないですけどぉ! おれの! おれ自身の人生は一体どうなるんですかぁ!?


「ネウロイさん! おれにはミレノに渡って一流デザイナーになるという夢が!!」

「戦争でミーザルが潰れたらミレコレもクソもあるまい」


 そしてネウロイさんはおれの肩を叩き、やけに気持ちのいい笑顔でいった。



「アドラよ、世界平和の礎となってこい」



 そんなあああああああああああああああああああああああっ!!!



「では行こうかアドラ。失った夫婦の時間を今から取り戻そう」

「ご安心くださいアドラ様。怖いのは最初だけ。すぐに気持ち良くして差し上げますから」



 必死の抵抗むなしく、おれはエリとシルヴィにズルズルと引きずられていく。

 どうやらおれは世界平和のためにネウロイさんに売られたらしい。


 ソロネは初代聖王が嫌われ者のサタンとでも平和に暮らせる場所をってことで、天使ソロネと結託して流刑地を利用して興した国だと本人から聞いた。そこの王様になるなら平和の象徴としてこのうえない誉れ――……



 ……――って、んなわけねえだろ!!!



 ぬぁにが平和の象徴じゃい! 今現在おれの平和が脅かされてるっつうの!! つうか好きな男とイチャコラしたいがためにおっ建てたんだから平和っつうより性欲の象徴だろが!!! 誉れもクソもあるかい!!!!


 あーくそ、なんか今更になってサタンのいってたことが全部正しかったような気がしてきた!!

 ああ見えて実は弟想いのいい兄さんだったんじゃなかろうか!?

 チキショー、こうなったらおれが第二の人類悪になってやろうか! ちょうどいい悪事を思いついたから今から発表するぞ!!



「覚えてろよネウロイさん! 艱難辛苦を乗り越えて、いつかおれが魔王の地位に返り咲いたら、その時はここキョウエンのど真ん中にあんたの偉業を讃えた金の像をおっ立ててやるからな! 金メッキじゃないぞ、最後まで金たっぷりのスゲー純金製だぞ! それを見た未来の市民はどう思うかな? きっと『うわ、この人趣味悪ッ!』って内心あざ笑うだろうねぇ! そしていつの日か魔界に革命が起きた時、真っ先に市民の手によって引きずりおろされるんだ! そんでもってすぐに溶かされて金貨となり財政の足しとなるのだ! それはきっとあなたの汚点として歴史に永遠に刻まれることとなることでしょうね!! ふはははっ、どうだ恐ろしかろう! こんな悪事を思いつくとはおれはなんたる極悪人だろうか!!」

「いいからさっさと行け」




 四天王アドラの憂鬱 完

アドラの四天王生活はこれにて終了です

ここまでのご愛読本当にありがとうございました

最後におまけがあります

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